騎士の仕事 6
「ここは、変わったことはないようだね」
シルヴィオ様、エルトンさん、アーウィンさん、そして私の4人は見回りに、クレア様、スコット様、フランキー様の3人は管理室に残って書類仕事をしている。
見回りは午前と午後に1度ずつで、午前はシルヴィオ様達、午後はクレア様達が街に出てくるらしい。
何故分けているのか疑問に思ったが、それは最初にエルトンさんが説明してくれた。
なんでも、管理室には街で事件や事故があった際に知らせるための魔道具がある。全員管理室からいなくなってしまったら、気付くのが遅れてしまう。それなら見回りをする必要はあるのかと思ったが、見回りも十分大事な事らしい。魔術具が知らせてくれる内容は、大きなものだけだからだ。迷子や小さな喧嘩までは知らせてくれないらしい。そのため、見回りの際は2手に分かれて、街に出て見回りをするチーム、管理室に残って、万が一があった際に、第3部隊と街に出ているチームに連絡を取り、対応するチームで分かれるらしい。
そして見回りに来た私達は、今、飛行魔道具を使って、空を飛んでいる。
生活する人たちの邪魔にならないようにというのもあるだろうが、歩いて見回りをすると時間がかかってしまう。それに空から見た方が、何かあった時にすぐ気付けるというのもあるだろう。
だが、それは話をするいい場でもあるという事だった。街に目を向けながらも、エルトンさんは「先ほどの続きですが」と声を出した。
「エレナさん、質問をよろしいでしょうか」
「‥‥‥はい」
よろしいでしょうか、なんて聞きながら、有無を言わさない雰囲気をエルトンさんから感じる。
「エレナさんは、何故魔道具を見ただけで、それがどんなものか分かるのでしょうか?」
「‥‥‥魔道具の、魔石に刻まれている、魔術式を見ると、分かります」
「どういう事でしょうか?」
「魔道具にも、魔術を発動するにも、魔術式が必要になります。魔術式によって、発動する魔術も、出来上がる魔道具も違います。魔術式にも、人のように特徴があるんです」
「ええ、それについては我々も存じておりますよ」
「エレナ、私達が聞きたいのはそこじゃないんだ」
エルトンさんの質問の意図を理解できていなかった私は、シルヴィオ様の言葉に、更に疑問が大きくなった。
それならば、私は何を聞かれていたのだろう。
「エレナさん。私達は、何故魔石に刻まれた魔術式を、あなたは見ることが出来るのか、と聞きたいのですよ」
「え、見えるから、です」
何故見ることが出来るのか。そんなの決まっている。見えるからだ。それ以外に何があるのだろう。
だが、エルトンさんもシルヴィオ様もアーウィンさんも、納得できないという表情になる。
『エレナさん、私からも質問をいいでしょうか?』
魔術具を通した声が、空中にいる私達の耳に届いた。管理室で、引き続き書類仕事をしているクレア様の声だ。
飛行魔道具の他に、私達はそれぞれ別の魔道具を耳に着けている。それは遠くにいても話ができる、通信魔道具だ。
「はい‥‥‥」
『エレナさんは、魔道具や魔術が、どのように見えていますか?』
「えっと、どのように、とは?」
『私には、魔道具は魔石の嵌め込まれた道具に見えます。いくら目を凝らしてみても、エレナさんの言う魔術式は見えないんですよ』
「え?」
そんなことがあるのだろうか。いや、私にも魔道具は魔石の付いている道具に見える。それは同じはずだ。それなら、何が違うのだろう。
考えて考えて、私は1つ思いつくことがあった。
「あの、魔道具は、全体を見たら、ただの石がついたものに見えると思います。私にもそう見えています。私が見ているのは、魔道具じゃなくて、魔道具に付いている、魔石です。目を凝らして魔石を見てみると、魔術式が浮かびあがって見えてくるはず、です」
「魔石を、ですか」
私の言葉に、エルトンさんも、シルヴィオ様も、静かに話を聞いていたアーウィンさんも、耳の通信魔道具をとって魔石を覗き込む。私の耳の通信魔道具の先に、何も気配を感じなくなったから、きっと管理室にいるクレア様達も同じことをしているのかもしれない。
少し待って、シルヴィオ様達が魔道具を耳に戻す。そして、エルトンさんは、予想外のことを口にした。
「やはり、よく分かりません。エレナさん、普通の人には、魔石はただの黒い石にしか見えないのですよ」
「え、黒い石、ですか?」
「ええ。我々にはそう見えています。エレナさんには、魔石がどのように見えているのでしょう?」
どう見えている?そんなの、決まっている。どの魔石も、みんな同じだ。
「魔石は、本来透明な石です。そこに刻まれている魔術式も、透明なものなので、黒く見えることはないはずです」
次回は1月15日の予定です。




