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グレン

精悍な顔つきをした十八歳の青年。体格は背が高く細く見えるががっしりしている。

「ネロ?あのネロ様か?すごい人らしいな。なんでもザイセイ改革のおかげで隊長が槍が増やせて兵舎の雨漏り直せたって小躍りしてたよ。女性?後ろの?いや別にそんなの知らねぇよ。ところでまだ聞くのか?明日じゃだめか?」


「相当なやり手と聞くな。彼が投資したバーツ商会は北の内乱で荒れた絹の需要に目をつけて今やこの国有数の商家になった。動かせる金の額なら国内でも屈指だろうな…。女性…?召使いの話か…?そんな話に首を突っ込むのは行儀が良くないぞ」


「立派な方です。無垢の家によって戦乱で親を失った子供がどれほど救われたか。彼が率いるパラディンのおかげで街もずいぶん平和になりました。あの方がいてくれるならこの国も安泰です。いつもいる女性?ひ…人の事情に口を出すのは不埒ですよ!」


(伝わってくるのはいい評判ばかりか…)

 翌日、俺は奴について聞き回ったことを反芻しながら資料館に向かっていた。

 ネロ・ドラクロア、若き俊英、王国の新たな風。父である前財務大臣を事故で八歳にて失った時、体の弱い奴は周りの貴族に軽んじられる対象だった。


 しかし、みるみるうちに魑魅魍魎の蔓延る王宮で頭角を現し、身分や家柄に拘らない人事で人気を集めた。それから10年、今や奴の派閥「民主派」は王国の一大勢力だ。そういえば俺も名前ぐらいは聞いたことがあった。だが…


(彼女のことは何一つ分からなかったな)


 俺の一番知りたかったこと、彼女がどうして、どうやって奴の手の内に落ちたのかということは全く分からなかった。

 分かったのは「いつ」だけだ。10年前、ネロ・ドラクロアが父を失った頃にはすでに彼女は侍従として奴に陰に日向に付き従っていたらしい。

 10年前といえば彼女が俺の前から姿を消した時期とだいたい一致する。やはり奴と彼女の間に何かあったのだ。それを知らなければおそらく彼女を助けることはできない。


(10年前の事件を知る人を当たってみるか…)


 あれこれ考えながら歩を進める俺はふと剣呑な気配を感じ取った。

 視線を上げると俺の行手を塞ぐように謎の人影が道の真ん中に立ち塞がっていた。影はフードを被りさらには覆面のようなもので顔を隠し、表情すら窺い知れない。だがその姿は明確な殺意を纏っていた。


「人気の少ない場所とはいえ、白昼堂々こんな街中で仕掛けて来るとはな…」


 俺は、目の前の刺客から視線を外さないようにしながら呟く。この道の左側は塀、右側は川になっており逃げ道は少ない。おそらく奴の手のものだろうがずいぶんとまぁ露骨な手だ。しかし…


「二桁にも満たない人数で俺を殺そうなど、流石に侮りすぎだろうが…!」


 俺は正面を向いたまま、背後から姿を消し襲ってきた男に肘を叩き込む。そのまま男の体を包む迷彩ごと肩に背負い、塀の上まで放り投げた。


「うわぁ!」

「ぐえっ!」


 今まさに塀の上からこちらに飛びかかってこようとした二人の刺客のうち一人が飛んできた男にぶつかりそのまま塀から転がり落ちる。俺は飛びかかってきたもう一人の鳩尾に前蹴りを叩き込んだ。刺客はそのまま白目を剥いて地面に倒れ込む。しかし突然俺の左足が重くなった。


「止めたぞ、今だ!」


 突如川の中から現れた刺客の腕から伸ばした鎖が、俺の足に巻き付いていた。さらに最初の刺客が懐から筒のようなものを取り出しこちらに向ける。


(魔法の武器か!)


