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かつて愛した君たちへ【未完】  作者: K.K.
第一話 もうすぐ君と僕に夏が来る頃
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2

「トレンチコートと青いシャツ、丸サングラス……おはよう、君が京くんだよね?」

日曜日の昼下がり。人で込み合う隣町の駅前に、えらく可愛い子がいた。顔は当然美人さんで、服もゴスまでは行かないけれども男心をくすぐるような、そんなファッションだった。えらく男受けしそうな子だなぁ……。

「あの……」

「ああごめんごめん、俺が夏目京介です。君が七瀬凜さん?」

「はいっ!良かったーちゃんと会えて。あんまりこの辺り来たこと無くて」

「そ、そうなんだ……」

……可愛い、彼女とはベクトルは違うけれども。あとどもってる俺キメェ。

「それじゃああの……」と彼女は両手を差し出す。そういえばレンタルでしたね……。心の中で一昨日の俺に文句を言いながら、計28000円を彼女に渡す。一体これでどれだけの事が出来ようか……。

「はい、確かに!じゃあ行きましょうか、京くん!」

まあでも、可愛い子の対価としては色々と安いのかもしれない。



 時は少し戻って土曜日の朝。

「は?なんぞこれ」

……レンタル彼女?そんなのいつ予約したっけ?

予約したような、予約してないような……酒漬けの海馬は使えない。

「あーあーばっかじゃねえの俺、何てもん予約してんだ」

酒というものがいかに恐ろしいものか思い知らされてくれる。

仕方ない、キャンセルしようと思ったのだが……。

「前日キャンセル料50%……14000円!?たっか!」

余裕で豪勢な独り焼肉を楽しめる値段である。そんな金をドブに捨てるのも惜しいので、俺は渋々レンカノを借りることにしたのだった。


挿絵(By みてみん)


 ノープランで突入した今回のレンタルであったが、七瀬さんの提案でまずは街をプラプラすることになった。

「京くんって今学生さんなんですか?」

「うん、大学2年生。七瀬さんは?」

「私は今大学1年です。京くんの一個下ですよ!」

……にしては凄いはきはきとしているな、流石。


「へーっ、京くんってドライブ好きなんだ」

「そそ。普段は小さい車に乗ってるんだけど、ドライブする時はセダンなんか乗っちゃって。車に乗ってるとなんか何処にでも行けるような気がして、だから好きなんだよね」

「そうなんだ!私は免許持ってないからアレなんだけど、ちょっと車もほしいかな、なんて思っちゃった」

一体俺は何で女の子相手にドライブなんかについて熱く語ってるんだ。そもそもレンタル彼女はドライブNGなのに……。にしても話を合わせるのが上手いんだなぁ……自然体で話せる。

 さりげなく握られた手と、つらつらと流れ行く言の葉に、彼女の凄さを感じる。だからこそ、あれほどの金額でも借りる人は借りるんだなぁと、どこか他人事の様に思った。


 その後はラウワンに入ってカラオケで歌ったりダーツしたり、そんな事をしながら楽しげな4時間を過ごした。歌もうまいしダーツの腕も中々だし、彼女は完璧超人か何かなんだろうか?

「いやぁ、こんなデートらしいデートだなんてしたこと無かったから、凄く楽しかったよ。七瀬さん、ありがとう」

玲子とのデートは互いに気を使ってばっかりで、互いにどこか遠慮しがちに一歩引いた距離で、てくてくと歩いていた。あの気まずさというか悪い意味でのドキドキ感というか、そんな感じのモヤモヤとしたモノは今日のデートには無かったように思う。

「いえいえっ、私も今日は京くんのお話を聞けて楽しかったよ!」

「そりゃどうも。それじゃ、また」

「京くん、またねっ」

 金だけの関係というのも、意外と悪くないのかもしれない。家に帰るや否や、俺は☆5のレビューを書いた。

「……また、頼んでみようかね」



 高校の頃、憧れていた先輩がいた。普段はだらだらと怠け者の様に振る舞っているけれども、一度やる気になると全力で成し遂げる人だった。2年前の文化祭、同じ部活だった先輩は部長としてだけでなく、文化祭実行委員長としても仕事に取り組んでいた。他の何にも目にくれず、まるで命を削り続けるように働くその姿は、私の凍った心に突き刺さった。何にでも最低限出来ればいいと冷めた思考をしていた私に、論理性を越えた何かを叩きつけた彼の横顔は、今でも鮮明に覚えている。

 けれども彼の横には、彼女がいた。先輩に負けず劣らず煌びやかな彼女は、いつも先輩の横に寄り添って。1+1が10にでも100にでもなるかのような、そんな関係だった。先輩は恋人なんかじゃなくて単なる友達だとお茶を濁していたが、そんなありきたりな言葉じゃ表せない位の絆があったと、私は思う。

 先輩が卒業してから、私も変わろう努力した。分厚い眼鏡をコンタクトにして、ボサボサの髪の毛を手入れしたり。服だって最低限からちょっとおしゃれな物にしてみたり。それに何よりも、最低限の言葉を発するだけではだめだと、はきはきと笑顔で喋る様にしたり。全部全部、手の届かない先輩の幻影を追い求めて、頑張ったのだ。

 

 先輩や彼女がいる大学へと進むことが出来なかったけれども、どこかで先輩に会えないかなだなんてレンタル彼女も始めてみた。意外と紳士な人が多くて結構楽しかったけれども、それでもやっぱりどこかで先輩の幻想を追い求めていた。

 どうせ叶わない幻想、叶ってはいけない幻想。

 そんな先輩がなんで……。

 曇らせた顔して、レンタル彼女なんて借りてるんですか。

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