⑧ 短期戦略の権化「株主資本主義」
質問者:
短期戦略が日本の癌とまで前の項目の最後でおっしゃいましたがいったいどういうことなのでしょうか?
筆者:
非常に表面的に物事を考えてしまう傾向が国民も政府も非常に強いと思うんです。
一時的な自分の身分やお金のために様々な国益を売り払う政治家。
それに対して、表面的な美辞麗句や一時の“かわいそう”という感情のために外国人の不法滞在を許し国益を損ねてしまう政策を支持してしまう国民――本質的には実を言うと変わらないように思うんです。
質問者:
なるほど……確かに「政治家は国民の鏡」と言いますから私たちのほうから変わっていかなくてはいけないんですね……。
筆者:
そうなんです。ただ、一般国民は日々の生活に追われていて、調べる時間が不足しているように思えるんです。
僕のように政治や国際情勢について考察している人間の情報を複数方面から得ていって総合的に判断していただきたいように思えますね――まぁ必ずしも僕である必要はありませんけど(笑)。
質問者:
具体的にどういう短期戦略がいけないのでしょうか?
筆者:
すべての短期戦略がいけないとは思いません。
身近な目標がなければ動くことができませんし、長期目標のみでは前にペース配分を間違えてしまい力尽きてしまう可能性があります。
しかしながら、今の国が推し進める政策の数々はあまりにも短期的視点ばかりで長期的な影響がまるで見えていないように思えてなりません。
今回の外国人移民問題に関する事案で言わせていただくのならば、「株主資本主義的」な政策ですね。
質問者:
株主資本主義の何がどういけないのですか?
筆者:
株主に対してアプローチに特化した戦略となりますと、利益を出しそこから配当を持っていくという戦略に終始するのです。
そうなると、短期的な利益こそが正義であり、利益を出せなければ彼らから株主総会などで解任されることになってしまいます。
いかに長期的戦略にのっとってやろうとしても、大株主の意向に対して逆らえないのです。
中々体力のある会社でなくては大企業といえども利益と長期戦略の両立というのは非常に難しいように思えるんですよ。
質問者:
なるほど、それで短期で利益を出す方法が給与を下げるということなんですね……。
筆者:
残念ながらそうなります。株主がせめて日本人ならば国民に対して還元されることになるのですが、外国法人が30%、信託銀行22%、国内事業法人20%、国内個人17%とみていただければわかる通り、外国法人が3割と最も所有されている割合が多いのです。
それも1990年には外国法人の割合が5%でしたからこの30年余りで急激に増えていっています。
配当金総額から見た場合、約5兆円前後も海外に流れているのです。
質問者:
海外の利益のために日本の従業員の給料が削られるとはたまりませんね……。
筆者:
また2番目の信託銀行というのはいわゆる「投資ファンド」が多く占めます。
この投資ファンドは「物言う株主」であることが多く、
・低収益事業の売却
・高収益事業の買収・合併(M&A)
・経営資源の集中
・コスト削減
・手元資金の活用
・役員の退任
・改革推進派の役員選任
といった要素がありますがいずれも短期的戦略の内容を提案することが多いです。
外資による日本企業の買収を歓迎し、敵対的買収も拒否できないようにして株主利益の最大化を図るのが結局のところ主眼としてありますからね。
個人投資家はほとんど株主総会に来ないですから実際のところはこの過半数の短期戦略重視の方々が力を持っていると言えるのです。
2014年、東芝の提携企業の元技術者が、韓国の半導体企業「SKハイニックス」にフラッシュメモリの機密情報を流したとして訴えられました。これは「東芝半導体データ流出事件」と呼ばれているものです。
この事件は元を辿れば東芝がフラッシュメモリ事業から撤退したのが原因でもあります。株主総会で短期的には赤字だと株主から文句を言われてしまうので会社としては部門ごと切るしかなくなるんですね。
更にリストラなど早期退職、定年から年金までの食いつなぎ、人事の不待遇などのほうが技術流出しやすい傾向があるのではないかと言う分析もあるので、
最近話題になっている退職金控除を減らすなどは技術流出の上でも問題外の実質増税なんですね。
質問者:
なるほど、大事な技術が採算の合わない部門の切り捨てとともに流出してしまうんですね……。
筆者:
松下電気器具製作所(現パナソニック)の創業者で「経営の神様」と言われた故松下幸之助氏は「社員は家族であり、会社の宝である」として終身雇用・年功序列の成功モデルケースとして日本の会社全体に広まっていきました。
今の日本には帰属意識が少なくなってきているので、この考え方に回帰する必要があると思います。
質問者:
しかし、終身雇用や年功序列だなんて今更という感じもしますけれどもね。
今は自由な働き方が求められていると思うんですけど。
筆者:
確かにそういう側面もあるでしょう。
