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命の使い道

作者: 太郎

 これは、ある老人の「命の時間」について描いた物語だ。

 老人は澄み渡った空の下、少年に言った。

 「君の残りの寿命の内五十年を、五十億で買わしてほしい。」

 そういうと老人は、厚みのある札束を何十個と少年の目の前に出した。老人は思う。

ーー頼む、快諾してくれ。私にはまだ、やらねばならぬことがあるんだ。


***


 今から五十年前、老人はとある中小企業の社長になった。彼は実力で成り上がった努力家だった。彼は若手の頃、アフリカの紛争に巻き込まれる少年を救うためのプロジェクトに挑戦した。プロジェクトは大成功。会社の名は瞬く間に世間に広がった。その功績が讃えられ、彼は一躍昇進。一瞬にも等しい時間で彼は会社の重役になり、三十歳で社長になった。

 彼は社長になってからも月に一回、アフリカの少年たちに会いに行った。そして、彼らの支援を続けた。彼は心の中で、人の役に立てて嬉しい、最高の人生だ、そう思っていた。これからも順風満帆な人生を送っていく、誰が見てもそう思えた。


 しかし、彼が社長になってから十年後、事件は起こる。彼の会社の秘書が、法人税等の書類の改ざんを行った。その事実は世間にあっという間に広がり、警察の捜査も入った。秘書は逮捕され、会社の信用は急激に落下した。支援もほぼ底を尽き、アフリカへの支援などできる状態ではなくなった。それから半年後、彼はなんとか会社を保とうとしたが、倒産した。彼が四十のときのことだった。

 それから彼は職を失い、アルバイトを掛け持ち生活をやりくりしたが、日々生きるだけで精一杯だった。ある日彼は新聞で、ある事実を知る。彼が支援していたアフリカの少年たちが住む地域が、爆撃されるという事件が起こったのだ。死者数二千人を超える惨憺たる事件だった。そして、その死亡者数の約四割が未成年だった。彼はあまりの衝撃とともに、悔しさや哀しみがこみ上げた。そして彼は情けなさからか自分を追い詰め、精神を病んだ。そしてもう無理だと感じ、アルバイトを辞め、町中を放浪した。

 辞職してから約三週間、ついに貯金は底を尽き、更にまた一週経つと、もはや空腹も限界に達し、苦しみにもがいた。生きる意味をも見失い、彼は江戸川にかかる橋から飛び降りることを決意した。

 そして決行の日、彼は手を柵にかけ、ゆっくりと体を上へと上昇させた。さようなら、そう思って橋から飛び降りた。2020年9月15日午後8時頃のことだった。


 彼の人生はそこで幕を閉じた、はずだった。彼はなぜか公園にいた。そしてその横には大きなジュラルミンケースと一枚のメモ書きがあった。彼は目が覚めると生きているという事実にひどく仰天した。そして、横にあるジュラルミンケースを無意識に開けた。するとそこには、無数の札束があった。そして一枚のメモ書きには次のように書かれていた。


 ーー貴方にはこの五十億円で、まだやらねばならぬことがある。 マーヌ 2050年9月15日


 彼はこの「マーヌ」という名にどこか聞き覚えがあった。しかし、鮮明にそれを思い出すことはできなかった。状況をよく理解できていない彼だったが、とりあえずジュラルミンケースを持ち、町中を歩いた。そして、コンビニに寄った。彼は新聞を意味もなく手にとり、文面に目を向けた。するとコラムのところに、おもしろい記述を見つけた。


 ーー青年に限るが、一億円につき一年で人の寿命をもらうことができるという伝説がある。真偽は定かではないが、昭和時代頃から、日本の一部地域で伝わっているようだ。


 その文面を読んだ時、彼は突然、これまでのことをすべて思い出した。そしてなにかに引っ張れられるように、ある公園へと向かった。するとそこには少年が立っていた。彼はもう決まっていたことのように少年の前に立ち、澄み渡った空の下言った。

ーー君の残りの寿命の内五十年を、五十億で買わしてほしい。


***


 2060年9月15日の朝刊の見出しには次のように書かれていた。


 ーーアフリカの少年への支援金、五十億円集まる。

 この物語は、ある楽曲からインスピレーションを受け書き上げた。

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