そうして冬は終わる
冬の夜は足早に訪れる。山の頂から吹く風は俺を追い越して、紫煙と共に煌びやかな街へと溶けていく。いつもピカピカと綺麗なその景色が、目の中で段々とやさしくぼやけるのを見てはじめて、俺はこの恋が終わったことを知った。そうしていつまでも、俺はその場に立ち続けるのだ。
すっかりチビた煙草を足元で潰し、彼女から貰ったライターで二本目に火を付ける。ふわりふわりとした煙が1つ溶けていくたび、後悔が俺の中に降り積もる。けれども俺は漢らしくライターを投げ捨てることも出来ずに、歪んだ世界を眺めて、また一つ呟く。
「……終わったんだよなぁ」
言葉にしても認められないものが、そこにあった。
別れた理由なんて単純なもので、俺に魅力がなくて、彼女が魅力で溢れていたからだった。不釣り合いな関係は続くことの方が不自然だから、 これは自然の摂理なんだろう。
「もう、終わりにしようよ……京くん」
「……」
いつものカフェのいつものテーブルで、すっかり冷めたコーヒーを啜りながら、俺は黙り込む。ああついにこの日が来てしまったか、と思いながら、俺はそれでも必死に何か言おうと考えて、けれども何も言えずにいた。
「もう辛いの……あなたといると辛いの」
「……ごめん」
俺は色白な彼女の顔を見ることが出来ずに、下を向いて呟く。
「そうじゃない、京くんはなんにも分かってないよ」
「いや、でも。」
「……分かってないよ」
窓から射す朱い光に照らされたまま、俺は何も言えなくなる。
「やっぱり……君は私の事を、本当には見てくれないんだね」
違う、と言いたかったけれども。
そして君は大粒の涙をぽたぽたと落としながら、残りのコーヒーをくいっと飲み干し、「さよなら」と一言残して店から去っていく。俺はその背中を静かに眺めていた。
惨めな俺では100万ドルに輝く彼女を一ヶ所に留めておくなど出来ない事くらい、最初から分かり切っていたのに。それでも俺なりに求めて、触れ合おって、その手を掴み続けようとして、それらが意味を成さないまま時が過ぎ、無様に捨てられただけなのだ。だから本当にこれは自然な事なのだと、俺は思う。
山の端で独り立ち続ける俺は、さぞ惨めに見えたであろう。それでも、この街のどこかにいる彼女の姿を、まだもう少し見続けていたかったから……。
時計の針がてっぺんで重なり合って、恋人たちが重なり合う頃、俺は寂しく展望台を後にする。駐車場の隅に置かれた古いBMWに乗り込み、悴んだ手でカーステのスイッチをひねって、好きでもないシティポップなんて流しながら、暗い山道へと消えていたのだった。
ぼちぼち更新します。