騎士の仕事 5
「魔道具だから、ですか」
「‥‥‥はい」
正直に答えたのに、エルトンさんの声のトーンが、一段階低くなったように感じる。
何かを思案している様子のエルトンさんから目を離せずにいると、私に話しかけてきたのは意外な人だった。
「エレナ殿、こちらの魔道具の使い方も分かったりするか?」
話しかけてきたのは、アーウィンさんだった。今日、彼と自己紹介をしあってから、彼が私に話しかけてきたのは初めてだ。これまで公爵家ですれ違っても、お互い会釈はするものの、言葉を交わしたことはない。
私に近づいてきたアーウィンさんの手の上には、これまた小さな魔道具があった。サイズで言えば、私の小指の先ほどの小さなもの。
「‥‥‥少し、お借りします」
彼の掌の上にあった小さな魔道具を拾い上げて、慎重に観察する。2つある魔石に、それぞれ刻まれていた魔術式は、これまた見覚えがあった。というか、ついさっき、私が使っていた魔道具と、似通ったものだった。
「これも、記録魔道具ですね。こっちの魔道具と同じ、レナード魔術師の開発したものです。こっちの魔道具は、音声のみを記録するものなんですね。2つの魔石がそれぞれ別の役割を果たしています。こっちの魔石が音声を記録するためのもので、こっちは記録した音声を再生するものです。それぞれの魔石に魔力を流すことで、魔道具を動かすことができます。あれ、これって確か、3年前に開発されたものじゃなかったかな。やっぱそうだ。あの時にレナード魔術師が書いた論文で、記録魔道具の常識が変わったんだよなあ。色んな常識が変わったけど、一番は記録できる容量かな。あ、しかもこれ、一番初期のやつだ。最近のは少しずつ改良されているから、整理された魔術式になってるけど、これはちょっとごちゃついている。あ、しかも‥‥‥」
「んん!エレナさん、よく分かりました。もういいですよ」
「あぇ‥‥‥あ!ごめんなさい!」
エルトンさんの咳払いで我に返った私は、魔道具から目を離した。そして、漸く部屋の空気に、部屋の中の様子に気付いた。
すっかり書類仕事どころではなくなってしまったらしい彼らは、一番近くにいたアーウィンさんを筆頭に、エルトンさん以外全員がぽかんとした顔をしている。
(やばいやばいやばい。やっちゃったよ。絶対に引かれた)
騎士団に来る前も、移動魔道具を見た時にやってしまったが、今回はその時よりももっとやらかした。あの時は観察だけだったのに、今回は声に出てしまっていた。ただ使い方を聞かれただけなのに、余計なことまで言ってしまっていた。滅多に見ない魔道具で、それもレナード魔術師のものだったから、嬉しくなってしまった。我を忘れてしまっていた。
「アーウィンさん、あの、ありがとうございました‥‥‥」
「ああ、いや‥‥‥」
大人しく魔道具をアーウィンさんに返すが、受け取る彼は曖昧な表情を浮かべていた。それもそうだ。魔道具を前にして、我を忘れたように早口で語ってしまったのだから。
「あの、では、私はこっちの書類を片付けます‥‥‥」
早く、文字に埋もれよう。本当は穴があったら入ってしまいたいけれど、ここに穴はない。作ることはできるけど、騎士団の1室を勝手に改造したら怒られるだろうからできない。
未だ目と口を大きく開けている5人と、「分かりました」と言った後も、ずっと顎に手を当てて考えている様子のエルトンさんに背を向けて、机に向き直る。が、私は書類を手にして、任された仕事を進めることはできなかった。
「エレナさん。そろそろ見回りの時間になります。午前は我々第二部隊が見回りに行くので、エレナさんも一緒に来ていただきます」
背を向けた私の肩に、エルトンさんの手が乗ってきた。ぎこちなく振り返ると、彼は笑顔を浮かべていたが、その笑顔の奥には、「逃がすものか」という圧が潜んでいる。
「‥‥‥はい」
逃げるも何も、そもそも、本来の私の仕事はシルヴィオ様の護衛だ。逃げることのできない私は、大人しく頷くしかなかった。
次回は1月8日の予定です。




