「ハッピー・無重力・バースデー」 作者:きのやま
十一月十五日、今日は大好きなまゆちゃんの誕生日です。
私は白い紙でできた箱を両手で大事に抱えながら、まゆちゃんの家に向かっていました。中には、まゆちゃんの大好きないちごのたっぷり乗ったケーキが入っています。喜んでくれるといいなあ。
私はまゆちゃん家の門の前に着きました。まゆちゃんの家は塀に囲まれていて、その中にお庭があっていつ来ても大きい家だなって思います。私が門の隣にあるインターフォンを押すと、まゆちゃんが家から出てきました。
「まゆちゃんお待たせ~」
「も~めめちゃん遅いよ」
まゆちゃんが門の鍵を開けたその時、
町の防災放送局から、警告音が流れだしました。
『無重力警報です。直ちに身の回りの安全を確保して動かないようにしてください』
「えっ、こんな時に!?」
まゆちゃんがそう言うと、私達の身体が浮き始めました。
火星の上に建てられたドーム中の重力をコントロールするシステムは、年に2・3回不調になります。私が火星に引っ越してきたばかりの時は、怖かったですがもう慣れました。むしろ楽しいぐらいです。
まゆちゃんの家の庭で飼われているゴールデンレトリバーのジョンやコスモスの植えられている植木鉢までぷかぷかしています。
「落ち葉がたくさん浮かんでいて、綺麗だね!!」
「まゆちゃんの誕生日をお祝いするクラッカーみたい」
もう一度、放送が流れると重力は元に戻りました。急に戻るのでしりもちをついてしまいましたが、ケーキだけは崩れないように死守しました。
「あ~びっくりしたね」
「あっ、髪の毛葉っぱついている」
まゆちゃんの髪に、真っ赤な楓の葉が付いていたのでとりました。それを捨てようとすると、
「これも誕生日プレゼントだね」
とにっこり笑って、その落ち葉を手に取りました。
「うん!」
私もまゆちゃんとおんなじ顔をして返事をしました。
「じゃあ、中入ろ」
「早くいちごのケーキ食べよう」
「いちごのケーキなんだ!うれしい」
今日は二人にとって、忘れられない誕生日パーティーになりそうです。