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「私は公爵家の令嬢です。側から見れば誰もが羨む環境を生まれ持って手に入れてしまった。そして剣の才能にも恵まれた、……言葉にしていてここまで酷い自画自賛はありませんね」

「でも事実ですから。私がダメな子だって事もまた事実です」



 俯いて塞ぎ込んだラザニアちゃんの顔には影が落ちていた。


 私は彼女の元々の性格を考慮していなかったのだろう。自分の定められた死に様に納得がいかず、だったらヒロインを強くしてしまえ、そう考えて彼女の育成計画に行き着いた。


 バナナの皮なんかで死ぬくらいなら寧ろヒロインをラスボス化させて納得のいく運命が欲しかった。



 それだけだった。



 バッドエンドを回避するとか不明瞭な未来を目指すよりも自分自身は剣の高みを目指して、それでもヒロインに敵わないとなれば自分の運命を受け入れられる筈だった。


 私はそんな自分勝手な計画にラザニアちゃんを巻き込んでしまったのだ。


 彼女にとって不幸だった事は彼女自身が信じる人々が次々とラザニアちゃんから離れていった事。ラファエロは心を私に移して、父親は私の配下となった。



『アンタは私の全てを奪っていく、……私はアンタの存在そのものを認めない!』



 彼女自身が以前私に言い放った言葉を今になって考えてみる。これはラザニアちゃん自身が誰かに認められて欲しいと言う願いの裏返しだったのだろう、それを理解出来ていたら今回の様な事件など起こるはずも無かったのだ。


 それを今になって理解するとは私は自分が情けなくなった。


 少し自重気味にため息を吐くとその場の全員が首を傾げて私の顔を覗き込んでくる。私がラザニアちゃんから奪ったものをようやく理解出来た。



 ならばそれを伝えよう。


 そして今からでも遅くないと私自身の言葉で使えるのだ、悪役令嬢ローズマリー・オルガノンとしてでは無く私自身として。



「ラザニアは自信が無いのですね?」

「何をやっても上手くいかないんだから自信なんてある筈がありません」

「人は自信を付けるために失敗を繰り返すのです。貴女も私が失敗するところを見てきたならそれもまた貴女自身の目で見てきた筈でしょう」

「ローズマリー様、それはどう言う事でしょうか?」

「無論一回で物事が成功する事もあります。ですが殆どの物事が何度も失敗を重ねて、その上に成功が成り立っています。そして成功と言う実績があるからこそ人は自信を持てるのです」

「……実績ですか?」

「そう、そして実績が積み重なって何時しかそれが信頼へと形を変えるのです。貴女も新たな人生で実績を積み重ねなさい。例え小さくとも積もれば貴女も堂々と胸を張って生きていける筈」

「ローズ……マリー様」

「それと結婚おめでとう、ラファエロ殿下と末永くお幸せにね」



 ラザニアちゃんが泣き崩れていった。


 ボロボロと溜め込んでいたのか涙が止めどなく彼女の大きな瞳からあふれ出て止まらなくなっていた。この涙は何時から溜め込んでいたんだろうか。


 私と再会してから?


 違うな、これは私と初めて出会った時から溜め込んでいた涙だろう。私の姿勢を見て自信を失って、気が付けば大切な人が離れていく感覚を覚えて。そしてその人たちを信じることが出来なくなった彼女に苦しみの分だけ溜め込んだ涙だと思う。


 今の彼女にはラファエロもいるし、隣にはそれを優しく見守ってくれる父親も戻ってきたのだから心配は要らないだろう。



 随分と遠回りした気がする。



 自分の望む未来のためにラザニアちゃんを巻き込んで、その結果は自分の予想を遥かに上回る事件へと発展してしまった。だけどそれも親友と愛する人の助けがあって納得のいく着地を果たすことが出来たのだ。


 これ以上の事を私が望む筈もない。


 だからこのまま静かにこの場を立ち去ろうとした、パーカーも私の想いを汲んでくれてそれに従って踵を返す私の後を静かに追いかけてくれた。


 ラザニアちゃん、お幸せにね。


 それが今の私の望むことの全てだったのだ。


 ラザニアちゃんもまた涙を流しながらも満面の笑みで私を送ろうとしてくれた。


 ……にも関わらずだ、そんな幸せに満ちた時間をぶち壊す輩とは何処にでもいるものらしく、しかもそれがヒロインの実の父親だとは流石の私も想像出来なかった。


 て言うかもしかしてアンタがもっとラザニアちゃんを気遣っていれば彼女も捻くれなかったのでは? とさえ思えてしまう自分が情けなくなってしまった。



「あ、ローズマリー様、お待ち下さい。例の借金の件ですが……」



 プッタネスカさんも余計な事を言うなよ……、それはラザニアちゃんが知らなくていい事なんじゃないの?