「食らえ!」


 声と共に、筒から炎が吹き出す。俺は鎖の巻きついた左足を全力で蹴り上げた。


「うわぁ!?ぎゃああ!」

「や、野郎!」


 川の中の男が蹴りの勢いで引っ張り出され、そのまま筒の男と俺の間に飛び込み、代わりに炎を浴びた。筒を持った刺客が怯んで炎の勢いを緩めた瞬間、俺は一息で刺客の懐に飛び込み、喉に突きを入れる。泡を吹いて倒れる筒の男に背を向け、体に火がついてのたうち回る鎖の男をもう一度川に蹴り込んでやった。

 一息つく間もなく、新たに現れた槍を持った刺客がこちらに迫る。空気を裂いて迫る薙ぎを体を後ろに逸らし飛び越え間合いをとって着地した次の瞬間、俺の後方の塀をぶち抜き槌を持った巨体が現れた。


(雰囲気が違うな…こいつらが頭か)


 後ろからの槌の一撃をかわし、間合いを取りながら俺を挟む二人組の呼吸を測る。粉々になっている塀の残骸からして、あの槌は尋常な武器ではない。まともな人間なら食らえばひとたまりもないだろう。おそらく槍も何らかの力があるのだろう。だが今にも仕掛けてきそうな二人の刺客は悠長に対策を考える時間を与えてくれそうにない。

(切り捨ててしまうわけにもな…)


 仕掛けてきたのは相手とはいえ、こんな街中で死体をいくつも作っては言い訳が面倒だ。往来を血で汚す事にもなる。何より彼女の知人かもしれない人間を殺したくは無かった。


 そんなことを考えている間にも二人の刺客はじりじりと俺への距離を縮めてくる。二人が今まさにこちらに武器を振おうとした瞬間、俺は口を開く。


「やめにしないか?」


 刺客たちの動きがぴたりと止まった。彼奴らは俺の口から飛び出したあまりにも予想外な言葉に戸惑いを見せているようだった。二人の反応を伺いながら俺は続けて話す。


「これ以上やっても無駄だ。俺には勝てない。まだ怪我人を増やしたいのか?さっさとそいつらを連れて帰って考えの甘いご主人様に失敗の報告をしてこい」


 刺客たちの雰囲気が変わる。こちらの挑発は効果を発揮したようだ。


「侮辱をするな…ここまでされて尻尾を巻くことなどできると思うか…?」


「こちとら酔狂でここにきた訳じゃねぇんだよ…」


「そうは言っても時間の…」


 軽口を続けようとした瞬間俺の口をつぐませようとするかのように殺意に満ちた双撃が放たれた。槌の振り下ろしと槍の足払い。この前後上下からのコンビネーションでこいつらは多くの相手を葬ってきたのだろう。


(だがな…だいたい予想通りのタイミングだ)


 その瞬間俺は左足を浮かせた。そして今まさに俺の足を払おうとした槍を思い切り踏みつける。槍は男の手からもぎ取られそのまま地面に叩きつけられた。


「俺ごとやれ!」


「…すまん!」


 しかし槍を失った男は、そのまま前に突っ込み俺の体に抱きついた。このまま槌の男の一撃を俺もろとも受けて相打ちになるつもりだ。槌の男もそれを理解したのか。躊躇いなく振り下ろしを続ける。コンマ1秒の間に俺は逡巡する。


(槍の男を振り解いたところでこの槌の一撃を完全にかわせるかは怪しいし、高確率で槍の男はそのまま潰され死ぬ。ならば…)


 破槌が轟音と共に振り下ろされた。あたりにもうもうと煙が立ち込める。この槌の一撃は最大威力なら岩盤をぶち抜き、金属鎧を粉微塵にする。当然人間がまともに受けて仕舞えば血飛沫となってしまい原型も残らない…

相手が普通の人間ならば。


 俺は、うめき声を上げながら倒れる槌の男を見下ろした。男の手から取り落とされた槌には俺の額がめり込んでできた丸い跡がついていた。槌が振り下ろされた瞬間、かわせないとみた俺は防御に神経を集中し振り下ろされた槌を額で受け止めた。あの時に起きた出来事はたったそれだけのシンプルなものだった。


「その槌も中々の業物なんだろうが…俺もなかなか頑丈だろう?」


 額から流れ落ちた一筋の血を拭いながら、反動で腕を壊した槌の刺客と衝撃を受けて気絶した槍の刺客を見下ろして俺はそう呟いた。


「なかなか手間取った。しっかり鍛えられてるな…」


 あたりに倒れ伏す刺客たちを見回しながら息をつく。こいつらは奴の子飼いだろうか?


