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結構シリアス展開な件

空が裂けたあと、境内に降り立ったのは──常軌を逸した異形だった。


二股に分かれる牛面の頭部が唸り声をあげ、上半身には六本の腕。全身を覆う漆黒の筋肉は岩のように硬質で、見るからに悪魔、としか形容できない禍々しさ、本能レベルの警鐘が頭の中に鳴り響く。やつが大地を踏みしめるたび、現実の縫い目がほどけるように、空間が軋む。


「……“異物性”が強すぎる……!」


紫微が低く唸る。まるで異世界の法則そのものが、あいつを中心に現実を塗り潰しているかのようだった。


境内の鳥居が崩れ、空は灼けつくような赤に染まり、見慣れた町の家々が、知らぬ遺跡のように朽ちかけていく。


その光景を他人事のように眺めながら、柚葉はぽつりと呟いた。


「……まるで、幻想の産声ですね……この一幕は」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」


岬が怒鳴った。顔を真っ赤にして立ち上がり、にぃに──俺の前に飛び出す。


「私はこの世界で唯一の…にぃにのッ!フィアンセです!!」


その叫びに呼応するように、天に掲げた岬の手の中に禍々しくも結晶で美麗に装飾された例の杖が顕現する。杖の先を地面に叩きつけ、岬が叫ぶ。


「紫微さん!相手が強ければ、それに応じた力が出せると言いましたよね!」


紫微は少しだけ目を細めて言う。


「言った。だが──」


「ならっ!!」


岬は胸に手を当て、静かに目を閉じた。

深呼吸して唾を呑み込むと、世界に語りかけるようにそっと口を開く。


「……私は……にぃにのことが、好きです。

 にぃにの子どもだって、産めます。」


瞬間、岬は喉から突いて出たように技名を唱えた。


「──結晶蝶・告解の(コンフェッサール)ユリシス…!」


その危険な告白の言葉と共に、岬の足元から旋風が巻き起こり、その風に乗って無数の蝶が現れた。きらきらとした結晶の羽を持つ蝶たちは岬の周囲から舞い上がり、岬はその中心で聖女のごとき美しさで祈りを捧げるように目を閉じて赫く染まった空を仰いでいる。


岬の背後で、あの悪魔の出現にもうろたえなかった柚葉が信じられない、という顔でその光景に釘付けにされていた。


「美しいです…決して受け入れられない想いだから…?禁じられた恋文が、羽ばたいてゆくみたいに…」


俺を庇うように自分の背後に回している紫微が呟く。


「《結晶蝶・告解の(コンフェッサール)ユリシス》。スタンダールの“愛の幻想”を媒介に、バタイユの“告解”ーー禁忌の愛をさらけ出すことで快楽と暴力の臨界を越えようとは。岬の"自己暴露"の対象となった敵は、愛の生垣を超えたその先を目撃する代償に、繭として禁忌への服従を余儀なくされる…」


「私とにぃにの未来のためにも、あなたは、ここで終わってください」


その瞬間、ズブリ、と音を立てて、敵の胸の奥から異様な光が滲み出した。

それは脈打つように形を変えながら、骨を割り、筋を引き裂き、敵の咆哮と共に血飛沫のなかから現れたのは…夜明けに咲く災厄のような、一匹の結晶蝶。


「胸が、ぎゅってなります……どこまでも真っ直ぐで、怖いほど美しくて…」


柚葉が息を呑む。結晶蝶に内側から肉体ごと魂を穿たれた敵の体は、蛹のように力を失っていった──はずだった。


「しかし…」


紫微の険しい眼差しの先で、敵がうねった。


その腕の一本が、無理やり背中の結晶の蝶を引きちぎり、地面に叩きつけた。羽は砕け、輝きは地に堕ちる。


「そんな、私とにぃにの……愛の結晶が……っ!」


岬が声を震わせた。


「やはり、これがモ⚪︎ラ系モンスターの運命(ディスティニー)なのでしょうか…」


あの、どうでもいいんですけど、久住さんってボケもイケるくちなんですか?

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