仕立て屋。
タラップが下ろされ、モデルTで走り出すと、港の向こうに見えた、人間が巣食っているとは思えない街並みは、青年の想像をはるかに上回っていた。
「デケェ〜」
「言った通りだろ?人の数だってケタ違いだ。三歩歩けば人にぶつかる。十歩歩けばスリに逢い、百歩歩けばマフィアにぶつかる。そんな街だ。用心した方が良い。」
「平和が一番、だね。」
積荷の内容からして、どの口が平和が一番だなんてと言えようか。ダコタは喉まで来ていた言葉を、そっと飲み込んだ。続いてダコタのポケットから、トマソのクシャクシャになったメモが出てきた。
「トマソに貰ったメモ書き曰く、ダウンタウンブルックリンの、ウィロビーストリートにある、テイラー(仕立て屋)まで行けとある。とりあえず道を聞くことにしよう。」
「ニューヨークには馴染みがあるんじゃなかったのか?」
「この辺は知らん。元々はハーレムに居たからな。」
「なるほど。奴隷制度から解放されたのがそこだった訳だ。」
「お前はなんて事を・・・。次言ったらお前を殺す。」
「どうやってだ?」
「モデルTに括り付けて、バックでプロペラシャフトに巻き込ませる。アクセルレバー全開だ。」
「悪かった。前言撤回だ。お前は聖母様から生まれた素晴らしい人間だ。」
「父親は居たがな。分かったら降りて道でも聞いてこい。」
「ハイ。もう二度とふざけたことは申し上げません。行ってまいります。」
「よし。」




