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かつて愛した君たちへ【未完】  作者: K.K.
第二話 夏はビートでゴーゴー
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 ガレージの鍵を開けて、端にあるスイッチを押す。真っ暗な闇からコンクリート打ちっぱなしの無機質な空間が表れたら、玲子に向かって手を振る。

 彼女が車を入れている間に、ガレージ側の扉から家の中に入って、また電気を点ける。

「ただいまー……」

そう言うも、俺の声は虚しく響くばかりだった。


 リビングのソファに荷物を放って、スリル満点ドライビングの途中で買ったペットのカフェラテを飲みながら、そのままクッションにぐだぁと沈み込む。

 部屋を少し見てみれば、テレビとかテーブルとか、アップライトピアノだとかが整然と置かれているだけで、モデルルームよりも生活感が無い。事実誰もここで暮らしていないから当然ではあるのだが。

「わー、相変わらず某ヒューマノイドインターフェースの部屋みたいだねぇ……。あ、お邪魔してます」

「もうそのネタも古いんだが……割と妥当な感想だから何とも言えない」

「だよねー。じゃ早速ピザ頼もうよ、京くん」

「待て待て、流石にまだする事があるから」

「冗談だって……じゃ行こっか」



 おりんの音が部屋に響いて、淋しげに消えてゆく。線香からちょろちょろと出る煙もまた同様であった。

 俺は少しだけ昔を思い出しながら、手を合わせて目を瞑る。一言挨拶してから、特に語ることの無い近況を、それでも何とか語り尽くして、再び瞼を開け現実を見た。

「私も挨拶させてもらっていいかな?」

「……勿論」

 玲子も手を合わせて、目を瞑る。こうして彼女が祈るのも、かれこれ1年ぶりくらいではなかろうか。一体彼女は何を語っているのだろうと考えている間に、玲子は挨拶を済ませていた。

「ありがとうな、挨拶してくれて」

「別に、普通のことじゃん。お世話になったんだから」

「それでも、ありがたいのさ」

 蝋燭を手でさっと消したら、線香はそのままに部屋を後にした。



「玲子……どんだけ酒買って来てるんだ」

袋一杯に、ビールや酎ハイの缶が詰まっていた。さっきコンビニで何買ってたかよく見てなかったが、まさかこれとは……。

「だって泊まりなんでしょ?」

「にしても、なんだよなー。この量飲み切れると思うか?」

「大丈夫じゃない?」

「無理だわっ!こんなに飲んだら明日死ぬからな?」

二日酔いでトイレ籠もり待ったなしである。

「幸せに日々を暮してる京くんと違って、玲子さんには悩み事が山程あるのですー。明日休みだしいいでしょ?」

「帰る手段が無くなるんだが、今俺たち何で来たっけ?」

「京くんが車運転してくれればいいじゃん」

「えぇ……慣れてないからぶつけても知らんぞ、保険は俺のが下りるけどさ」

「そこは信頼と実績の京くんだから、ね?」

「さいですか……はぁ、仕方ないか」

 飲み始める前からやけにハイテンションな彼女であった。どれだけ酒飲みたいのやら。


 そして4時間後、案の定完全に出来上がった玲子がそこにいた。

「キモチワルイ……」

「だから最初に言ったんだろ……」

デリバリーのピザなんて脂っこい物を食べながら、たらふく酒を飲んだらこうなるのは自明の理である。

「一旦吐いてくるか?」

「……うん、トイレ行く。だから京くん肩貸して?」

「なんでだよ……」

「だってトイレの場所分からないし……多分コケちゃうから」

「あー……」

そこそこ広い家だけあって、トイレまでの距離も、今の彼女が行くにはやや長過ぎる。

「……分かったよ。その代わり途中で吐くなよ、絶対に」

「うんうん……うっぷ」

 俺の服が駄目にならないか、非常に不安である。が仕方ない。俺は彼女の腕を背に通して、ゆっくりと歩き出した。



「ほれほれ、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない……うっ」

「おわっ、喋りながら吐くなっ」

俺は優しく、厄介な友人の背を摩ってやる。オエオエとする彼女の姿を、普段を知る奴らに見せたらどうなるだろうか、少し気になる。まあかく言う俺も、こんな親友の姿を見るのは初めてではあるのだが。

「ふぅ……まだ気持ち悪いかも」

「だろうな、あんなに飲んでたんだから」

「……全部全部京くんが悪いんだもん」

「なんでだよ!」

「なんでもだよ!」

なんと理不尽な。


「ほれ、水持ってきてやったぞ」

「あーありがとう京くん。わざわざトイレまでデリバリーしてくれて」

「あなたがここから一歩も動けないからなんですけどねー……」

絶賛ダウン中の彼女である。

「そうだった、てへぺろ」

「古いし別に口に出しても可愛くないぞ」

「えー、いいじゃん……でもありがと」

「ん?何が」

「……色々と」

 そう言うと、彼女は水を一気に飲み干して、俺を見る。彼女はまだふわふわとした笑みで、けれども目だけはしっかりと俺を捉えていた。


「ちょっとね、京くんに謝らないといけないことがあるんだ。素面じゃ言えないから今言うけど」

「ん、何さ?」

「……この間ね、京くんの彼女に会ったの」

「へ?」

「栗色のロングヘアの子」

「……は?七瀬さん?」

玲子が?何故?というかどうやって?

「あー、凜って子の話ね」

「お、おう……そうだな。聞きたい事は山程あるが、一旦置いておこう。それで?」

「ちょっと色々言っちゃったからさ。重い話とか、その辺り」

「あーそうなのか……」

一体俺の親友は何をやらかしてくれてるんだろう。勤務時間外のレンタル彼女に。

「あー、えと。何から言えばいいか分からないが、とりあえず謝る相手は俺じゃないと思うけど」

「彼女とは解決済みだよ。だから……ね?」

「……まあそれならそれで良い、俺がどうこう言う問題でも無いからな」

この場合言うのは事務所になるのか?

「で、言いたい事はそれだけか?無いなら俺から質問するけど」

「ううん、もう一つ」

「……何さ?」

「彼女の本名、京くん知らないでしょ」

「……え?」

 俺はいとも簡単に凍り付いた。


「はぁ……やっぱりまだ言ってないんだ、あの子」

「何をさ?」

「何でもない、それよりあの子とはネットで出会ったの?最近流行りのマッチングアプリだとか?彼女が本名隠してるって、京くん気付いてたのかな……あれ、気付いてるんだ。私てっきり知らないと思ってたな」

「お前は俺の顔を見て全てを悟ろうとするな……いやまあ間違ってないんだけど」

ぐうの音も出ない程当たっていた。酔っぱらっていてもこれとは、流石に長い付き合いなだけある。

「それで?彼女との関係は?……まさか噂されてる通りセフレ?」

「それは流石に違うから……、ただの知り合いだよ。付き合ってさえいない」

唯のレンタル関係であり、彼女とは知り合い未満である。

「へー、紫陽花デートなんてしてたのに?私が京くんに教えてあげた場所で?」

「……見てたのかよ」

「うん。まじまじと、じろじろと、穴が開くほど、無遠慮に凝視していたよ」

「えぇ……怖いわ。というかなんでそこまで執着するんだよ」

「私が京くんの元カノで現親友だからだけど?」

 ひどく真面目な顔で、彼女は俺に言い切った。


「だからさ、二人の関係。隠さないで教えてよ、京介」

収まりませんでした、次回に続きます。

しかし、一人暮らし、特にだたっ広い部屋で独りというのは本当に気が滅入ります。

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