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かつて愛した君たちへ【未完】  作者: K.K.
第二話 夏はビートでゴーゴー
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 建物の中だと言うのにセミの鳴き声が聞こえてきて、外の暑さを容易に想像できてしまう今日この頃。俺も玲子も、ある意味夏らしい日々を過ごしていた。

「暑いから外出たくねぇ……。絶対溶けるわ、俺」

「そんな事行ってないでさっさと歩く。建物の中入ったらもう涼しいから」

「次の教室まで遠すぎるのが悪いんだよ、な?」

「すぐそこじゃん……そんなにうだうだしてると置いてくよ?」

「ごめんごめん玲子、冗談だからさ」

「ほら、行くよ。京くん」

玲子は俺の手首をしっかりと掴んで、スタスタと早足で歩き始めた。

「イタタタッ!もうちょいゆっくり歩いてくれ」

「誰がダラダラしてたせいで時間がカツカツなんだろうね?」

そう言われてしまうと、何も言い返せない俺である。


「そういえば京くん、この授業の後どこかドライブにでも行く?」

「まあ別に何もないからいいけど……夕日でも見に行くのか?」

「まーその辺りは何も考えてないけど。今日車で来てるからさー」

「あー黒のポルシェ親父さんから貰ったって言ってたね。地味に俺まだ見た事無いけど」

「そそ。それで来てるからさ、折角だしと思って。普段大学には地下鉄で来るもん」

「俺もバスだしなぁ……流石に車で通うには渋滞が酷過ぎる」

 車社会のこの街は平日であっても酷く渋滞する。そのお陰でバスも時間通りにやってこないため、俺はいつもかなり時間に余裕をもって通学する羽目になっているのだが……。

「マイカーは本当に狂気の沙汰だわ。駐車場よく空いてたな」

「結構早めに来たからねー、割と余裕で止めれたかな」

「そりゃ良かった……でドライブだっけ、どこ行く?」

「滋賀の方に抜けて琵琶湖でも見にいく?」

「南の方は汚い水溜まりだからなぁ……北まで行くと帰ってこれなくなるし」

「そうなんだけどね……それじゃあさ、地元にでも帰ってみる?一応行ける距離だし」

「どうせ盆で行くじゃんか、一月もすれば」

「そうなんだけどさ、ちょっと懐かしくなっちゃったから。偵察がてらにどうかな?」

「……まあ玲子が行きたいならいいんだけど。しかし時間的に帰ってこられるのか?」

行けないことは無いとはいえ、空いてる時間帯に高速を吹っ飛ばしても1時間以上かかる距離である。ここを出るのが4時なのだから、渋滞とかも考えると着く頃には6時を回って、流石に日も暮れているだろう。

「うーん、まあ何とかなるでしょ。最悪京くんの家泊ればいいしさ、明日オフだし」

「なんで俺の家なんだ……自分の実家に泊まれよ」

「だって帰ったらお父さんが面倒だしさ、絶対京くんとの事根掘り葉掘り聞かれるよ」

「まあそれはありそうだけれど……」

「それに京くんの家今誰もいないじゃん。だから私一人くらい余裕で泊まれるでしょ?」

「……そこまで言うなら別に構わないけど」

「よし、それじゃあ決定で。授業終わったら早速行くからさっきみたいにうだうだしないでね?」

「へいへい……」

 相変わらず彼女は押しが強かった。



 背に載せた水平対向6気筒を唸らせて、黒いスポーツカーはぐんぐんと加速する。

「やっぱり高速は空いてていいねーっ」

「渋滞抜けて高速に入った途端飛ばさないでくれよ……とうか新幹線の高架くぐったらすぐオービスあるから気を付けて」

「あ、そうなの?りょーかい、そこまでは安全運転で行くよ」

「その後も安全に行ってくれ……玲子、ハンドル握ると性格変わるって言われない?」

「そうかな?京くん私の助手席乗るの初めてだから、慣れてないだけじゃない?」

「いやいや、流石に分かるから」

こんなにウキウキとした彼女は、そう滅多にお目にかかれない。

「ふふ……、冗談だよ?」

「自覚してるならいいんだけどね、あくまで安全に……」

「だから、もっと飛ばしていくよ?」

「……嘘だろう?」

 まだ若葉ドライバーの玲子が、あっという間に高速域まで加速するこの車を運転しているのだから、全くもって笑えない。頼むから事故らないでと願う俺とは裏腹に、目を輝かせてアクセルを踏み込む玲子であった。


「あー怖かった」

「なんでよ京くん、安全運転だったのに……」

「安定して走れれば安全っていう訳じゃ無いから、もうちょいスピード落とそうな?」

「自分だって普段かっ飛ばす癖によく言うよねー、そもそも私をドライブ好きにさせたのは何処の誰でしょうか?」

「……俺だな」

「つまり全部京くんが悪いよね?」

「いやそうはならないが」

 そんな下らない事を言っている間にも、車は見覚えのある街へと入っていく。

「いやーしかし、帰ってきましたなぁ」

「帰って来たねー。ご飯どうしようかな」

「早々に晩飯の話かよ……俺の家で出前でも頼むか?」

「うんうん、ピザ頼もうよピザ!じゃそのまま京くんの家行くね?」

「構わないが、まだ道覚えてるか?」

「うーん大体は。まあ詳しくはまた後でナビしてよ」

「はいよー」


 山間の住宅街を徐々に登っていくと、毎日通った坂とか、よく玲子と時間を潰した喫茶店とかが窓から見える。

「一応正月には来たからまだ半年ぶり位なんだけど、意外とノスタルジックに感じるものだねぇ」

「そうだよねー。まあ正月は家に籠ってばっかだったのもあると思うけど」

「玲子もか……俺も何となく家の管理がてら戻ってきただけだから、大して外に行ってないし。そもそも正月で店どこも開いてないしな」

「そっかー、そういえば京くんの家って今誰が管理してるの?」

「ハウスキーパー頼んで定期的に掃除はして貰ってるけど。鍵は隣の家の人に預けてね。一応手入れしないとすぐ家住めなくなっちゃうから」

「じゃあやっぱり大学卒業したら戻るの?」

「そのつもり。今のマンション賃貸だし、別にこの家も不便っていう訳でも無いし。車必須だけど」

「そっかぁ……」

「そういう玲子はどうなのさ?」

「実家には戻らないつもりだけど、就職次第かなー?お父さんは仕事なんてせずに家に戻ってきて欲しそうだけど、ちょっと過保護だからさ。客観的に見ていい父親だとは思うけど」

「まあ生きている内に親孝行してやれよー、今くらいしか出来ないんだから」

親なんてほぼ確実に、自分よりも先に死んでいくのだから。

「……そうだね」

彼女は少しだけ悲しそうな顔をして、けれどもしっかりと頷いた。



 いつの間にか、黒いポルシェは斜面に立つ人気の無い邸宅、つまりは俺の家の前に着いていた。

また次回と一体のお話です。

続きは暫しお待ちを

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