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「キーファ様。私をどうか完璧な存在、魔王様にしてください」

「おい! ユーリ!」


キーファはそれを聞いて満足気に微笑んだ。


「良いだろう。予定通り儀式の準備を進める」

「おいっ!」


ユーリはウィルの方をちらりと振り向いた。


「この人のこと、もう見たくありません。外へ、早く外へ放り出してください。こんな人に関わってしまって、時間の無駄でした」

「なっ……!」


次の瞬間、横腹をしたたかに打ち付けられ、ウィルは暗い穴に落ちていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


キーファは廊下を歩きながら部下の人間たちに指示を出した。


「さっさと185番に式典用の準備をさせろ! 礼服、祭壇の準備はできているのか? 全て完璧に整えろ! 降臨が近いのだぞ!」


俯きながら歩く少女を部下に引き渡す。

彼女にいつもイライラさせられていたが、今日は珍しく気分が良かった。

あの人間の間抜けな顔を思い出して、彼女はほくそ笑んだ。


(ああいう絶望に満ちた顔を185番にはしてほしかったのだがな……)


彼女はかぶりを振って彼女の執務室のドアを開けた。そこには、サイクロプスのアスモレクともう一人、見知った顔がいた。


「久しぶりだな。魔女リリス」


魔法で作った小さな牢に閉じ込められたリリスを見下ろして笑う。


「どなたでしたっけ? 私は初対面に思うのですが……」


リリスはきょとんとした顔をした。キーファは怒りに顔を歪めた。


「ふん、強がりはよしたらどうだ? お前のそういう姿をずっと見たかったよ……。

このタイミングで侵入者と聞いて少々焦ったが、誰かと思えばお前だったとは。まぁ、お前で良かったんだろうな。お前は弱い」

「だから、どなたでしたっけ? 思い出せないんですって、あなたのこと。全く」

「私に魔王陛下の生まれ変わりを取られて悔しいか?」


リリスは初めて冷たい目でキーファを見上げた。


「ふん、その目だよ、魔女リリス。全盛期のお前を思い出させる」

「あの子に一体何をしようとしているんです?」

「魔王になってもらうだけだ。魔王の転生者であるあの子の魂があればそれができる。リリス、お前の力がなくてもな。あの子の絶望と、生贄とで成し遂げられる。もうすぐだ!」


リリスは俯いて、悲しみを滲ませるかのように呟いた。


「絶望とは……希望を与えない、ということじゃないんですよ。あなたは何もわかっていない」

「リリス、お前は悔しいんだろう。

私もいつもお前を、お前たちを妬んでいた。魔王陛下の……あの完璧な御方の側にいるお前たちを。付き合いが長いと言うだけで、魂の契りまでか交わして。みすみすあの御方を死なせた!」

「……」


キーファは憎悪に燃える眼差しで――魔王が崩御してから長い時間が経ったというのにその熱は褪せることなく――リリスを睨んだ。


「勇者とは言えたかが人間の一人に魔王陛下を討ち取られた……。遠征中に私がそれを聞いてどんな気持ちでいたことか……。お前たちがいながら……」

「……」


「……だがもういい。もうすぐあの完璧な御方の復活だ。私だけが守る。誰にも近づけさせない」

「……今のままでは失敗でしょうね。このままでは不完全な魔王のなり損ないができるだけです」

「そんなことはない。儀式は絶対に成功させる」

「……あの冒険者はどうしました?」

「……ふん、お前が人間と組むとはな。時も流れたものだ」

「必要上仕方なくですがね……」

「だが、あの人間はもう終わりだ。まもなくゴミの焼却の時間だしな」

「……」

「ふっ。まぁ、魔王陛下の復活前に死ねるのは幸せと言えるかもしれないな」

「ふふ……確かにゴミクズみたいな目の男でしたが、火がつけばよく燃えそうな男でしたね……」

「……? まぁ、いい。お前はじきに魔王陛下が復活なされるのをそこで見ていろ。お前には絶対に会わせないがな」


そう言ってキーファは部屋から出て行った。


リリスはふう、と溜め息をついた。


「アスモレク、もう良いです。ここから出してください」

「おう」


一つ目の巨人が立ち上がって、大きな手でやりにくそうに鍵を開ける。リリスは牢から出てきて伸びをする。


「ありがとうございます。あなたの望みは『安定的に安全に人間を殺す』でしたね。

南西にまだコロッセウム方式で処刑を行う国がありますから、そこの処刑人の役職を紹介しましょう」

「サンキュー」

「あなたはそのためにキーファに力を貸したんですね?」

「まぁな、人間嫌いだし。人間は本当に愚かだ。何がしたいんだか魔王様を崇拝する宗教なんて作って、あの子供を率先して虐めたのもキーファじゃなく人間たちだった」

「……まぁ、人間が愚かなのは今更ですよ。さっさとここを出なさい。ここはもうすぐ私が破壊しますから」

「キーファが言っていた通りだが、今日は儀式の日。魔王様は、俺たちの知る魔王様は本当に復活するのか?」

「……そんなことは絶対にありえません。そして私がそれをさせません」


リリスは強い眼差しを一つ目に向けた。一つ目の巨人は意外と愛嬌のある顔で笑っていた。


「そうか、お前は変わらないようだな。お前らと一緒に戦っていた頃が懐かしいよ」

「私は魔王様以外は皆嫌いでしたけどね。さぁ、さっさと行きなさい」

「あぁ、じゃあな」


一つ目の巨人が出ていくと、リリスはふっと真顔になる。そして長い呪文を唱え、部屋に遠隔操作式の爆弾を仕掛けた。

リリスはふと手を止めて宙を見た。


(あの冒険者のことは……まぁ、放っておいていいか……)


彼女はまた作業を再開させた。


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