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王立図書館 2

 白を基調とした大きな建物。

 豪華な造りは、王城の次に目立つものであるのに、下品な派手さが全くない。

 繊細な彫刻が施された門の前に立ち尽くし、夢にまで見た王立図書館の前に自分が立っていることを信じられず、目も口もふさがらなくなってしまっていた。


「エレナ、この入館証を首から下げて。図書館から出るまで、絶対に外してはいけないよ」


「は‥‥‥はい!」


 シルヴィオ様の声で我に返り、受け取った入館証を首から下げて、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


(私は、シルヴィオ様の護衛。ここには、私が魔術書を読むために来たけどシルヴィオ様を護衛するという名目のもと来ている。いつもみたいに、本を読んでいて気付いたら閉館時間になっている、なんてことになってはいけない。私は護衛。護衛。護衛‥‥‥)


「私が本人確認をした後、エレナ達の入館許可証も確認される。職員に任せておけばいいから、身構えることはないよ」


「‥‥‥はい」


 王立図書館は王族、若しくは伯爵以上の爵位のある貴族しか入館できないが、入館権のある貴族でも、好きに出入りできるわけではない。

 出入りするためには、まず王立図書館に登録して入館証と、必要に応じて護衛の入館証の発行手続きを行う。

 手元に入館証が届けば、王立図書館に入館することができるが、いつでも自由には入館できない。入館するたびに入館証を用いて本人確認され、付き添いの護衛の持つ入館証も本物であるか確認される。

 慣れた手つきで本人確認、基、入館手続きを終えたシルヴィオ様の後に、エルトン様、アーウィン様の順で入館証を確認される。最後に私の入館証も確認され、問題なく図書館に入る許可が下りた。


「エレナ、閲覧室はこっち」


 図書館に入ってすぐ、入館証の確認をした場所は小さな小部屋のようになっていた。

 シルヴィオ様に続き、入り口と反対の扉を開けて足を踏み入れると、そこには本の森が広がっていた。

 見渡す限り、本、本、本‥‥‥。

 適度に保たれた室温と湿度。本に直接日光が当たらないように設計された天窓。

 天井は見上げるほど高い。

 入口から向かって左側には本の貸し出しカウンターがあり、右側には読書スペースとなるテーブルが設置されている。

 カウンターと読書スペースを超えた先には、私の身長よりも高い本棚が並んでいる。

 これらを取り囲む壁には、高い天井のぎりぎりのところまで本棚が埋め込まれている。

 本棚には分類分けされた本が整然と並んでいる。

 そして、紙の匂い。インクの匂い。

 本をめくる音。高いところの本を取り出す魔道具や、貸し出し処理をする魔道具、読みたい本を探すための魔道具、照明魔道具、空調魔道具が動く音。

 初めて足を踏み入れる場所は、私にとって幸せな空間が広がっていた。


「わぁ‥‥‥」


 勝手に感嘆の声が漏れてしまい、両手で頬を押さえて、口角が上がりそうになるのを必死で抑える。


「ここの本は好きに読んでいいものだ。読みたい本が見つからなかったら、あの魔道具を、ってエレナなら使い方も分かるかな」


「‥‥‥はい!」


 いつものように気持ちを落ち着かせようとするが、いつもとは違う状況だからか、高ぶった気持ちのまま返事を返してしまう。

 だけど、今はそのことを気にしていられない。目の前には、私の夢が広がっているのだから。


「ふふ。じゃあ、私は好きに過ごしているから、エレナも‥‥‥」


「「レオーネ隊長、お疲れ様です」」


「おや、君たちは、仕事かい?」


「「はい」」


 声の方に目を向けると、そこにはレジナルド様と、ロナルド様、第1部隊副隊長のお2人が立っていた。

 第1部隊の仕事は王都にある主要施設の警護だったはず。レジナルド様とロナルド様の担当施設はここ、王立図書館なのだろう。‥‥‥なんて羨ましい。

 すぐにでも本の森にダイブして、未知の文章の世界に飛び込みたかったが、王立図書館に私が立ち入ることのできたのは、シルヴィオ様の護衛という口実があるからだ。シルヴィオ様の許可が下りそうだった所で話しかけられてしまい、シルヴィオ様から離れることはできない。

 そわそわした気持ちを落ち着かせ、目を本に向けてしまうと読みたい衝動を抑えられないからと、普段は自分から人に目を向けることがないが、今日だけは本に目を向けないためにレジナルド様とロナルド様に目を向ける。


「「エレナさんも、お疲れ様です」」


「‥‥‥お疲れ様です」


 じっと見つめていたら、いつかは目が合う時が来る。

 何とか取り繕って向けられてた挨拶に返し、シルヴィオ様達の会話が終わるのを待つ。


「ラムレイ隊長は休みかな」


「いえ、休みではありませんが、」


「5の大鐘が鳴る前に、王城から呼び出しがかかりまして、」


「王城に出向いております」


 顔を見合わせて、交互に説明する2人は、少し困ったことがあったという様子だ。


「何かあったのかい?」


「詳しいことは、我々にも知らされておりません」


「ですが、どうやら隊長を呼び出したのは、ヴィノリーナ国第4皇子のようです」


「そうか。面倒な事にならないといいけれど」


 私達が王立図書館に来たのは、5の大鐘が鳴ってからだ。

 難しい顔をするシルヴィオ様達を前に、私は心の中で落胆する。もう少し早く来ていたら、モナさんと会えていたかもしれない。

 だが、沈んだ気持ちはすぐにどうでもよくなる。


「「申し訳ありません、お時間をとってしまって」」


「いや、構わないよ」


 はっとしたように顔をあげたレジナルド様とロナード様が頭を下げ、仕事に戻っていき、シルヴィオ様が私に向き直る。


「私はそこで好きに過ごしているから、エレナも気が済むまで本を読んでおいで。貸し出しは私の名前でするから、借りたい本があれば声をかけて」


「‥‥‥はい!」


 漸く本に触れることを許され、シルヴィオ様が1冊の歴史書を選び取って読書スペースのテーブルに着いたところまで見守り、本の森にダイブする。もちろん、図書館のルールを破ってなどいない。


 結局この日、私達は閉館時間ギリギリまで王立図書館にいたが、モナさんが図書館に戻ってくることはなかった。

 「モナさんに会いたかったな」と森の家に帰ってから思ったが、そう遠くない未来に会えるだろうという考えに至り、その考えはすぐに消え去っていた。


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