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素晴らしいこの世界の片隅で。

スーパーボールおじさん

作者: ニチニチ

ねえ。

スーパーボールおじさんって知ってる?

 

 



小学校中学年頃。

唐突に、スーパーボールおじさんが登場したのを、今でも鮮明に覚えている。





スーパーボールおじさん。

それは、目にも止まらぬスピードで、スーパーボールを操る。


スーパーボールおじさん。

おじさんの技に魅入られて、ついていってはいけない。


スーパーボールおじさん。

彼は、誘拐犯なのだから。


 

 



誰かが言った。

この前、友達が夕暮れにスーパーボールおじさんに遭遇したと。

そして、スーパーボールおじさんを尾行して、家を突き止めたと。


崩れかかったその家は、ごみ屋敷になっていて、異臭がしていたと。

玄関から、そっと中をのぞいたら、脱いだ靴のかかとに、サイトウって書かれていたと。





 



夏休み前の教室には、なんとも言いがたい、独特の高揚感が漂う。

それは、日ごとに大きくなっていって、はちきれそうになっている。

僕らは、そのはちきれそうなワクワクを、今は見ないふりをして無理やり抑え込む。


 



帰り道。

はちきれそうになっていたワクワクは、どういう訳かしぼんでしまった。


もらった通知表を見ながら、みんなで言い訳を考える。

夏休み前の最後の現実から逃れたくて、なにか楽しいことを見つけようとする。

 

 

 

 


正体不明のスーパーボールおじさん。

その正体を、暴いてやろう。


 

 

 



こうして、あの夏、僕らは捜索隊を結成した。

 

 

 

 



子供は目の前のことに純粋に反応する。

だから、結成当時の崇高な使命感は、いつの間にか脱線してしまう。



形のいい空き缶。

必死の捜索の合間に、草むらから見つかる。

何となく、蹴ってみる。

そうすると、いつの間にか、缶けりが始まってしまう。


最終的には、カラスを追いかけ回していた。

でも、草むらの中から、古くなったスーパーボールを見つけると、はっとする。

 

 



朝から日が沈むまで。

僕らは、とびはねて、ぶつかって、笑っていた。

 

 



全てが輝いていたあの夏。

よくわからない、使命感と高揚感。


僕らのあの夏。

結成した捜索隊は、毎日楽しく捜索していたけど。

結局、スーパーボールおじさんを見つけることはできなかった。



夏休みが終わると。

不思議なくらいに、スーパーボールおじさんは忘れられていった。

まるで、何もなかったかのように。


 

 

 

 



ねえ。

スーパーボールおじさんって知ってる?

 

 

 

 

 



独特の高揚感が漂う教室で、誰かが言ったはずなのに。

あのとき、誰が言ったのか、僕にはどうしても思い出せなかった。

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