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元子と  作者: 久木
3/7

片想いの相手として

私と元子と、大東の3人で飲みに行く。高川と言った邪魔物は居ない。大東はダメだと諭しながら、私の気持ちを知ってる。つまりは理解者なのだが、前日に大東から

「久木さん、元子さんにがっついたりとか変なことしないで下さいね」と釘を刺されてしまった。

分かってるよ。独身の彼女に、こんな気持ち持っちゃいけないことぐらい、頭では分かってる。十分に。だからこそ、辛いんだ。


そうして元子がチョイスしてくれた、お刺身の美味しい居酒屋で、飲み会となった。元子のイメージからは、想像できないチョイスだったが、女同士で行ける雰囲気の店でも無かったし、良い機会だったのだ。

3人で他愛もない、寛いだ談笑。元子は最近ハマっている、ネットでの廃墟写真の話をしてくれた。私は仕事の話を、大東は婚約中の彼女との話だった。日々の私を縛り付けている緊張が、解きほぐされて行くのがわかった。元子の気取らない、自然で気さくな話し方、大東の知的でおっとりとした話し方(とても証券マンには思えない)、そんな空気に癒され酔いしれ、私は明日がこなければ良いと、どれだけ心の中で願ったろうか。大東と会計を済まると、元子は少し不満そうだった。収まりそうにないから、1000円だけ受け取ったかも知れないが、まあそんなことはどうでも良かった。

3人で駅へ向かって歩き出す。元子は「自分の元子って名前、好きじゃないの。何だか古くて。もっと奈々とか舞とかが良かった」と言っていた。私は「素敵な名前だと思うけどなぁ」と返すのが精一杯だった。このまま彼女とどこまでも歩いて行けたら良いのに。或いは、今、車にでも弾かれて私だけ即死したとしても、最後が彼女と一緒だったなら、例え痛くても幸せなまま全てが終われる。何も私を追い詰めるものは無くなる。この夜が終わらなければ良いのに。そう思っていた。しかし、間もなく駅の入口の前に立つ。そこで元子とは別れ、大東とは反対方向の電車に乗って帰ったのだった。

私はこの夜、一つ辞める事にした事があった。元子を好きな気持ちを否定すること。無限に沸き上がり続ける気持ちを否定し続ける事で、正直頭がおかしく成りそうだった。素直に好きなままで居よう。きっといつか気持ちがおさまる日が来るだろう。しかし、穏便におさまる程、私の心はお利口さんでは無かったわけだ。この時、諦めてしまった事は、この恋心を後まで引きずる最大の要因だったかもしれない。


秘密の3人回が終わっても元子とは、何も変わらなかった。私の気持ちが余計に強くなってしまったと言う点を除いては。

そして2/14。バレンタインデー。昼食が終わってデスクに戻ると、聞き慣れない部署から私と大東宛にそれぞれ社内の書類便が届いていた。急いで開けてみると、元子からの義理チョコだった。私は、急いでカバンに隠した。最近は南山から、「元子さんと仲良いよね」と言われる事があるぐらい、やっぱり回りにも、元子との仲が良好な事を気にする人間は居るからだ。しかし、元子に恋愛感情は無いだろう。むしろ既婚者である私への安心感、高川のようにゴリゴリ迫って来ない付き合いやすさ、だからこそ男友達として一線を引いた上で話せる。そう、元子が考えて居るからこそ、義理チョコを敢えて大東と私にくれたのだろう。なのに、やっぱり私は、生きてて良かったと思えるほど、嬉しさを感じていた。この頃から元子への気持ちを制御出来なく成ってきている自分を感じていた。義理チョコの手紙には、3人で飲みに行ったときの奢ってくれたお礼だと書いてあった。帰宅してから、元子へのお礼のメールをきっかけに、何通かメールする。すっかり毎週の事になっていた。元子が律儀に返信してくれる。それもまた嬉しく、私の気持ちを高ぶらせた。


私の元子への気持ちは、制御の難しいものへと変わって行った。もはや友達ではなく、片想いの相手として認識するようになっていた。


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