「ムジカク、ムイシキ、ムカンシン」 作者:成雪
ある秋の日の午後。天気が良くて部活もなかったから、ふたりで帰る途中で公園のベンチに座って、コンビニケーキを食べていた。美世は相変わらず行儀が悪くて、プラスチックのフォークをくるくる回しながら夢中で喋り続けていて。
目の前で美世が食べているモンブランの栗がフォークを離れて宙を舞ったときに、声が出たのは私の方だった。
「あっ」
落ち葉が溜まった街路の隅に、黄色い栗がぽとりと落ちる。今度は慌ててベンチを立った美世が、ようやく「あ~っ!」と声を上げた。それからすぐに周囲を見回して、手を伸ばして拾おうか迷っているので「はしたないから座って」と阻止する。
「あーあ、超能力で重力を操れたらいいのに」
「無重力で栗が落ちずに済むから? バッカバカしい」
「人が悲しんでるのにひどい」
「自業自得でしょ」
返す言葉もないようで、不満げながら押し黙る。
「仮に超能力を持ってても、そんなことに使わないし。ましてやあんたの失敗のために使ってたら、きりがない」
「ケチ」
だけど、帰り道で横断歩道を渡っていたのに、気が付いたら横断歩道の手前にいて。目の前をトラックが猛スピードで走り去っていったので、おかしいと思った。隣にいたと思っていた美世は何故か数歩後ろにいて、信じられないほど顔色が悪い。
「……どうした?」
「ううん、別に」
目を逸らして今にも泣きだしそうな表情も、痛々しい。あんまり居た堪れないから、冗談っぽく話題を変えてみる。
「なんかさ、一瞬ちょっと変な感じしなかった? まるで超能力でも使われたみたいにさ」
「使ったよ」
「え?」
「超能力」
何を言ってるか理解できなかった。でも、嘘を言ってるわけでもなさそうで、むしろ美世は半分怒っているみたいだった。
「重力でも、操ったってわけ?」
「……ううん、時間を巻き戻したの」
そして私の顔を見ると、美世はわっと泣き出した。両手を伸ばして、ぎゅっときつく抱きしめてくる。私も私でようやく何が起こったのか――いや、起こらなかったことにされたのか――を理解して、ぶわっと体中に震えが走った。美世は私を助けてくれたのだ。ついさっき走り去ったトラックに轢かれる瞬間から。
「さっきの栗、戻せばよかったのに」
「そんなことに、使わないよ」
数十メートル先で、急ブレーキと衝突音が聞こえた。