 とりあえず目の前の刺客のフードをひっぺがそうとした瞬間、俺の首筋を凍りつくような殺気が射抜いた。先の刺客たちとは比較にならない気配を感じ取り、俺は反射的に振り返りつつ右手で剣を鞘から半分ほど抜き出してその一撃を受け止めた。


 襲撃者は他の刺客と同様にフードを被り覆面をつけていた。しかしその一太刀はいかなる言葉よりも雄弁だった。腕から体に伝わった衝撃に10年間の鍛錬が刻まれているように感じた。彼女の名を呼ぼうとした瞬間、視界一面が白く包まれた。


「煙幕か…!」


 俺は遮二無二突っ込もうとする心を抑え、周辺の気配を探る。煙と共に現れた複数の気配は俺に仕掛けてくることはなく、煙が晴れた頃には倒れていたものも含め、あたりから襲撃の痕跡は崩れた壁以外無くなっていた。


「畜生め…手際のいい奴らだ」


 俺が死んでいたとしたらこうして綺麗さっぱり後片付けされていたというわけだ。俺は崩れた壁を八つ当たりで殴りつける。壁にヒビが入りあたりに破片が飛び散った。無性に腹が立つ。この苛立ちは殺されかけたことから来たものでは無い。


(あんな…あの一撃…。)


 全霊の一太刀を受ければわかることがある。あの一撃は彼女の十年の鍛錬を練り上げたように鋭く…彼女の心身の毀損を形取るかのように軽かった。


(あの迸るような快活さは、明るさはどこに行った?どれほど無理して俺の前で元気よく振る舞っていたんだ?あの男に一体何をされた?)


 綻びた肉体を鋭利さで補うような一撃。見事な技量によって裏打ちされてはいるが、逆に言えば膂力に劣るものが頼るような技だ。昔の彼女は細身ながら俺以上の膂力を持っていた。昔の彼女は俺よりはるかに体力が有った。昔の彼女は…


「彼女は俺より遥かに強かった…!」


 あの時の彼女がまともな形で10年間の鍛錬を積めていればこんなものじゃ済まなかったはずだ。そう、彼女が血の滲むような鍛錬を積んでいたことはわかる。彼女は失った物を埋めるための努力を10年間続けていたのだ。だからこそ彼女がこの程度で貶められたことが我慢ならない。


「あの野郎…あの野郎!」


 今すぐあのすかした顔を胴体からねじ切ってやりたい。だがそれで彼女を助けられるのか?これでは堂々巡りだ。何か他に手は無いのか…?


 その時、一人の男がこちらに近づいてくるのが見えた。その男は立派な口髭を蓄え、普通の兵士とは異なる貫禄を備えていた。


「随分な有様だな…これはお前がやったのかね?英雄クルス殿」


「ええ、壁に地虫が張り付いていたものでつい。英雄と言われようと苦手なものはある物です」


 口髭の男はこちらの返答を聞いて顔を歪める。


「こちらは治安維持の名目であなたを連行する名分があるのだぞ、英雄殿」


「第三兵団の統括者が見回りなぞで出向くとはご苦労様なことです」


「ハハ、こいつは一本取られたな。全く遠慮のない物言いだ」


 口髭の男は突如快活に笑い出した。彼はミリド。国軍、王党派の権力者であり、俺は戦争で彼の旗下で戦った。最も傭兵であった俺は厳密には彼の部下というわけでは無いのだが。俺は剽軽な見た目とは裏腹にこちらの心を見透かすような目をするこの男を少し苦手にしていた。