横並び一線や同期意識といったものは、会社の成長を阻害している側面もあります。
しかし、優秀な社員や技術者をみすみす失ってしまい、ライバル企業を強化してしまう遠因にもなりかねないのです。
僕は完全に昭和型の経営に戻れと言っているわけではありません。
今現在の経営方針があまりにも短期利益主義・競争社会・実力主義が進み過ぎているのではないか? と危惧しているのです。
昭和型経営と現代の経営の考え方のお互いのいいところをハイブリットした成長と人材登用、終身雇用をミックスした人材評価方式が理想的だと思いますね。
終身雇用も悪いところばかりではないと思うんですよ。
生活の安定が確約されれば少子高齢化についても改善されるはずです。
質問者:
退職金の実質カットといった政策がダメな理由が分かりますね……。
筆者:
転職は確かに給与が上がる可能性はありますが、生活が安定するかと言ったらそうでは無いと思いますからね。
部門の役割が終われば解雇されるリスクがありますからね。
自身が身に付けたスキルもいつまで高く評価されるかもわかりませんしね。
質問者:
確かにそうですね……。
筆者:
最近の株主資本主義推進の施策としましては
2021年3月からは大企業の社外取締役設置が義務付けられました。
また、同年7月に経済産業省では投資家や証券会社の専門家など資本市場の知見を持つ人材を社外取締役として選任することを提言しています。
株価や株主、社外取締役に対して目を向けるということはつまり短期的な収益について考えなければいけないということです。
これは、余程の体力のある大企業でもない限り短期的な戦略と長期的な視野の両方を持つことは難しくなります。
仮に長期的な投資が出来たとしてもそれは内部留保から行われるものであり、社員に投資されるというケースは少ないでしょう。
質問者:
あと真逆で、専門外の“有名人社外取締役”というのがどの程度役に立っているのかも疑問ですよね……。
筆者:
高いお金を払って広告塔としては役に立つんじゃないんでしょうか?(笑)
長期的に見れば消費税増税とその分の法人税減税というのもこの株主資本主義の流れに付属しています。
法人税が上がると利益を出しにくくなりますから配当額も減っていくわけです。
しかし、消費税の分は価格転嫁がやりやすいので大企業としては痛くもかゆくもないわけです。
質問者:
なるほど、短期的な利益を出すためには法人税率が低いほうがいいわけですね……。
筆者:
単純な図式では語れない部分もありますけど、消費税が下がって法人税が上がってくれたほうがまだ給与の上昇の可能性も上がり一般庶民の懐が温まります。
しかし、海外投資家としては配当が減ってしまうためにそうあってほしくないわけです。
また経済産業省は、日本におけるM&Aが活性化されていないことを問題視し、
経済産業省が半年間の議論を経てまとめ、23年6月8日に広く意見募集を始めた「企業買収における行動指針(案)」で今現在パブリックコメントを求めています。
その内容としてザっとかいつまんでまとめますと、
・企業価値は株主価値(市場における評価としては時価総額)と負債価値の合計である。
・経営陣や取締役は買収提案を受領した場合、速やかに取締役会に付議または報告する。
・企業買収の対象会社の取締役が会社及びその株主の利益のために行動する。
・会社の企業価値を向上させるか否かの観点から買収の是非を判断すること。
と、もっともらしい内容ですが、「短期的な利益のための買収に応じろ」と言っているようなものです。
特に外資なんて有用な技術を吸い上げてポイっと捨てることだって普通にあり得るわけですから日本のためになるかは本当に怪しいわけです。
日本の会社は日本人の所有することが望ましいのです。
質問者:
確かに、日本の会社のために海外が手を差し伸べるということは何かしら裏があると考えたほうがよさそうですよね。
筆者:
しかし、僕の思惑とは裏腹に政府は積み立てNISAを受け取るとき非課税という形で推進しています(後に非課税でなくなる可能性あり)。
積み立てNISAは国内向けや先進国向け、アメリカ向けなど様々ですが、基本的に利回りが高く安定感があるアメリカ向けが推奨されていることが多いです。
そうなると、日本人の貯蓄が海外に流れてしまい、しかも分散投資なので議決権すらもないという酷い有様になるわけなんです。
本来は日本への投資のみ非課税にするべきだったんです。今の「貯蓄から投資へ」の流れも日本人のお金は海外へ、日本企業を円安状態で海外ファンドに売り飛ばすための反国益政策に僕は見えますね
質問者:
なるほど、非課税の裏にはそういう意図があったわけですか……。
筆者:
いろいろな項目で僕は書いていますが100%悪い政策というのは逆に存在せず、「短期的だけ聞こえのいい政策で長期的には国家を破壊」する政策ばかりなんです。
次に、23年9月の統計から次に来そうな「短期戦略」を見ていこうと思います。




