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元子と  作者: 久木
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諦めるべき相手として2

そうして銀行に戻り、新たな支店への配属が言い渡された。人事部からその足で配属先の支店への向かう。

そして配属初日、支店長に挨拶する。そこで私は妻の病気のこと、今は妻の実家に迷惑をかけるわけにもいかず、自分の実家から通勤している事を伝えた。支店長は直ぐに人事部に電話し、私を寮に入れてくれた。この支店長には本当に頭が上がらなくなった。

わたしは人事部から支店への向かう途中で、妻の実家から通うか迷っていた。しかし、もう、妻の両親や妻と生活するのはうんざりしていた。だからと言うか、妻の実家に迷惑をかけるわけにはいかないと、最もらしい、いや半分は真実である理由を支店長に言ったのだった。

それから2週間ぐらいはわからない事も多く、戸惑う事も多かったが、一つ一つ昔の勘を取り戻していく日々だった。


花見の日の前日、私の代わりに銀行から派遣されて来た後任となる後輩と、引き継ぎの為に、2週間振りにコンサルタント会社へ出勤した。朝、私を見つけた元子は、「おはよう。ここに居ると何だか違和感無く、昔から居るみたいだね」と話しかけてくれた。相変わらず気さくだ。

私は「おはよう、そう言ってくれると、今日だけ戻ってきた甲斐があるよ」

「今日1日なんだ。」と元子。

「うん、明日の花見は宜しくね」と私。

嬉しくも辛いやり取りだった。


そして4月も中旬になり、花見を開催することが出来た。


10名ぐらいが集まっただろうか。そのなかには元子も居た。

しかし、元子が呼びたかった高川は体調不良により欠席だった。

元子が呼びたがらなかった、新しい職員については、私が上手いこと言って呼ばなかった。


思えば最後の日、いきなり中年の新しい男の職員が元子に連絡先を聞いていたからだ。モテるな、元子は。しかし、元子みたいな気さくに見えて警戒心が強いタイプに連絡先をいきなり聞くのは、アウトだ。


結局、当たり前と言えば当たり前なのだが、元子がやりたいように全て段取りした形だ。私はこの花見を彼女が求める形に出来るだけ合わせる形で…ほとんど彼女の為に開催した。他の来てくれた人達には申し訳無いが。

私が出向先で開催できる、最後の飲み会だと思った。だからと言うのか、彼女の意向に可能な限り沿い、邪魔物は入れない、そんな風とも言えた。


私はその為に、花見の会場に下見に行き、全ての店を調べ、メンバーの日程調整を行った。この間、3日程度。その後、彼女が呼びたがらなかった新しい職員には伝えないように努め、万が一伝わったら、色んな理由をつけて来させないようにした。とてもずるいが。

しかし、帰りの元子はまたもつれなかった。

そして、終わってから、元子からメールが来た。


会場のリサーチ、日程調整、段取、料金の計算まで、全部ありがとうございました、私は今回、口だけでした、と。


ばかやろう、わかっとるわい、全部、お前のためなんだと、お前がやりたがったから、お前に最後プレゼントしたかったんだ、と。言ってやりたかった。

こんなに最後、頑張ったのに、それがたったメール一通か。まあ、メールくれるだけ良いのだが。何か、徒労感だけが残った。

私の気持ちに気付いてるくせに、こんな形で最後にするなんて、酷いんじゃないのか、と言いたかった。いや来てくれるだけありがたいのだが。

考えても見れば、私が開催した飲み会で、元子は出席率100%だった。彼女が来なかったことは無い。それは考えてみれば、とても嬉しいことである。

彼女の仲の良い、二人の後輩も、全て来ている訳ではない。

今回は、いつも会の場所などを相談していた南山も来なかった。南山は、出向元の飲み会を優先したようだった。

私が開催する若手の飲み会が段々と、元子がお姫様のように座れる会になりつつあったことに、少しずつうんざりとしてきていたようだった。どんな面白い話をしようと、彼女が全体に対して面白い話へ広げる事はあまり無い。そう言ったお姫様的扱いに彼女が慣れていて、なおかつ、南山にはあまり良い印象を持っていない事が一番だろう。

私自身、彼女への好きな気持ちが強くなるほど、そんな傾向が強まっていった様に思う。

彼女は、飲み会の間、私の隣に居た話上手で私より3つ上の先日結婚したばかりの女性に、自分に彼氏が居ない事や、良いと思ったら結婚している男ばかりだと言う話や、新しく来た金融機関の他の男が魅力的だと言う話、好きなタイプはあっけらかんとした爽やかなスポーツマンタイプでなおかつあまり一途に来ない男が良い、と言うような話をしていた。

私は職場では、お茶目で明るく振る舞う方だが、もとは真面目で上品なタイプだ。決して爽やかなスポーツマンタイプではない。


私は適当に調子を合わせていたが、途中から彼女が婚活の話やらを、その女性に真剣にし出したので、引くことにした。あまり私が口を挟んで良い雰囲気でも無かったのが一番だが。


他のメンバーには申し訳無いが、もはや全体の会話に気を配る余裕など無かった。私の目の前に座っていた、私の事が好きであろう後輩の女の子にも申し訳なかった。だがまあ後で、この女の子いはラーメン奢ってやったから、良いだろう。

私は飲み会の間に、皆には、たぶんこれが最後だと、何度か言った。皆はいやいやこれからもやってくださいよ、とお世辞を何度も下さったが。私があの職場から消える以上、もう開催は出来ないだろう。


正直に言って、彼女とは半分ぐらい話せただけだったか。私とずっと話すつもりが無いことは明白だった。


終わったあとで、結局と言うか、やりきれなかった気持ちをぶつけにスナックへ一人で飲みに行った。

ママからは、そんな真面目な女を好きになったら、叶わないのは仕方がない、なんでもっと不良っぽい女を好きにならんかったの、好きになる気持ちは抑えられないだろうけど、と言われた。元子が私の飲み会の出席率100%で、3/10に告白紛いの事をしたら彼女もやはりと言うか、私の気持ちに気付いたらしく、よそよそしくなったが、メールはまあなんかかんか理由をつけて週一で続けていると言った。そしたら彼女も私の事を悪いとは思ってないけど、既婚者であると言うことから線を引いたのだろうと、彼女も自分のなかで私の事を諦めたのだと、言われた。それは慰めだろうがありがたかった。


花見は終わった。彼女とメールする理由も無くなった。もう会えない。


そう思っていたら、GW明けに連絡が来た。

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