 ひとしきり笑った後、は神妙な顔をして口を開く。


「しかしらしくもなく機嫌が悪いな、グレン、何か有ったのか」


「俺に直接会いに来たということはすでに目星は付いておいででは?」


「ま、あれだけ聞き回っていればな」


 グリンは探るようにこちらをじっと見つめる。

「ネロと揉める気か?あいつは相当なタマだぞ。馬鹿正直に正面から挑むのは無謀ってもんだ」


「別に好き好んで喧嘩を売ったわけではないですよ」俺は淡々と返す。


「奴が俺の譲れないところを遮ったってだけです」


「なんだ、お前の譲れないものって言うと剣か?腕っぷしか?それとも…まさか女か?」


 ミリドは揶揄うように笑った。俺は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「そんな簡単な話じゃないですよ…」


「おいおい図星か!英雄殿も色を知る年とはな…」

 ミリドは顎髭を撫でつけてニヤリと笑った。


「ネロの女といえば、あの侍従か?それなら少し心当たりがある」


「本当ですか!」俺は目を見開く。降って沸いた情報源だ。逃す手はない。


「今すぐ教えてください!」


「まあそう急くな。ここじゃ場所が悪い。屋敷で話そう」

 藁をも掴みたい心持ちだった俺は、はやる心を抑えながらミリドの背を追っていった。





「申し訳ありません、ネロ様…」


 ネロ様の館の頂上、薄暗い執務室の中で、私は部下たちと共に深々と頭を下げながら声を絞り出した。

 目の前では我らが主人、ネロ様が目を伏せて椅子に体を沈めていた。その表情は影となって窺い知れない。私は今回の作戦で、敵に敗れたうえ手心を加えられ、味方に救助されたことを思い返し、申し訳なさで胸がいっぱいになった。部隊の隊長を任せられながらこんな無様を晒してしまうとは…。


「今回の失敗、晒した無様、いかな言い訳もありません。どんな罰でも受け入れる所存で…」


「いいんだ。気にしないでくれ」


 私に静かな声が投げ掛けられた。驚いて顔を上げるとまだ若さの残る主人は疲れを見せながらも柔らかくこちらに微笑んでいた。私は狼狽する。


「で、ですが、部下たちに示しが…」

「今回の襲撃は奴の実力を測るための威力偵察に近い。明確な証拠も残してはいないから追求も十分ごまかせる。誰も死なずに戻ってくれてきたことが最大の成果だよ」


「大丈夫さ、王党派にだって我らの味方はいる。撃てる手はまだあるさ…ゆっくり傷を癒してくれ」


「ネロ様…!」


 ネロ様は虚勢を張るように朗らかに笑った。私は軍の無茶な作戦によって仲間を失ったところをこの方に救われた。部下たちも出自は違えど似たようなものだ。

 父を早くに失い、魑魅魍魎の蠢く王宮でまだ若く体の弱い彼がどれほど必死に働いているかを私は知っている。少しでも彼の役に立ちたい…私はその一心で彼の部下として働いてきたのだ。


「す…スンマセン、ネロ様」


 ところが突如空気を壊すような声が響いた。私は驚いて後ろを振り向く。口を開いたのは私の新米の部下の一人だった。まだ若いがその才能から実働部隊を任され、今回の作戦では呪具の一つを任されていた。


「あの…本当にあいつと戦わなきゃならないんスか…?あいつはできる限りこっちを殺さないようにしてた。あいつは庶民の出なんでしょ?話せばわかる奴かもしれないし上手くすれば味方にだってなるかも…」


