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かつて愛した君たちへ【未完】  作者: K.K.
第一話 もうすぐ君と僕に夏が来る頃
9/18

7

「4、5限連続だしサボってしまおうか……雨ばっかりで気分が萎えてきた」

「梅雨だから仕方ないじゃん、それに真面目くんキャラじゃ無かったの?」

「そんな奴じゃない事くらい知ってるだろ。高校の時どんだけサボったことか」

「京くん出席ギリギリだったよね……成績は悪くなかったけど」

「まーね、あの時の俺は今から見ても滅茶苦茶する奴だった」

 電車に延々と揺られて見知らぬ土地に行ったり、旨い飯を食べたり、綺麗な景色を眺めたり。とにかくここじゃない何処かへ行って、非日常に在りたいと願っていた。幸い高校は私服自由だったから、特に補導されることも無く、俺はそんな無茶を続ける事が出来たのだった。

「私も何回か連れって行って貰ったよねー、一緒に長浜でかしわ鍋とか食べたり、加太で海の幸食べたり。で部活が始まる時間までに戻ったりして、しれっと活動したり」

「そういやそうだったねぇ……今思うとどんだけザルなんだって話なんだけど」

「確かにねー、顧問の先生も黙認してくれてたし」

ありがとう宮田先生、あなたの名はあと3年位は忘れないと思う!


「そんな俺と玲子が今や真面目な大学生になるとはなぁ……」

「京くんは早速不真面目君になりそうだけど」

「耳が痛い……ま、流石に出るけど。連れも一緒だし」

「やっぱり京くんは見栄っ張りなんだね……。ある意味感心するかな」

「チキンと言いたいんだろ?そうなんだろ!?」

相変わらずの毒舌玲子さんだった。


 大学の通りを挟んで隣にある喫茶で、俺と玲子はかつての様にコーヒーを飲む。しとしとと降る雨音と、店内に流れる古いジャズと、それに窓から差し込む灰色の光とが、俺の気分をどんどんと泥沼の底へと沈ませていく。いつもは愛してやまない落ち着いた店内でさえも、今となっては重しにしかならない。だから、梅雨の季節は嫌いだ。

「早く梅雨明けしないかなぁ……」

「まだ先週梅雨入りしたばっかりだから!……それに雨でもいいことあるでしょ?」

「まるで無いんだな、これが。湿気も凄いし」

「それはねー、私の髪も結構ごわごわになるから大変。京くんも髪長めだし大変じゃない?」

「ぼちぼちかなぁ……まあ、普段よりも面倒なのは確かだ」

「だよねー、……でも私は結構好きなの」

ストローを咥えながら、彼女は少し笑った。


 青白ツートンの箱をトントンと叩いて、少し頭を出した煙草をひょいと摘まんで咥える。古いジッポで雑に火を付けて、一つ口の中で煙を燻らせてから前を見ると、手を俺に向ける彼女がいた。

「えー、自分の吸えよ」

「さっきので切らしちゃった、別に一本くらいいいじゃん」

「別にいいけどさ、ハイライトだけど大丈夫か?何時も吸ってるのもうちょい軽めのだろ?」

玲子が吸っていたのは確かパーラメントだったような……?上品でミルキーな品である。

「軽いのも重いのもどっちも好きだもん。君みたいに格好つけて重い煙草吸って、香りなんか分からないまま苦い苦いと言うだけの奴とは違うから!」

「はいはい、格好つけで悪うございました。まあでもあの箱のデザインとか、独特の味が好きなんだよ。なにより、親父が吸ってたのもこれだったしな」

「……そういえばそうだったね」

 二本の紫煙が絡まり合って、ふわりと舞い上っていく。そうして天井の近くまで達すると、ふっと消えてしまった。けれども、二人の昔話は続いていく。


「いやー、文化祭の時の京くんは本当に凄かったよね。私今でも覚えてるもん」

「若干黒歴史となり始めてる記憶を穿らないでくれないか……あの時は必死だったんだよ」

「色々あったもんね。でも、格好良かったよ」

「元カレ相手に今更そんなこと言わないでくれよ……こっ恥ずかしいわ」

「ごめんごめん!でも、当時は学校中で噂になってた位だし」

「そうなのか?自覚なかったわ」

「サボりで有名な京くんがあんなに校内中、果ては町内中を駆け回って、必死に働いて。それで学校どころか近隣の住民たちをも巻き込んだ、史上最大の文化祭を成功させたんだもん。そりゃ話題になるよ」

「本当はちょっと違うけどな」

 あの時は目の前の事に取り組むのが精一杯で、後ろなんて振り返る勇気も無くて。そうして壊れたロボットの様に、ひたすらに突っ走っていたから、自分自身の事の評価とか、行動の結果積みあがった物とかは、本当にどうでもよかったのだ。だから、成功させたのは俺の意思では無かった。

「第三者から見れば京くんが文化祭を頑張って盛り上げた、それ以上でもそれ以下でも無いんだから、別に違わないと思うけどな」

「……まあ玲子がそう言うならそうかもね」

うんうんと彼女は頷く。

「だがしかし!それから2年後、今や夏目京介は自堕落な大学生になっていた……」

「だからなってないって、サボらないから」

「ふふ……」

彼女はこらえきれずに笑う。やけに眩しくて、卑怯だ。


「しっかし思い出話ばっかりしてたら、なんだか当時付き合いがあった奴らに会いたくなったなぁ……」

「エレ研のメンバーとか?」

「そそ、我が後輩たちはしっかり育っているだろうか」

延々としゃべり続ける奴だとか、逆に一ミリも喋らずにハンドサインで何でもかんでも伝えようとする子だとか。俺を含めて割と変人の巣窟だった、我らがエレクトロニクス研究会である。

「京くんに育てられるような不真面目な子はいなかったよ」

「俺の方が酷かったのか……」

「そうだよ?」

きょとんと玲子は首を傾げる。割と心に刺さるぞ。

「……まあいい。だからさ、同窓会とまではいかずともお茶位したいなあとか、そんな風に思ってたりする訳よ」

「なるほどねー。するにしても、お盆とか?みんなもう別々の場所に住んでる訳だし、集まるとするなら地元くらいだからね。京くんも盆くらい、家に帰るでしょ?」

「まーね。それじゃもう少し近づいたら、各々連絡することにするよ」

「りょーかい、その時は私も勿論呼んでね!」

「考えとく」

えーと口を膨らませる親友に、俺の口元も少しだけ緩んだ。



「うわー、さっきより雨強くなってるじゃん」

「そうだね……」

だらだらとコーヒーと煙草を二人で喫して、二時を回ってからようやく店を出ると、ざあざあどころではなく雨が降っていた。間違いなく靴が水浸しになるレベルだ。

 はぁと溜め息をついてから、紺の傘を広げようとすると、玲子が俺の横に並んだ。

「ねえ、隣入れてくれない?」

「……いや、自分の傘使えよ」

「いいじゃん別にそれくらい……ケチだなぁ」

「ケチとかそういう話じゃなくてだな、っておい」

急に彼女が傘もささずに、店から飛び出していったと思ったら、少ししたところでピタッと止まって、こちらに振り返った。俺は小走りで彼女の元まで行くと、彼女はにたりと悪そうに笑って、もう一度「隣入れて」と言った。

「あーもう、好きにしろ」

根負けした俺は彼女から目を逸らして、傘をきっかり半分差し出した。


挿絵(By みてみん)

更新がだいぶ遅くなってすみません

寝込んでた&挿絵書いてたら遅れました<(_ _)>

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