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存在しない魔力 2

 人は、この世の生き物は、量に差こそ見られるものの、生まれた時から魔力を持っているとされている。

 稀に、魔力を持たずに生まれてくる者がいる。生まれつき魔力を持たない彼らは、【ウニロ】と呼ばれる。

 魔力を持たない【ウニロ】は、魔力を感じ取ることができない。己の内に存在しないものは、感じ取ることができない。当然他者の魔力を感じることも、他者の魔力に当てられることもない。

 逆に、【ウニロ】ではない者、魔力を持つものは、魔力はあって当たり前のものである。つまり、生まれた時から自然と感じることができる。魔力を見ることができる者とできない者はいるが、見えない者も、感じることはできる。

 因みに私は前者、魔力を見ることができる者だ。魔力の流れで、その人の感情や疲労感を知ることができる。

 加えて、魔力の流れを見て、その人が魔力制御を得意とするか、苦手とするかも知ることができる。

 だから、私はシルヴィオ様が魔力制御が苦手だと、ずっと前から思っていた。だが、実際は違った。

 シルヴィオ様は、魔力制御が苦手なのではなく、そもそも魔力を感知できていなかった。


「ですが、シルヴィオ様は【ウニロ】ではありませんよ」


 シルヴィオ様は魔力を持っている。それもとんでもない量の魔力を。シルヴィオ様は、【ウニロ】ではない。

 自分で言っておきながら、私はシルヴィオ様が魔力を感知できていないことに納得できていない。これ程の魔力を持っていて、自分の魔力を感じることができないというのが、理解できない。

 エルトン様も、アーウィン様も、私の言葉に納得できている様子はない。

 でも、納得するしかない。理解するしかない。

 燃え上がる炎に驚きながらも、私の出現させた水球が大きくなっていくことを不思議そうに見ながらも、シルヴィオ様は自分の魔力が吸収されていることに気付いていなかった。

 炎だけでは確信できなかった。確信したのは、その後の水球だ。


「‥‥‥シルヴィオ様。先ほどの水球に、何か感じましたか?」


「何か、とは?」


「……水球が成長するにつれ、頭が痛くなったり、目眩がしたり、しませんでしたか?」


「いや、特に何もないよ」


 エルトン様とアーウィン様を見ると、それがどうしたのだという顔をしていた。2人にはシルヴィオ様の魔力から守る、対魔力防御結界を張っている。つまり、今はシルヴィオ様の魔力を感じることはできない。

 魔力を視認できない人には、私が生み出した水球は、私が魔力を注いで成長させていたように見えていた筈。つまり、2人には魔力が見えていない。


「‥‥‥先ほどの水球は、私の魔力で生み出しました。生み出した後、あの大きさにしたのは、シルヴィオ様の魔力です。水球は、シルヴィオ様の魔力を吸って、あの大きさになりました」


「「?!」」


 エルトン様とアーウィン様は、私の言いたいことを理解したらしい。


「それがどうしたのかな?」


 理解できていないのは、シルヴィオ様だけ。


「‥‥‥水球を作ったのは、私です。私が作った水球は、シルヴィオ様の魔力で成長しました。魔術は、1人で展開させるものです。作り出す人と、魔力を注ぐ人が違うという事はありません。ありえません。それをしてしまった場合、魔力を注ぐ人の体内に、作り出した人の魔力が侵入して、不快感を覚えるものです。注がれる魔力量が多くなると、目眩や頭痛、意識障害が起きる可能性があります」


