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 オルガノンの屋敷を出発してかれこれ二週間が経った。


 私とパーカーは馬車に揺られて真っ直ぐに国外へと向かった。事前にパーカーが手続を済ませてくれたので、国境も難なく渡り今は隣国の領地を突き進む。


 彼は私の直属になって本当に頼もしくなった。


 昔も洞察力に優れて出来る男と言う印象は有ったが今は職場でも人望を深めて信頼されている。父からも遠回しにオルガノン家の後継にと打診される程だ。



 パーカーは私のお迎え係兼護衛。



 だから私直属のメイドたちとも職務上よく会話をする。彼は今後の事について馬車の中でこの旅路に着いてきてくれたメイドと入念に打ち合わせをする真っ最中だった。



「ではパーカー様、私はそろそろ早馬で先行してお嬢様の宿泊場所を確保して参ります」

「お願いします。それと時間があったらで構わないんすけど、水と茶葉を手配して貰っていいすか?」

「帰り支度ですね? そちらも畏まりました。でしたら乾燥ハーブも買い込んで置きたいところですが」

「そっすね。あ、そうだ、燻製肉と塩も減ってたんだった。それと系と針も」

「畏まりました。では行って参りますのでお嬢様をよろしくお願いいたします」



 メイドは一通りの打ち合わせを済ませると馬車を飛び出して馬の跨って颯爽と走り出す。パーカーはその様子を場所から体を乗り出して確認を済ませるなりガチャンと音を立ててドアを閉めた。


 メイドがこの先の街に向かうと馬車の中は私とパーカーの二人っきりとなる。


 この先にある街がラザニアちゃんの住まう場所らしい。彼女は両親と一緒に新しい環境で必死になって生きていると言う。


 住み慣れた国を追放されて彼女がどんな顔で生活しているのか、それを思うとため息が漏れる。だけど後悔は後回しだ、今は彼女の前に会っておきたい人物がいるのだから。



 その人と会う時にこんな様子ではマズいと思い、パンパンと頬を叩いて気合いを入れてみる。するとパーカーはやはり屈託のない笑顔を私に向けてくれるのだ。



 私は少しだけ恥ずかしさを覚えてついソッポを向いてしまう。



「ようやくお嬢らしさが戻ってきたっすね?」

「私だって何時までも腑抜けている訳にはいかないのよ、それだけの話じゃない」

「お、いっすねえ。でも俺は役得だなあ、天上天下唯我独尊ってのがお嬢のイメージだったけど弱ったお嬢も可愛くて見てるだけでニヤけちまうっすよ」

「……結局六年の間、一回も夜這いに来なかった腑抜けに言われる筋合いは無いんだけど?」

「それって関係あるんすか? ……お? そろそろじゃないっすかね、あれが最初の目的地っすわ」

「あれが……あそこにいるのね?」

「……ちょうど本人も外にいますね」



 パーカーが馬車の小窓を開いてその先にある小屋を指し示す。


 その小屋はこの辺一体の道路工事の管理を請け負った工夫の宿舎で、今私たちが馬車で進む道のメンテナンスや工事のために建てられたものだ。


 その工夫の殆どは近くの街から集められており、要は簡易的な出稼ぎと言う奴だ。


 中には町に越してきたばかりで仕事のアテがない様な人間もいるらしく、私が会いに来た人物のその内の一人だ。馬車が宿舎の近くに停車するとそんな工夫たちが僅かにザワつく。


 私がパーカーのエスコートで下車すると今度はザワつきが響めきに変わっていった。


 まあ、こんな片田舎と明らかな貴族然とした人間が訪問する事自体が珍しいのだろう。騒がしくなる気持ちが分からない訳では無い。



 だが一人だけ周囲とは異なる反応を示す人物がいた。



 私はパーカーを従えてその人物に優雅に歩み寄って驚きを隠せないその人に淑女の礼を示す。彼は私の突然の訪問にポリポリと頭を掻いて困惑する様な、それと一緒に少しだけ嬉しそうな表情を浮かべて挨拶を返してくれた。



「お久しびりです、ラファエロ様」



 一人目の人物はラファエロ・レモンチェッロ元第一王子殿下だ。



「何処で僕の居場所を知ったのやら、でも嬉しいものですね。友、遠方より来たるってね」

「あら、私はラファエロ様にとって友ですか?」

「初恋の女性はラザニアだからローズマリーは憧れの女性になるのかなあ?」

「まあ、この際は何方でも構いませんが。それにしても生きていらしたと知って安堵しました」

「いやあ、悪いね。なんせ父上が裏で色々と根回ししてくれたもので言うに言えなくて」



 王族であるラファエロがこうして生き永らえている理由。


 それは国王陛下の一存だと言う。ラファエロは搬送された病院で輸血の処置や準備が滞りなくされていた事で何とか一命を取り留めたそうだ。だが入院が必要な状態だったと言う事と、その負傷の理由が男女の絡れが原因だと知れ渡ってしまった事で王族としては恥を掻くことになった。


