ロウ・ティーは窮屈
わたしは座っている。ここは屋外だ。豪華絢爛な館の庭だ。建物は視界に入らない。真っ赤ではない薔薇、真っ白ではない鈴蘭、赤い真珠みたいなチューリップ。
色んな香りがする。花、焼き菓子、バター、草木、なんとなく空気そのもの、木苺。空は晴れている。雲は白くてたくましい。三段重ねのティースタンドにはタルトもケーキもサンドイッチもクッキーもムースもある。ぎゅうぎゅうだ。ティースタンドの下にはテーブルがある。ティースタンドとふたり分の紅茶を置くには華奢な丸いテーブル。テーブルクロスは励繧ア陜■柄にも花柄にも見える。紅茶はまだ注がれない。ティーカップの底で熱帯魚が溺死の真似をしている。
フリル、レース。白とミントグリーンのワンピース。ボトムや裾がふんわりしているこの服は、とても着心地が悪い。わたしの胴体はしっかりと締め付けられている。ぎちりと幻聴がする。おかげでわたしはきれいな狐みたいな姿でいられる。
サンドイッチはキュウリと、チーズと、ベーコンと、たまごと、トマトと、レタスと、ハムと、スモークサーモンと、アボカドと、玉ねぎと、パプリカと、白ごまと、ローストビーフと、ピクルスと、玉ねぎと、海老と、照り焼きチキン。マヨネーズにハニーマスタード、ケチャップ、わさび醤油ソース、ほんのちょっとの塩味。口の中に溢れるけど、わたしはちゃんとこぼさずに飲み込む。もぐもぐ口を動かして、よく噛んで、ゆっくり少しずつ喉へ、胃へ。
チューリップが自由に風を受ける。薔薇か秋桜の花びらが、ひらひら浮かんで、落ちる。でもわたしのワンピースはひらりともしない。袖も風を感じない。しっかりと締め付けられ、括りつけられている。身動ぎは最低限にしないと、椅子から怒られる。ぎいぎいぎい。
わたしは透明の箱の中にいて、肘を、指先を ごちごちぶつけながら食事を続ける。下着も靴下もわたしの身体にぴったりと張り付いている。酸素もいらないのだ。
ボーンチャイナは青っぽい。液体は赤と茶色っぽい。わたしは手首を軋ませて、カップを持つ。手袋もしていない指を、窒素がくるくると締め付ける。これでしばらくは食べ物じゃなくて飲み物だ。喉が上下したかもしれない。
ティーカップを差し出すと、黒い励▽莠が柔軟剤みたいにミルクを注ぐ。ミルクはとろりとカップの縁を金色に変えた。高級になったカップから飲んでも、味は変わらない。香りはしない。私の鼻はなくなったみたいに匂いを感じない。わたしの顔は励▽莠の目にも、水面にも、館の窓ガラスにも映らない。だからわたしは、わたしの目の色が分からない。きっと丸いんだとは思うけど。
サンドイッチを三つ、食べ終わる。目の前に優雅に、ゆったり座っている魄ェ鶏ケはチョコチップクッキーを食べている。手も大きいし、クッキーも大きい。苺の載っていないショートケーキを食べる。苺はさっき、ヘリオトロープの蝶と萌黄の毛虫とカーマインの蠅と錆納戸の蚯蚓が食べてしまった。生クリームがやわらかい。
わたしは立ち上がらないし、寝転がらない。椅子はわたしを離さない。脚の先まで動かさないで、筒に腕を通すように決められた動きをする。ティースタンドの上には沢山のケーキが溢れないように積みあがっている。テーブルクロスの中で、蠅が歩き回っている。翅はフォークで潰した。
マドレーヌが口の中で潰れたので、喉に通すためにカップを傾ける。なくならない。
空が落ちてきたので、雲がわたしの隣にある。わたしの肩をつかむように、薔薇がふくらはぎを刺す。魄ェ鶏ケがマドレーヌを食べろというので、マドレーヌとマシュマロを食べる。サンドイッチはアボカドが多い方が好き、と励▽莠に伝える。次のお茶会は十三●溯i後だ。