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ヴェリタスの書庁ー異世界編エピローグ③

馬車は静かに揺れていた。


分厚いクッション、彫金された窓枠、天井には金の房飾りが揺れている。


どこかの貴族が乗るような豪奢な内装だった。


けれど、その贅沢に反応する者はいなかった。


銀色の髪を月明かりに透かせながら、愛莉はただ窓の外を見つめていた。


向かいに座る男が、やわらかく口を開いた。


「私は、あなたの保護を頼まれて来ました」


声は静かで、揺らぎのない調子だった。


愛莉は視線を動かさず、ただ耳だけを傾ける。


「あなたのように異界から落ちてきた方々を、こちらでは“外落ち”と呼びます」

「中には記憶を失い、この世界の理に適応できない方もいる。そうした方々が、収容所に送られるのです」


言葉は説明というより、語りかけだった。


「けれど、ある方の意思ーによりあなたは運ばれた。今から、あなたの面倒を見てくださる方のもとへ向かいます」


彼女の表情は変わらなかった。だが、わずかにまぶたが揺れた。


「目的地までは一晩かかります。安心して、おやすみください」


愛莉は応えず、まぶたを閉じた。

揺れる馬車の音が、やがて意識を遠くへ運んでいった。



気がつくと、馬車は止まっていた。


扉はまだ開かない。けれど、小窓から見える建物に、彼女は思わず息を止めた。


高くそびえる石の門。複雑な紋章が刻まれ、柱には見たことのない文字が幾重にも連なる。


まるで神殿と図書館が融合したような、荘厳で静謐な空間。


その気配だけで、空気の密度が変わった気がした。


男が隣で静かに告げる。


「……着きましたよ。こちらが、ヴェリタスの書庁――紫微様の神籠です」

次回から現世に戻ります。

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