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魔力感知 1

 ()()()()()終わった午前の見回りの後、私達は再び騎士団に戻って書類仕事、申請書の処理に取り掛かった。午後になって、クレア様達の見回りの時に、街でちょっとした喧嘩があったくらいで、これといったことは起きなかった。今日、管理室に置かれていた申請書は、7割以上が片付いた。明日、また新しく届くらしいが、続きは明日にと、帰ってきたのが今。

 公爵様からの依頼はこれで終わり。早く帰りたい、が、私にはまだ仕事が残っている。


「エレナ、こっちに修練場がある。そこでやろう」


 今日は火の日。今度はシルヴィオ様個人から依頼された、彼の稽古だ。

 帰りたい気持ちを(こら)えて、シルヴィオ様について、本邸の隣にある小さな建物に向かう。シルヴィオ様が言っていた、修練場だ。

 本邸と比べると小屋のように小さな建物だが、実際は私の家よりも大きい。

 広々とした空間は、剣術や体術だけでなく、魔術、特に飛行魔術の練習もできそうなくらい、高さも十分にある。さすが、ヴェルデ領を治める貴族だ。敷地内に、こんな立派な修練場があるなんて。


「それで、何からすればいい?」


 シルヴィオ様は、何故かすごくやる気だ。宝石のような紫の瞳を、少年のようにキラキラ輝かせている。


「……じゃあ、私に向かって、全力で攻撃魔術を仕掛けてください」


 まずは、実際に魔術を使っているところを見たい。使っている時といない時とでは、魔力の動きが大きく変わる。


「全力で、かい?」


「……はい、全力で」


 シルヴィオ様が戸惑うのは分かる。


「エレナさん。室内で全力を出すのは危険かと」


 エルトンさんが心配するのもわかる。

 シルヴィオ様程の魔力量で、それも密閉された空間で全力を出してしまうと、シルヴィオ様が狙う私だけでなく、エルトンさんやアーウィンさん、それからシルヴィオ様自身も命の危機がある。

 でも、私は彼の全力を見たい。力を抑えた状態では、正確な判断ができないから。


「……大丈夫です。何とかします」


 ただ無責任に見たいと言っているわけでは無い。危険であることを承知した上で、その危険を回避する方法を考えての発言だ。

 まだ不安そうな、それでも「承知しました」と頷いたエルトンさんが、私の後ろに下がる。

 緊張感を持って頷いたシルヴィオ様を確認して、私は彼にかけていた対魔力防御結界を解除する。と同時に、私自身と、エルトンさんとアーウィンさんに、対魔力防御結界を展開する。もちろん、シルヴィオ様の魔力から守るために。


「じゃあ、行くよ」


 深呼吸をして、シルヴィオ様は呪文を唱える。


(これは、火属性の攻撃魔法)


 そうと理解した私は、彼の呪文が完成しきる前に、防御結界を、火属性の攻撃魔法に特化した防御結界を、私と、エルトンさんとアーウィンさんと、()()()()()()、それから()()()()()()()()()展開させる。

 私が結界を展開させたのと、シルヴィオ様の呪文が完了して、攻撃魔術が展開したのは同時だった。一拍おいて、修練場内に、爆発音が響き渡った。


「?!」


「シルヴィオ様!」


(やっぱり)


 シルヴィオ様が展開させたのは、火属性の攻撃魔術の初級だ。呪文によって生み出された火の玉を、狙いを定めて放つだけの簡単なもの。大体握り拳から人の頭部程のサイズの火の玉が操作しやすく、練習でも実践でも、そのくらいの大きさが使われる。

 が、シルヴィオ様が発生させた炎は、握り拳なんて可愛らしいものではなかった。加えて、玉の形をしていなかった。彼が発生させたのは、シルヴィオ様の体よりも大きく燃え上がる、大きな火柱だった。

 その時点で、他者に向けて放つのは危険である。が、私はその先を見たかった。だから止めなかった。私に止められなかったシルヴィオ様は、()()()使()()()火柱を動かした。そして火柱は、爆発した。

