表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつて愛した君たちへ【未完】  作者: K.K.
第一話 もうすぐ君と僕に夏が来る頃
2/18

1

 桜舞うキャンパスの片隅で俺はコーヒーを啜り、サンドイッチを齧る。暖かな日差しに包まれた躰は、灯りが消えた心を覆い隠している。そうして自分を騙し騙し、丸め込むのだ。

 とはいえ、視界にチラチラと移り込む白色と、無駄にイチャコラするカップル共にそろそろ嫌気がさした俺は、残りを強引に口の中に流し込んで、空いたカップをその辺りのゴミ箱に放った。そしてさっさとオサラバしようと歩きだしたところで、連れに声を掛けられた。


「おっ、京介。もう上がりか?」

「おうよ。今日は三限で終わりだからな」

「そうかー、俺はまだ二限も残ってるわ。サボりてぇ……」

「まだ新学期早々ってのにサボってると留年しちまうぞ。確か去年の必修は出席ギリギリだったろ?」

「真面目君はいう事が違いますなぁ……ところでさ、今日のグルサー飲みって何時からだっけ?」

「東口で7時だっけか?まあその辺りに来てくれよ」

「へいよー、じゃまた後でLINEするわ」

「おう」


 今日は我らがグルメサークルの飲みである。まあグルメサークルとは名ばかりの、単なる遊びサークルなんだが。去年は海行ったし。奴、正人を含めて連れは悪い奴じゃ無いんだが、何しろあの子がいる。このサークルで仲を深め、昨冬別れたばかりの玲子である。

彼女と付き合うプレッシャーが消えてしまったとはいえ、まだあれから半年も経っていない。俺は少々憂鬱になりながら、一旦家へと帰った。



 いざ参加した飲みの席は、案の定気持ちの良い物では無かった。まあそりゃそうよね。

俺が少しぎこちない笑みを浮かべる一方で、彼女はいつもと変わらず煌びやかに輝いていた。

もう別の男を作ったんだろうな、相手はどんな奴なんだろう、みたいに気持ち悪い事を考えていると、隣の正人に小声で話し掛けられた。

「まーだ引き摺ってるのか?」

「アホ、そんなんじゃねえよ。ただまあ、あの子は変わらないなぁと」

「そりゃそうだろ、玲子ちゃんはモテまくってるし。お前みたいな奴なんてさっさと忘れて、新しい男とよろしくやってるんだろ」

「ひでーな、まあ俺もそうは思うが」

そいつは彼女に劣らず素敵な奴なんだろう。俺とは違って。


「しっかしお前もそんな顔するくらいなら、さっさと別の女と付き合えばいいのに」

「出会いがねーんだよ、それに対して興味が湧かないし」

「そうかあそうかあ、そりゃお気の毒に」

「うるせぇバーカ」

どうせ付き合っても釣り合わずに切り捨てられるだけである。もう暫くはいいや、と俺は思っていた。

 

 

「ちょっと小便行ってくるわ」

「おうよ、正人」

俺もそろそろトイレに行くかなあなんて考えていると、暖かいものが俺の肩に触れた。

「……」

「京くん、久しぶり。元気してた?」

うるせえそんな訳があるか、何て言えずに俺は頷く。

「そっかあそっかあ……、最近サークルでもあんまり見なかったから、心配してたんだよ!」

「そうなのか?そりゃどうも」

「うん、良かったよ……じゃ、あんまり長居したら正人君に迷惑掛かるから、もう戻るね?」

「おうよ。じゃまた」

「うん、また!」

相も変わらず眩しい君は、俺には過ぎたものだった。



「飲み過ぎたな……やっちまった」

気まずいからって酒に逃げるとか我ながらアホかと思うが、時すでに遅し。服をぐしゃりと脱ぎ捨てて、もう限界だと水も飲まずにベッドに倒れ込む。ふわふわとした意識の中、怠いなぁなんて思いながらも普段の癖でスマホを弄っていると、ある広告が目に入った

「へぇ……レンタル彼女ねえ」

ヤれもしないのに馬鹿みたいに金を払って、一体何がいいんだかまるで理解できない。できないのだが……。

酔いに酔って判断力を失った俺は、何を思ったかサイト登録をして、女の子を指名までしたらしい。全てを俺が知ったのは、翌日の昼過ぎだった。



「うー……頭が痛え」

目を覚ますと、既にカーテンの隙間から真白い光が漏れ出していた。嫌な予感がして枕元の時計を覗き込むと、案の定時刻は正午を周った辺りだった。

今日は土曜日だから講義を入れていないとはいえ、いくら何でも昼まで寝るのは飲み過ぎである。はぁとため息をついて、脱ぎ散らかした服を洗濯機に運ぼうとしていると、軽やかな着信音が鳴った。


『おい京介、お前大丈夫か?何時まで経っても電話に出ねーし』

「なんだよ正人……ってうわっ」

馬鹿みたいな数の着信履歴に思わず声を上げる。

『あんなに真面目ぶって何があっても朝早くに起きるお前が、昼になっても電話に出ないとか普通に心配するわ』

「ああそうか……俺なら大丈夫だ、ちっと頭は痛いが」

『あんなにべろべろに酔ったお前は初めてだわ、まだ玲子ちゃんと会うのは早かったか?』

「いや、昨日は単に疲れていただけだよ。大丈夫だ」

『お前がそう言うならいいんだが……まあもう飲むのは程々にしとけよ』

「へいへい、それじゃまた」


ああクソ、みっともねえな俺。元カノ如きでバカみたいに酒飲んで周りに心配かけて。憂鬱になりながらスマホの通知欄を眺めると、正人以外の連れからも連絡が来ていた。……本格的に惨めで嫌になる。

またはぁとため息をついて通知欄をスライドすると、大量のメッセージの中にメールの通知が紛れていた。

「レンタル彼女Platinum予約完了のお知らせ……?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