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かつて愛した君たちへ【未完】  作者: K.K.
第二話 夏はビートでゴーゴー
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 彼女はテーブルに備え付けられた紙ナプキンで、トントンと目元の涙を拭った。

「ごめんね、デート中なのにこんな顔しちゃって。レンカノ失格……だね?」

「いやいや別に、構わないよ。俺が変なこと言っちゃったのがそもそもの原因だし」

「ううん、それでもだよ。今日のデートは事務所には私理由のキャンセル扱いにしてもらうから、お代はお返しするよ」

「本当に気にしなくていいって、この後デートしづらいしさ」

「……じゃあさ、せめてものお詫びで……一回だけ私になんでもさせれる権利とか、そんなのでどう?」

突然の爆弾発言に、思わず飲んでいたコーヒーを噎せる。言った本人も顔赤くしてるし。

「……七瀬さん、アニメじゃないんだから」

「えー、足りないかなっ?」

「違う、そうじゃない。……まあ常識的な範囲で、後々お願いする事にするよ」

「規約外の事でもいいんだよ?」

「恐いお兄さん達が飛んでくるので遠慮しとくよ」

 本当はレンタル関係であり続けたいだけで、それを壊す要素を手にしたく無いのだ。勿論これは彼女も分かっているだろう。けれども俺は敢えて茶化して拒否するのだ、彼女の涙を見てしまったから。


 女の子を泣かせたゲス野郎に向けられた圧を背中で感じながら、喫茶店を後にする。しかしまあ、七瀬さんはなぜここまで密着して腕を組んでくるのだろうか?

「あの……近くない?」

「えー何が?」

何故ニヤつく。

「はぁ……暑苦しいから離れてくれない?」

「酷いよ京くんっ!女の子には言っちゃ駄目な言葉があるんだよっ」

「だって事実だし。謎の黒服さんにボコられたくないし」

「……別にしたいからしてるだけだよ。本当に嫌なら離れるけど」

「少し位ならまあ、別に……」

 さっきからやけに距離が近くて、困惑する俺がいた。おそらく彼女なりのお詫びというか、そんな感じの何かなんだろうけど、やはり慣れない。けれども泣かしちゃったからだとかそんな変な罪悪感が俺を縛り付けて、結局受け入れるがままになっている。本当にこれでいいのだろうか?ただただ何かを誤魔化している気がしてならないけれど、お願いされた以上、やっぱり俺は言い出せなかった。まあ残念な勘違いをしている野郎なんだから、仕方ないさ。





 桐ケ谷先輩と約束してから、もう一週間以上が経過した。それから夏目先輩とは一度二回ほどレンタルデートをしたけれど、未だに私は自分の正体を彼に明かせずにいた。桐ケ谷先輩は私がレンタル彼女であることを知らない。だから私と先輩が幸せそうにしているのを見て、純粋に京くんのためを思って、あんな風に私に約束させて、お願いしたののだろう。けれども、これはあくまでレンタルだから成立している関係である。規約を破ったその瞬間に消し飛ぶような、脆い存在なのである事は、私も彼も重々承知している。

 桐ケ谷先輩に私のお仕事を黙っていたこととか、約束やお願い事を果たせそうにない事だとか、そんな罪悪感が混じりに混じって、私の心をズタズタにする。けれども私はそれをどうする事も出来ずに、ただただ耐えて、隠して、なんとか自分を騙してしまおうとしていた。

 けれども彼には、そんな誤魔化しなんて意味がなかった。否、誤魔化すには傷口が大きくなり過ぎた、といった方がいいだろう。結局今日のデートで彼に尋ねられた私は、目を背けていたその傷口を一気に見てしまって、急に辛くなってしまった。最初は若干茶化して返事をしたけれど、でもやっぱり辛過ぎて。思わず私は、夏に二人で海に行ったその時に秘密を話すから、それまで待っててと彼にお願いしてしまって、その時は少しだけ楽になったけれど。関係にはっきりと時間制限をかけてしまったから、後から余計に辛くなって、夜中に枕を濡らした。


 どちらにせよ関係性は移り変わるもので、何時までも続くように見えているだけなのだから、早いうちに言い出してしまった方が楽なのは自分でも分かっている。けれども私はそんなに賢くないから、悲観的ブーツを履いて、理性的な判断を蹴っ飛ばしてしまう。最初こそ、変わってしまった彼に悲しくなったけれども、段々とデートを重ねて、私はどんどん幸せになっていったはずだった。これは運命で、彼と付き合うチャンスだとまで思っていたのに、今はどうしてこんなに胸が痛くて、苦しいのだろう。


 誰もが寝静まった午前3時頃、私はベランダでビール片手に独り黄昏て、街灯りで星なんて見えないのに、夜空なんかを見上げてみる。何度飲んでも慣れない苦い味とアルコホルが、この辛みを誤魔化してくれるんじゃないかと期待したけれど、やっぱりソレは変わらずそこにある。

「私、何してるんだろ」

桐ケ谷先輩を騙して、彼女の思いを無碍にして。

「あーもう、本当に……」

 本当に、嘘つきで見栄っ張りで自己中で、その上ロマンチストで、最低の乙女擬きだ。

「けれどもそれが私、なんだよね」

 海までもう一ヶ月しかないけれど。私はこれ以上愚かにはなりたくなかった。

前回のお話から直接的に続いてます。

まとめて投稿した方が良かったかもしれない(´・ω・`)

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