「ば…馬鹿者!?余計なことを言うな!ネロ様の命令を何だと…」

 私は慄く。作戦に失敗した我らがネロ様の作戦に口を出すなど…驚いたことにネロ様は彼に同意するようにうなずいた。


「確かにそうかもしれない…」


「ネロ様!?」


 私は狼狽した。我らの主人は部下一人の逡巡など気にせず己の責務にのみ向き合ってもらいたいかったからだ。だがネロ様は己の中の迷いを吐き出すように言葉を続ける。


「だが彼自身の人柄がなんであろうと俺たちには彼と組めない理由があるんだ。これからの計画にかかわるつもりなら、君たちも知っておいた方が良いだろう…」


「問題なのは彼の出自だ…彼の実力は存分に味わっただろう?」


「えぇ、英雄と言われるだけあります。とんでもない奴でした」

「技量も力も圧倒的で…正直同じ人間とは思えなかったっス…」

 私と部下はグレンのことを思い出す。彼は信じられない強さを持っていた。


「同じ人間とは思えないか…的を射た意見だな、確かに彼の肉体は常軌を逸している。あれほどの強靭さを持つものは世界に何人もいないだろう」


 ネロ様は笑うと想像もしない言葉を口走った。


「彼の強さの秘密は人体改造によるものではないかと考えている」


 新米の顔色が変わる。私にとってもこれは予想外の話だった。


「近隣諸国による呪具に対抗するための人体実験自体は確認されている…ただその手によるものが王宮に関わっているとなると話は変わってくる。近隣諸国が国政に食い込んだり、最悪王党派との癒着も考えなくてはならない。王党派にとっても民衆のガス抜きのことを考えれば平民出の英雄はありがたかったはずだ」


「あいつの実績も王党派が手を回して演出したものってことっスか?」


 主人は鷹揚にうなずいた。


「そうだな…最悪王国にとって非常に危険な事態になりうるかもしれない。だからこそ、できる限り早く彼の身柄を押さえる必要があるんだ。最悪彼の命を奪うことになっても…」


「とは言え、王党派もこちらが嗅ぎ付けたことはわかったはずだ。奴らは足並みが揃っていない。グレンに接触したミリドは慎重な男だ。そう焦って動こうとはしないさ」


 主人はこちらを見てにこりと微笑んだ。


「今回の失敗は気にしなくていい。まだまだ手はあるさ」



 会話の後、部屋にはただ一人、執務室の主人である俺だけが残っていた。俺は机の上にあったコップを持ち上げ、その香りを楽しむように目を細めてゆっくりと紅茶を飲み干した。


「ふう…」


 俺は飲み干したコップの中身を見つめゆっくり息をつく。そして…突如コップを壁に叩きつけた。

「役立たず共が!」

 コップが割れた音と怒号が部屋の中に響き渡った。この部屋の壁は厚く作られており中の音が外に漏れることは無い。俺の本性を知るものはいない。ただ一人を除いて…


「呪具を三つも渡してこのザマとはな。がっかりさせてくれる…。負け犬に期待しすぎたな」


 なおも怒りを撒き散らす俺の背後にいつの間にか一つの影が佇んでいた。なんの感情も見せない彼女の視線に気付くと俺は怒りのままに言葉を吐き出す。


「反抗的な目だな…奴を襲わせたことがそんなに不服か?それともゴミどもを丸め込むための与太話がそんなに面白かったか?」


「私はネロ様に対して意見を持ちません」


「ふん…模範的な回答だな」


 俺は苛立ちながら椅子に座り込む。


「強化改造など嘘っぱちさ。奴の強さに背景はない。だからこそいくらでも誤魔化せる。ノロマの王党派よりこっちの方が手は速い。身柄を押さえて仕舞えばどうにでもなる」


「そう、彼に背景はない…だからこそ彼は自由です、きっとどこへでもいける」


「そいつはよかったな!」


 俺はブランカに振り返り彼女に向けてソーサーを投げつけた。目標を外れたソーサーは壁に当たって砕け、飛び散った破片で彼女の額から一筋の血が流れた。彼女は眉一つ動かさなず、血を拭き取ろうともしないまま、その場に立ち尽くす。


「嬉しそうなツラだな…奴がお前に愛想をつかしてどこぞへ失せるとでも思ってるのか?」


 俺は歯を剥き出して凶暴に笑う。


「奴は来るさ、すぐにでもここに来る。お前を助けにだ。やつの考えてることなど手に取るようにわかる」


 ブランカは目を伏せる。その姿に俺は愉悦を感じた。


「それとも奴を選んで俺を裏切るか?」


 俺の喉からくつくつと笑いが溢れ落ちた。


「なんて、あまりにもくだらない質問だな…そんなことは考える必要すらない、そうだろう?」


 狂ったように笑う俺の姿を、ブランカはまるで氷像のように身じろぎもせず見つめていた。


三話目は明日投稿の予定です。

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