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月日は再び六年後に戻り、舞台は貴族学校に併設されたコロシアム。
時は剣技のトーナメント決勝戦。
私は真剣を握りしめたヒロインの殺意に晒されていた。
「アンタさえ居なければラファエロ様だってずっと私を見ていてくれたのに!!」
「剣線がブレていますよ? もっと全身のバランスに気を配りなさい」
「お父さんだってアンタに夢中になってる。アンタは私の全てを奪っていく、……私はアンタの存在そのものを認めない!」
「冷静さくらいは保ちなさい、怒りは力を与えると同時に視野を狭くします」
「そうやってアンタは何時だって私を見下して……、死ね!!」
ラザニアちゃんは本当に私好みに育ったものだ。
何と彼女は剣技の試合で飛び道具を使ってきた。ドレスから数本のナイフを取り出して私に向かって投げてくる。
観客のザワつきが決闘場を飲み込んでいく。
私は咄嗟に後方へ飛んでナイフを回避するが、ラザニアちゃんはその動きを予測していた様で一気に飛びかかってきた。身のこなしの速さを活かして私に向かって追撃のレイピアを突き刺してくる。
いいねえ、最高だわ。
これなら私が負けても言い訳は立つ。
いや、言い訳とは違うかなあ。ローズマリー・オルガノンに転生して好きだったキャラの惨めな最期を見たくない一心でここまでやって来た。
好きだった推しキャラとも心を通わせて、親友と呼べるライバルとも切磋琢磨してここまで腕を磨いてきたのだ。だったら負けてもいいなんて考えはダメだ。
私はこの状況すらも打開して悪役令嬢と言う自分の役割を乗り越えてやる。
私とラザニアちゃんのレイピアがぶつかって激しい金属音が鳴り響く。
「私も負けられないのです。愛する殿方と結ばれるため、準決勝で敗れていった親友のためにも」
「アンタの好きな人ってカットソー校長先生なんでしょ?」
「……含みのある物言いですね」
因みにパーカーはつい先日、大物盗賊団を捕らえて大手柄を挙げた。その功績が讃えられて私が通う貴族学校の校長に就任したのだ。
そして彼には爵位の授与が検討されており、プッタネスカ男爵は私との約束を守るため爵位返上の申請をしている真っ最中。あと数日もすればプッタネスカ家は貴族ではなくなる予定だ。
つまりラザニアちゃんもまた後数日で貴族では無くなり、この学校を自主退学しなくてはいけない。
彼女からすれば私に勝つ最後のチャンスがこの剣技トーナメントと言う訳だ。だからこそ彼女は鬼気迫る迫力を滲ませる。
今にも私を殺さんと剣を押し込んでくるのだ。想像を超えて憎しみに塗れたラザニアちゃんはもの凄い力で私を押し切ろうとする。
あれええ?
もしかして私って今、ピンチですか?
「校長先生もアンタの犬って事ね。だったら今日アンタを殺してあのオッサンも一緒に殺してやるんだから」
「その品性で誰かから愛されると本気で思っているのですか?」
「校長先生を殺したら次はお父さんよ。あの男が爵位を返上したせいでラファエロ様と結ばれる僅かな望みも消えた」
「子供の頃、失踪した男爵を血眼になって探していたのは何処のどなただったかしら?」
「煩いわね!! ついでにアンタの親友もぶっ殺してやるわ!! 今頃、準決勝で負った深傷でベッドに寝てる筈だから楽勝よ!!」
そう、クミンはトーナメントの準決勝でラザニアちゃんと対戦して負けたのだ。
それは見事なまでにズタボロにされてクミンは気を失ったまま医務室へと搬送されて行った。試合の内容はラザニアちゃんの反則ギリギリのダーティな戦法にクミンが押し切られる形で終わり、私の親友はそれを清々しいまでに認めていた。
クミンはストイックな性格だからダーティな戦法に弱い。
それは本人も自覚している事で、だからこそ彼女はラザニアちゃんを讃えていたのだ。自分には出来ない芸当だと素直に拍手を送ったのだ。にも関わらず、その張本人は対戦相手を平気で罵倒する。讃えるどころか寧ろ逆、ラザニアちゃんはクミンに唾を吐いてコケにしていた。
今のラザニアちゃんは際どいところにいる。
ダーティさは私がラザニアちゃんに望んだ事、だが彼女の振る舞いは体育会系からすれば最悪だ。死力を尽くした相手には礼儀を持って接するのが当たり前。
私は自分の望む未来のためにラザニアちゃんを変えた。
だけど私はやり過ぎてしまったのだろうか?
そして今もラザニアちゃんは私を押し切ろうと力一杯レイピアに力を込める。私はえび反り状態になって堪えるがこれは何時までも保つとは思えない。
仕方がないと私は右の肩を彼女の胸に押し込んでラザニアちゃんのレイピアをいなした。その姿勢のまま右肘でラザニアちゃんの鳩尾に一撃を加える。
ラザニアちゃんは急所を打ち付けられて一瞬だけ隙を見せた。そこに追撃でレイピアの柄を使って更にラザニアちゃんの鳩尾を攻める。
ヒロインには悪いけどちょっとだけ可愛くない顔を晒させて貰うわ。
「はあ!!」
「きゃああああああああ!!」
動きを止めてから逆に私がラザニアちゃんを押し切って距離を作った。そこに模擬刀のレイピアで高速の突きを見舞う。ラザニアちゃんは私の圧力に耐えられず、悲鳴を上げて後方へと吹っ飛んでいった。
あまりにも派手に吹っ飛んでいったから試合を見ていた先生方が一斉に私の勝利を告げた。どうやら先生たちもこれ以上この試合を長引かせたくなかったらしい。
「この勝負、ローズマリー・オルガノン嬢の勝ちとします!!」
トーナメントの決勝、普通なら観客たちが湧き上がる場面だ。
だがラザニアちゃんの闘い方があまりにも悍ましかったからか、場はシーンとなって静まり返ってしまった。誰も私の勝利を讃えようとしない。
いや、讃える事自体を忘れているのだろう。
それほどまでにラザニアちゃんの姿勢が常軌を逸していたのだ。私は何とか勝ててホッと肩を撫で下ろして闘技場を後にすべく大の字になって倒れ込んだ対戦相手を一瞥して踵を返した。
その時だった。
一瞬遅れて観客が湧きあがったのは。
そして私は油断してしまったのだ。
自分の勝利が確定した事で完全に安堵してしまった。
観客が沸いたのは私が勝ったからでは無く、その背後に理由はあった。何とラザニアちゃんが起き上がって私にもの凄い勢いで突っ込んで来たのだ。
ヒロインは鬼の形相となってナイフを握りしめていた。彼女は私を背後から刺し殺そうと企てた様だ。
そしてこんな時に乙女ゲームはストーリー通りに展開が進むらしい。振り返ってヒロインの暴挙に気付いて対処を試みようとした瞬間、私はズルッとバランスを崩してしまった。
「バ、バナナの皮!?」
「死ねえええええええええええ!! ローズマリー、アンタは私が殺してやる!!」
体制を崩して何とか踏ん張るも殺気に満ちたヒロインが悪役令嬢に向かってすぐそこまで迫っていた。怒気を荒げたラザニアちゃんはナイフを握りしめる手から血を滴らせながら物騒な叫び声を上げていた。
ブスッと刃物が肉を刺す鈍い音が私の耳に届いたのはその数秒後だった。
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