氷に飲まれてしまう前に。
3分ほどで読める超短編小説です。幻想的なの世界を作りたくなったので作りました。読んでいただけると光栄です。
半年前、地球は大きく姿を変えた。
青と緑、所々の茶の色で
彩られた美しい惑星地球は
今や見るも無惨な青と白の氷の惑星に
変わり果ててしまった。
突如始まった第4氷河期は
ビルに埋め尽くされた街も、
木々で溢れる森林も
等しく氷の中に埋め込んで行った。
100億人ほどあった人口も今や
半数以下だろうか。
凍てつくような寒さは日を追うごとに
厳しくなっていく。
暖房や電気等のインフラも
今や機能しない。
今日か明日のでも僕は死ぬのだろう。
覚悟を決め家の外に出る。
そこに広がっていたのは
白銀の世界であった。
街は月の光を受けかつての太陽のように
光を放っている。
電柱は崩れそこに雪が積もっている。
ビルも氷雪になすすべなく飲まれ
無様な姿を晒している。
だが、それのどれでもなく僕の目を奪ったのは
交差点の真ん中で歌っている少女であった。
セーラー服だろうか。
半袖の少女は凍てつく風に肌を赤らめ
ながらも笑顔で歌っている。
僕は彼女を見て不思議な充足感を覚えた。
何も変わらない平凡な日常。
生きているのか死んでないだけなのかわからない
ようなそんなつまらない日常。
そんな日々では到底この感情なんか
得られなかっただろう。
僕もコートを脱ぎパーカー姿で彼女の元へ
向かう。
彼女は僕に気付きこの世界には似合わないほど暖かな笑顔で僕を迎えてくれた。
互いに何も言わずにに手を取る。
ダンスなんて踊ったことはないが
氷の惑星の中心で僕らは思うように踊る。
大体一曲を踊り終えた後
彼女は動かなくなっていた。
もう彼女を溶かし眠りから覚ますものなど
この世界に存在しないであろう。
彼女を抱きしめ空を見る。
太陽がないなんて考えられないほど
空は明るい。灰色の雪はこの街をより埋めていくのであろう。
そっと目を閉じ彼女の後を追うように眠りにつく。
愛すらも凍らせてしまう氷の惑星で
僕は確かな暖かさを眠る前に感じた。