 四方八方に飛び散る、火柱から分離した火の粉が、修練場内に、私達に降り注ぐ。が、ここからは私も予想外だった。

 分離した火の粉は、どれも指先ほどの小さなものだったが、瞬きする間に大きく成長して行く。その様を、シルヴィオ様はただ茫然と見つめていた。


(?何だろう、何か、変)


 シルヴィオ様と、成長を続ける炎を見比べていた私の中に、1つの違和感が生まれた。

 違和感の正体を探るべく、念入りにシルヴィオ様と炎を見比べるが、真実まであと一歩届かない。

 私達も修練場の壁も、防御結界によって守られてはいるから燃焼することはない。魔力でできた炎は、酸素ではなく魔力で燃えているから酸素が足りなくなることもない。ただ、待っていても、鎮火する気配は無さそうだ。

 シルヴィオ様の呪文によって作り出された炎は、シルヴィオ様の魔力を吸収してみるみるうちに大きくなっていく。このままでは、シルヴィオ様の魔力が尽きるまで、この炎は燃え続ける。違和感は解消されていないが、そろそろ終わりにしないとシルヴィオ様の命が危険だ。

 フッと短く息を吐き出してから、私は短く呪文を唱えて水を発生させる。空中にふわふわ浮かぶ水で、広がる火を包み込む。修練場内に広がった火は、水に覆われてみるみる小さくなって行く。すっかり鎮火してしまってから、私は水を1つにまとめて圧縮させる。最後に、豆粒よりも小さくなった水は、パンッと音を立てて弾ける。修練場に、静けさが戻って来た。


「シルヴィオ様、お怪我はありませんか?!」


 呆然と立ち尽くしていたエルトンさんとアーウィンさんが、我に返ったようにシルヴィオ様に駆け寄り、これまた立ち尽くしたままのシルヴィオ様の全身を隈なく観察して、怪我の有無を確認する。


「エレナ殿。今、何が起きていたのですか?」


 シルヴィオ様には近付かずに、彼の魔力の状態を確認していると、アーウィンさんが鋭い視線を向けていた。エルトンさんも、何も言うことはないが、アーウィンさんと同じ厳しい表情をしている。

 2人は、態度こそ変わらないが怒っている。私は大丈夫と言ったのに、シルヴィオ様の身が危険に晒されたと。私には、こうなると分かっていたのではないかと。


「エルトン、アーウィン、下がりなさい。私は見ての通り何ともない。エレナには何か考えがあったのだろう」


「ですが、」


「エルトン。今、私はエレナに稽古をつけてもらっているところだ。今の私達は、生徒と先生の関係だ」


 シルヴィオ様に宥められたエルトンさんとアーウィンさんは、納得できない表情のまま、彼の後ろに下がった。それでも、何かあった時にすぐシルヴィオ様を守ることができる距離は保っている。


「エレナ、私からも聞きたい。今、何があったんだい?」


 シルヴィオ様の言葉に、私は違和感の正体を理解した。そして、1つの仮説を立てた。

 シルヴィオ様は、自分の魔力を吸って燃える炎を、なす術なく見つめていたわけではない。彼は、炎に魔力を吸われていることに、気が付いていなかったのではないか。彼の目には、炎が勝手に大きく成長していくようにしか見えていなかったのではないか。

 その仮説を確かなものにするため、私は短く呪文を唱えて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、指先程の小さな水球を作る。瞬く間に、水球はシルヴィオ様の魔力を吸って大きくなっていく。


「エレナ、何を……?」


 予想通り、シルヴィオ様は大きくなっていく水球を、()()()()()()()()()()()()だった。

 仮説が確信に変わり、脳内で、バラバラだったピースが、1つだけはまる音がした。

 水球が私の体よりも大きくなったところで、私の魔力で水球を覆い、シルヴィオ様の魔力を遮断する。さっきと同じように豆粒よりも小さく圧縮した水球が、同じようにパンッと弾けてから、私は小さく息をついて口を開く。


「……シルヴィオ様は、魔力を感知できていません」

次回は29日の予定です。

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