モデルT
曇った内側の窓を拭きながら、ゆっくりと走り出したこの車がどこへ走っているのか、全くもって検討がつかなかったが、青年はいつもの事のようにポケットからタバコを出して吸い始める。
乗り慣れたように運転している男は気になって聞いた。
「変わった匂いだな、どこのタバコだ?」
「ニッポンという国のものらしい。箱の名前は読めなかった。知らん文字だったしな。」
「ハハッ、俺も戦争に行ってからタバコにハマっちまったが、ずっとその時のやつだ。お前も最初の一本はそん時だろ?確か全員最初はマックの奴に貰ったんだ。まあ、最初に死んだのもやつだったが。後方支援のオレたちでさえ仲間が死んだし、殺した。酷かったよなぁ、もう二度と御免だよな、あんなのは。」
遠い目をして聞いていた青年は、ふと気がついた。
「なあ、仕事って今度は何をやるんだ?」
「ああ、どうやらおっさんが作ったニセモンの評判が良いらしくてな。追加で十丁、素材と完成品を運んで欲しいらしい。」
「だからこんなの運んでるのか、モデルTなんて高かっただろうに。カムフラージュならどこかから借りて使えば良かったんじゃないか?」
「今度の客は金があるらしい。その辺でボロを出さないように、今後も使うってコトで金をかけたんだとさ。」
「だんだん裏に染み込んできたね。おっさんの作るニセモンは本物よりトリガーが軽いし、精度も他のニセモンとは比べ物にならない。現に今持ってるのもあのおっさんが作った銃だもんね。」