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優秀過ぎてSSランク冒険者に任命された少女、仕事したくないから男子校に入学する。  作者: コヨコヨ


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同級生の特訓


「私は家のため、己のため、トルマリン家に生まれたからにはその責任を果たさなければならない」


 ――コルトは努力出来る人間なんだな。やっぱり、良い所のお坊ちゃんは違うねー。


 私は貴族臭漂うコルトから一メートルほど距離を取り、拘わらないようにする。


「じゃあ、私はクラスメイトが特訓しているようなので広場に行って見てきます」

「そうか。じゃあ、また明日、生徒会室で会おう」


 コルトは私と別方向に歩いて行った。


「はぁ、コルトとの別れの口実にクラスメイトを使ってしまった。行くしかないな……」


 私は広間で特訓しているフレイとライトのもとに向かった。


 エルツ工魔学園の敷地中にある広々とした場所に足を運んだ私は、木剣を打ち付け合うフレイとライトのもとに駆け寄る。すでに夕暮れ時、訓練しているのは見たところ彼らだけ。


「お待たせ。私、なんか生徒会に入ることになった」

「おお、キアス、来たのか。普通に来ないと思って……ぐはっ!」


 フレイは私の方を見てしまいライトが追撃を食らっていた。そのまま体を押し倒される。


「はぁ、はぁ、戦っている最中によそ見していたら駄目だよ」


 小さな体のライトはフレイの体に馬乗りになり、木剣をフレイの顔の真横に突き刺す。


「く、俺の負けだ……」

「はぁー、フレイくんの力が強すぎて手がじんじんしているよ」


 ライトは木剣を持っていた手を開いたり閉じたりして感覚を確かめている。


「ライトは勝ちにこだわるんだな。良いと思うぞ」

「あはは、ぼくは弱いからどん欲に勝ちを取りに行かないと一勝もできないって昨日の試合でわかったんだ。でも、不意打ちみたいになっちゃった」

「俺がよそ見していただけだ。ライトは何も気にする必要はない」


 フレイはライトの頭に手を置き、軽く撫でていた。まるで弟を褒めている兄のよう。


「ふ、フレイくん、なでなでは……さすがに恥ずかしいよ」


 ライトはよく懐いている犬のような愛らしい微笑みを見せた。顔の周りに花が舞っているようで、私よりも可愛い。男なのに。


「う、ううんっ。二人共、強くなりたいのなら厳しい鍛錬に耐えられる体作りから始めた方が効率いいよ」


 私は咳払いし、二人の視線を集める。

 フレイはとにかく体力と筋力をつけて綺麗な形の剣戟を身に付ければそこそこいい剣士になると思う。ライトは体力と身体能力の向上で粘りづよさをさらに高めれば、相手が嫌がるし仲間としても頼りになる者になれる。


 フレイとライトはどちらもやる気満々。私に練習の主導権を握らせてきた。

 

「とりあえず死ぬ気で走ろう」


 私は師匠譲りの優しい笑みを作り、提案する。


「…………」


 フレイとライトは何かおぞましい物でも見るかのような瞳を私に向けてきた。


 午後五時から七時まで、私はフレイとライトを死ぬ気で走らせた。後方から魔法を放つ。当たれば痛いが傷にならない程度だ。

 フレイとライトは猫に追いかけられている鼠の如く走った。後方から恐怖が迫ってくれば逃げざるを得ない。二時間、死ぬ気で走った二名は胃の内容物を茂みに吐き、満身創痍だった。


「あれー、おかしいな。師匠と同じ鍛錬のはずなのに、ギリギリ耐えられていない。平坦な道だから山道よりも楽だと思うんだけど」

「き、キアスの師匠、狂っているな」

「うぅ、あ、脚が、ちぎれそう」

「でも、強くなりたいなら強くなるための鍛錬をこなさないと意味がない」


 フレイは顔をこわばらせながら大きく頷いた。


 誰しも自己満足の鍛錬では限界がある。卒業したら自分の力で生きて行かなきゃいけない。卒業まで三年しかない。三年といったら私が師匠に基礎の基礎を叩き込まれた年数だった。


「俺もキアスのように強くなりたい。力を貸してくれ」

「ぼくも、負けっぱなしは嫌だ」


 フレイとライトは肩を貸し合いながら立ち上がった。脚が震え、今にもこけそうだが、私の目を真っ直ぐ見つめてくる。燃えるような瞳だった。

 私はそんな目で師匠を一度も見た覚えはない。


 ――私が指導する義理はないけど、学園で出来た初めての知り合いだし、他のクラスメイトと反りが合う気もしない。あと、普通に気が合いそうだ。


「私、手加減しないけど、ちゃんとついてこられる?」


 私は腕を回しながら、二人の意思を確認した。


 フレイとライトは顔を見合わせ、石化したように全く動かない脚を見て「手加減は欲しい……」と言った。


「ふっ、そうだね。体が壊れないくらいの手加減は必要みたいだ」


 私は手に持っていた杖の先をフレイとライトに向ける。『ヒール』という魔法で彼らの体に着いた傷を癒した。これで歩けるくらいに回復したはずだ。


「回復魔法まで使えるのか。さすがだな。魔法を使わなくても強いのに、魔法を使ったらいったいどれくらい強くなるんだ」

「キアスくんならBランクかAランクの冒険者になれるんじゃないかな!」


 フレイとライトは私の底が知れないのに、目新しい品を見つめる子供のような、邪念のない瞳を向けてくる。


「そ、そうだなー。ウォーウルフの群れを倒せるくらいかな」

「えっ、キアスくん! 魔物と戦ったことがあるの!」

「ライトは魔物に興味があるの?」

「魔物に興味があると言うか、冒険者に興味があるんだ!」


 ライトは三男、家督はおそらく継げない。弱小貴族で婿の貰い手もない。そう考えたら頭を使う仕事で生計を立てるか、冒険者でお金を稼ぐかくらいしかない。だから、ちょっと興味があるらしい。


「俺もゆくゆくは冒険者になるつもりだ。魔物を倒して、金を稼ぐ。有名にならなくても人の助けになれるのなら構わない」

「二人は将来までしっかりと考えているんだね。ほんと立派だよ」


 ――私、ルドラさんに言われるがまま冒険者として二年も働いていたな。そのせいで変な異名までつけられて、勝手にSランク冒険者にされて。ウルフィリアギルドの希望の星って何? ウルフィリアギルドの他の冒険者、ほとんど知らないんですけど。


 私は脳内で数々の面倒な仕事を押し付けて来たルドラさんの顔を思い浮かべる。


「もう、夕食時だ。さっさと帰らないと寮長がうるさいぞ」

「そうだね。もう、お腹ペコペコだよー」

「じゃあ、寮に戻ろう」


 私達は一年から三年まで泊っているDランククラス専用の寮にやって来た。普通の宿より質が良いので何も文句はない。上のランクになると個室になったり、部屋の質がもっと上がるようだ。

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