【第一章】4 私のすべきことは
よろしくお願いいたします。
講堂の扉を開けた典花は、目の前の状況が理解できなかった。
「なに…これ…」
そこにあったのは。
割れた防弾ガラス。大きな血だまり。倒れてピクリとも動かない同級生たち。
「皆さん、何をやっているのですか?早く起きてください。さあ、早く!!」
梅木の呼びかけに答える声はない。
「先生!そんなこと言ってる場合じゃないですよ!早く安全な場所に運ばないとみんな死んじゃうよ!!」
典花は梅木の肩を掴んでゆさぶった。だが、梅木はその場から動こうとしない。
「何を言っているの…?この講堂が一番安全だから一年生をここに集めていたのよ!ここより安全な場所なんてあるはずないわ!」
「え、じゃあ保健室にいる翼紗は…?」
「あそこは地下にあって悪魔の襲撃を受ける可能性としては低いけれど、今は人員不足で誰もいないわ!それにこの人数をあの小さな部屋に収めるなんてこと不可能よ!」
「…そんな…」
では自分が聞いたあの物音は一体なんだったのか。まさか悪魔の襲撃だったのではないだろうか。そうなると翼紗はもう…。それにこれだけの人数が全滅しているということは、二・三年生も危機的状況に陥っていると考えて相違ないだろう。
典花はかつてない絶望感を味わっていた。手にあるのは百式機関短銃のみ。それ以外で悪魔に対抗する術を持っていない。こんな状況で梅木はひたすらに倒れた一年生を起こそうと躍起になっている。
ここの教師はやはり壊れている。自分の“普通”は通用しない。
もし翼紗ならどうする。もしこの場にいるのが私ではなく翼紗なら。彼女ならきっと教師の言うことを無視してでも動けない同級生をここよりも安全な場所を探して移そうとするのではないだろうか。
それならば。
「…虹山さん!?あなた何をしているの!」
「みんなを安全な場所に運んでるんですよ!ここが一番安全…?そんなわけないじゃないですか!7㎝の防弾ガラスすら突破されてここが安全なんて言えるんですか!?」
「…!!」
典花は武器を捨て、同級生の脇を抱えた。意識のない人間は通常よりも重さを増す。普段ならこんな重いものは持てないと諦めていたかもしれない。けれど、諦めすことはすなわち仲間の死を意味する。ここで投げ出すわけにはいかない。
「私はみんなを助けるんだ…!そんで三年間翼紗を絶対に守ってみせる!!」
その時だった。天井から一体の悪魔が講堂に侵入してきたのは。
典花はとっさに武器を構えようとした。けれど、その手にあるのは同級生の体。そして武器はと言うと、何メートルも先の床に転がっていた。今から負傷者を寝かせ、武器を取り、悪魔に対抗するというのは現実的な話ではなかった。反射的に負傷者に覆いかぶさるようにして体に力を入れる。
「(死にたくないよ…!)」
近づいてくる悪魔の気配に成すすべなく殺される未来を覚悟した。
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