 ほらあ、アンタの娘さんもキョトンとした表情になって「お父さん、何の話?」とか興味を示しとるやんけ。


 ああ、パーカーがアイコンタクトで私と会話を始めちゃったよ。彼は私に「あの件、ここで言う?」と伝えてきます。言ったらマズいに決まってるでしょうが。それくらいは言わなくも分かって欲しい。



 こう言う場の空気を読めないところをまざまざと見せられると改めて実感してしまう。


 やっぱりプッタネスカさんはダメなサラリーマンでした。



「……プッタネスカさん、その件は後日にしませんか?」

「いえ、アレは私のしでかした失態をローズマリー様に拭って頂いたものです。しかも六年前のあの時は私も正気では無かったとは言え貴女の体に目が眩み……。ふっ、お恥ずかしい限りです。ですからあのお金は私が個人的に一生を賭けてお支払いします」



 言っちゃったよ。


 しかも結婚を間近に控えた実の娘の前で「六年前」とか「貴女の体に目が眩み」なんて危険な言葉を連呼しないでくれません?


 それに「ふっ」って何じゃい。


 何かを悟った様な表情になってカッコつけるんじゃないっての。


 ああ、ラザニアちゃんが訝しげな顔で「お父さん、ちょっとその件について詳しく」とか聞いちゃったよ。プッタネスカさんも嬉々として六年前の酒場で行ったポーカーの件を話し始めるし。


 もしかしてプッタネスカさんは久しぶりに知り合いに会えてテンションがハイになってるのかな? 言わなくていい事もオブラートに包まず言うからラザニアちゃんが殺気を纏っとるやんけ。


 プッタネスカさんは身振り手振りを交えて説明していくが、その度にラザニアちゃんが不機嫌になっていく。なんか私もうまく呼吸が出来なきなってきた。



 この雰囲気、本当に息が詰まるなあ。


 ふとパーカーと視線が重なった。



 二人してサッと青ざめた表情を突き合わせて「せーの」と掛け声を掛け合って目を瞑った。だって今から親子喧嘩が始まる事くらい誰だって予測出来るでしょうが。


 いや、違うな。


 これは一方的な暴力に発展するんだろうなあ。


 しかも物理的だけで無く精神的なものも含んだ暴力。


 怒り狂った娘からダメ親父に対する説教に発展するって気付いてよ。だってプッタネスカさんは六年前、まだ十歳の少女だった私の体を目当てにポーカー勝負を引き受けたのだから。


 それを言ったら娘に怒られて当然だよね?



「いやあ、あの時のローズマリー様はとにかく迫力があって私も感服してしまってね。『参加費用は私自身とします』と言った時のなんと堂々としていた事か!! ラザニアにも見て貰いたかったよ!!」

「……お父さん?」

「どうしたんだい? ラザニアは急に塞ぎ込んでしまって」



 やっべ。



「六年前ってことはローズマリー様はまだ十歳だよね? だって私と同い年だし」

「そうそう、十歳であの貫禄は中々お目にかかれないと思うぞ?」

「それってお父さんが……十歳の女の子が趣味の変態だったって事だよね?」

「……あ」



 プッタネスカさんも「あ」、じゃねえよ。


 今更になって気付いてビビってどうするのさ。ラザニアちゃんが実の父親に汚物を見るような目付きで睨んでいた。自分の身を守る様な仕草を見せてジリジリと少しずつプッタネスカさんと距離を取っていく。



「あ、あれは……ローズマリー様に誘われて……」

「へー、お父さんは誘われたら誰でも構わないんだ?」



 余計な事を言っちゃて。


 しかも実の娘にまで私と同じ事を言われてるでしょうが。


 こうして久しぶりにラザニアちゃんと再会して絡んだ私たちの蟠りを解く事が出来た。だけど実の父親が余計な一言を言ったせいで最後にミソが付く結果となってしまったのだ。


 「お父さんって私の事もそんな目で見てたのね?」とか「子供の頃、私と一緒にお風呂に入ったのもそう言う趣味だったからなのね?」などとても人様に聞かせられない会話を私とパーカーは一生分聞くハメになった。


 この後、帰路に立った私とパーカーを笑顔で見送ってくれたラザニアちゃんではあるが、その彼女の隣で実の娘によってボコボコにされたプッタネスカさんの姿しか記憶には残っていない。



 去り際にプッタネスカさんは頭にバナナの皮が置かれていた。



 それでもまた何時の日か会いましょう、と私はラザニアちゃんと固い握手を交わす事が出来たのだから良しとしよう。



 その日が悪役令嬢とヒロインの間に初めて友情が芽生えた記念日となった。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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