 更に彼と男女の関係と噂のあったラザニアちゃんが国外追放となった件も重なってラファエロの面目は更に潰れてしまった。


 そこで国王陛下は王族の面子を保つ事を理由として第一王子が助からなかったものとして事実を捻じ曲げた。



 そして国王陛下は父として息子の願いを聞き届けたのだ。


 ラファエロの望んだものとは……。



「やはりラファエロ様はラザニアを選ばれたのですね?」

「やはり、か。ローズマリーは何処まで未来を見据えているのやら、君はやはり恐ろしい女性だったんだね」



 そんなものヒロインと攻略対象なのだから当たり前でしょうが。


 こんな未来、ゲームをプレイした人間なら誰だって直ぐに辿り着く。……などと口が裂けても言えない訳だが。



「ラファエロ様はラザニアの何処に惹かれたのですか?」

「うーん、そうだなあ。最初はドンドンと変わっていく彼女を見てるのが辛かった。でもやっぱりそれが人間らしさだと思ったんだ。何よりもやっぱり見捨てられなかったし、昔彼女に言った『好き』と言う言葉も嘘じゃないんだ」

「……ラザニアは貴方を受け入れてくれましたか?」

「少しだけ時間が掛かったけどね。今は君の事を完全に吹っ切れたよ、来月結婚をする予定なんだ」

「もしかしてこのお仕事も?」

「そう、結婚費用の足しにしようと思ってね。君はもしかして……、いや、やはりと言うべきか?」

「はい、ラザニアに直に会おうと思っています」



 そう言うとラファエロは「そうか」とだけ呟いて腕を組みながら何度もウンウンと頷いた。そして顔を上げるとパーカーに視線を移す。


 前に会った時は色白で正統派な美少年と言った感じが強かったラファエロは土木作業で焼けた肌と引き締まった体になっていて少しだけ逞しく見えた。彼は土木作業着のまま頭に巻いていたタオルを解くとそのまま足元に落ちていたバナナの皮を避けてパーカーに頭を下げる。



 彼は彼なりに色々と責任を感じていたらしい。深々と下げた姿勢のまま、ラファエロはそれをパーカーに託してきた。


 ラファエロは背中の傷を服の上から摩ってハッキリとした口調でパーカーに話しかけていった。



「パーカー・カットソー、僕は君を超えると宣言した男だ」

「前にも言いましたけど、それ俺に言うセリフじゃないっすよ?」

「生まれで人の価値が決まる訳じゃない。君はそう言う男だ」

「……お嬢のお陰で俺は自分に自信を持つ事が出来ました。アンタは以前『僕は選択を誤ったのだろうか? 宝の価値を見誤ったのか?』って俺に聞いてきましたよね?」

「無論覚えているとも」

「いいんじゃないっすか? 今が良ければ全て良しとしましょうや、アンタだってラザニア嬢が好きなんでしょ?」

「……そうだね。僕もそう思う、僕はラザニアを愛している」



 ラファエロとパーカーは何とも爽やかな笑顔で握手を交わしていた。その様子が嬉しくて私もつい笑みをこぼす。まあ、内容がイマイチ良く分からなかったけど今はツッコむのは止めておくとしよう。



 こうして私は一人目の目的の人物と会えて言葉を交わしてその場を離れる事にした。



 馬車に乗って窓から体を乗り出すとラファエロが吹っ切れた様な満面の笑みで私たちに手を振ってくれていた。それがまた嬉しくて私も微笑みながら控え目に手を振り返す。


 あの人は私の恩人だ。


 悪役令嬢として最も警戒すべきだった攻略対象が私をバッドエンドから守ってくれたのだから。何よりも彼は私を共と呼んでくれたのだ。ならば私も友として彼の成功と幸せを心より願おう。


 馬車が進む道の先に乙女ゲームのヒロインであるラザニアが待っている。この道はラファエロが作った道だ、彼がラザニアと再開を果たす手助けをしてくれているのではと思えてならなかった。



 今は揺れる馬車の乗り心地を楽しもう。


 私の隣に座る愛する男性と一緒に旅路を楽しもう。



 この先には私が自分勝手にその人生を捻じ曲げた少女、ラザニア・プッタネスカがいる。彼女に会って何を言うかなんてまだ決めてない。


 それでも顔を突き合わせねば何も始まらないと覚悟を決めてその時を静かに待つのだった。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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