【第一章】2 助けたい
よろしくお願いいたします。
典花の勘は当たった。
講堂に着くと、ステージの上に入学式の時に見たにこやかな教師が立っていた。今日は武装した上からゼッケンのようなものを貼っている。どうやらこの教師の名前は梅木というらしい。
「先日も言っていたあの星…私たちの予測は的中しました。先ほど、悪魔が校内に結界を破って侵入してきました。現在、外で二・三年生が交戦中です。ちょうど良い機会ですので、皆さんにも戦闘の様子を見学してもらおうと思い、ここに来てもらいました。武装してもらったのは、一応天井は防弾ガラスで守られていますし、壁にも何重にも悪魔除けが施されていますが、絶対に安全とは言い切れませんので、もしもの時に自分の身を守れるようにです。それではよろしいですか?」
梅木が優しく微笑んでリモコンのボタンを押す。すると、講堂の天井に変化があった。天井が二つに割れ、左右の壁の中へと吸い込まれるように収納される。そして現れたのは、プラネタリウムでも映しそうなくらい大きな防弾ガラスと、その向こうで繰り広げられる壮絶な戦い。
それを見た一年生全員は言葉を失った。
それもそのはずだ。
想像を大きく超える現実。
そして。
ガラスの上に悪魔と、それに追い詰められる先輩の姿があったのだから。
この目前にあるものは本当に現実で起こっていることなのだろうか。誰もが疑った。そしてそれは、もう普通の世界に戻れないことを表しているように思えた。『普通の女の子』そんな言葉を聞いたのはいつのことだっただろうか。
「先生!助けなくていいんですか!?生徒が今この瞬間、目の前で…こ、殺されそうなのに!何もしないんですか!?」
隣にいた翼紗が典花を見ると、その顔は今にも泣き出しそうだった。
「ここの生徒たちは、皆十分な訓練を積んでいます。ですから、自分の身は自分で守れるはずなのです。あの子はきっと油断したのでしょうね。皆さん、良いですか?一つの油断、手抜きはこういった事態を招くのです。しっかり覚えておいてくださいね」
「そ…んな…」
「虹山さん、あの子が気になるのですか?でしたら、あなたが助けて差し上げれば良いのではないですか?」
梅木に言われ、典花はうつむいた。手にあるのは百式機関短銃のみ。だが、天井は防弾ガラス。撃ったところで悪魔の元へは届かないし、もしかしたら周りにいるみんなに当たってしまうかもしれない。ここの教師は皆壊れている。典花はそう思った。
「典花、私にやらせて」
典花の肩に手を置いてそう言ったのは、親友・御神翼紗だった。
「私が助けてみせるから」
典花の目に涙が光る。
「だから典花、ちゃんと見ててね」
親友がコクリとうなずくのを見ると、翼紗は視線を真上へと向ける。今にも殺されそうな先輩を助けるために。
ドッと、翼紗の手から放たれた炎の塊が典花の想いものせて悪魔へとまっすぐ突き進む。やがて防弾ガラスを通り抜け、目標に直撃した。
攻撃を受けた悪魔は炎に包まれ、そして消えた。
静まり返っていた講堂が、一気に歓喜の声でいっぱいになる。見ると、梅木も嬉しそうに微笑んで……いなかった。
「御神さん、すごいわね。厚さ7㎝の防弾ガラスを通り抜けるほどの強さを持つ魔法が使えるなんてさすがね」
でもね、と梅木は続ける。
「覚えておいてほしいのですが、いきなりそんなことをすると…危険なんですよ?」
典花は梅木に疑いの目を向ける。
「危ないってどういう…」
典花の口が止まる。
彼女の視界に御神翼紗が入った。明らかに彼女の様子がおかしい。
「危ないって…こういうこ…とか…」
声もかすれ、目の焦点も定まっていない。立っていることも困難になり、翼紗はこの場へ崩れ落ちた。
倒れた翼紗は大量の汗をかき、息も荒く、ひきつったような呼吸を繰り返している。
「翼紗?大丈夫!?ちょっとしっかりしてよ!ねえ!翼紗ってば!!」
典花の泣き叫ぶ声を聞いても、親友は目を開けない。
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