 ここまで言って、シルヴィオ様は漸く理解したようだ。宝石のような目に、驚きの感情が生まれた。


「‥‥‥シルヴィオ様は、何も感じていなかったのでは、ないですか?」


 自分の魔力が、私の生み出した水球に吸われていたことに。私の魔力が、シルヴィオ様の体内に入り込んでいたことに。私の魔力と混ざり合う不快感に。


「私は、魔力を注いでいたのか?」


 やはり、シルヴィオ様は気付いていなかった。何も感じていなかった。


「……先程、修練場内に広がる炎は、シルヴィオ様の魔力を吸収していました」


「あの時も……?」


 これも予想通り、気付いていなかったようだ。


「……シルヴィオ様、申し訳ありませんでした」


 やはり、シルヴィオ様は、魔力を感知していない。初めからそうと知っていたら、私は彼に全力を出させなかった。シルヴィオ様の身を、危険に晒すこともなかった。


「何故、エレナが謝るんだい?」


「……私の、推測が間違っていました。それによって、シルヴィオ様を危険な目に合わせてしまいました。あのまま炎が燃え続ければ、シルヴィオ様は魔力が尽きて、命を落とす可能性がありました。シルヴィオ様の魔力量が多かったのが、唯一の救いでした」


 魔力を感知できていないのと、制御が苦手なのはまるっきり別物だ。感知できていないのだから、制御しようとも思わない。

 あの時私が強制的に鎮火させなければ、シルヴィオ様は魔力を使い切って命を落としていたかもしれない。


「だが、エレナはそうなる前に助けてくれたのだろう。見ての通り私は無事だ。気に病む必要はないよ」


 シルヴィオ様はそう言ってくれるが、私はそこまで割り切れない。

 私の判断ミスで、彼は命を落としていたかもしれないから。命が1つ失われていたかもしれないから。


「とは言え、そう簡単に割り切れはしないか。それならエレナ、1つ約束をしてくれるかい?」


「……約束、ですか?」


 俯いていたい気持ちを堪えて、人差し指を立てて笑うシルヴィオ様と目を合わせる。私と目が合ったシルヴィオ様は、キラキラ輝く目を細めて、人差し指を立てていた手を開くと、それを己の胸に当てた。


「ああ。私が立派に魔力を扱えるように稽古をつけると、約束してくれるかな?」


「それは……」


 昨日、シルヴィオ様に依頼されてから、私は魔力制御の方法の特訓をすれば何とかなると思っていた。でも、シルヴィオ様の課題は魔力制御ではなくて、魔力を感知するところだと知った今、私はシルヴィオ様にどう稽古をつけたらいいか分からない。魔力を持っているのに、魔力を感知できない人が存在するとは思っていなかったから。今まで読んできた本の中に、魔力制御の方法が書かれたものはあっても、魔力感知の方法が書かれたものはなかった。魔力を持っている人にとって、魔力感知はできて当たり前のことだから。更に、魔力を持っていない人、【ウニロ】は魔力感知をしようとも思わないから。

 私は、どうしたらいいのか分からないままシルヴィオ様が魔力を扱えるように、魔力を感知できるようにしなければならない。はっきり言って、難しい。いや、私には出来ないと思う。

 かと言って、素直にできません、とも言えない。すでに仕事は受けてしまっているから。


「……全力を、尽くします」


 だから今の私は、これしか言えない。

 もしかしたら、今後も私はシルヴィオ様の命を危険に晒すことがあるかもしれない。

 シルヴィオ様は私を頼っているのに、私は彼の満足がいくように応えられないかもしれない。それが酷く悔しい。怖い。


「それで充分だよ」


 だけどシルヴィオ様は、それでも満足だと優しく笑っていた。シルヴィオ様は覚悟を持っていた。昨日から。

 それなら私は私に出来る全力を尽くすしかない。


「さて、エレナ。これで終わりには、しないよね?」


 シルヴィオ様は、まだやる気だ。話をしていた間に、シルヴィオ様の魔力も充分回復している。元々定めていた時間も充分に残っている。それなら私も、まだ終わるわけにはいかない。


「……はい。時間まで、色々やってみます」


 この日私は、久しぶりに魔力を限界まで使った。

次回は2月5日の予定です。

……そろそろアウローラをもふりたい。

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