すべて過ぎし日のこと
第一章
すべて過ぎし日のこと
木枯らしの吹く街に、Xマスのネオンが灯る頃、俺は一人になった。
する仕事がなくなってしまった。
いらないのならば、すがることはない覚悟であった。
人の行く先がどうなるかは誰にも分からない。
他人の嫌がる事をすべきでない。人を人として尊重せず物扱いし、ゲコゲコとこうるさい井蛙みたいな経営者が増えた気がする。
一言だけいおう、あんたはそんなに偉いんか?
かの合唱が聞こえる。小さい小さい、器が小さい。
人は愚かだ。いまさら引き返せぬ遠い処まで来て、やっと、己の罪に気づき、後悔しながら生きる。その意識もないのであれば、懺悔の値打ちもない。
仏の教えによれば、他人を見下し、弱者を踏みつけにして高慢に生きる彼等は、この世で天罰を、あの世で報いを受けるのだ。そう思えば気が晴れた。
もう迷うことはない、誰も恨まない、自分なりに堂々と生きよう。
俺は、もう過去を忘れてしまっている事に気がつき、誇りを取り戻した。
走馬灯は一廻りでいい。残りの人生をどうすべきか、冷静に考えている男の影を見た。
選択肢を考える
・まじめに就職活動をしてみる、今の世の中、みじめな思いをするだけ。
・ブラブラして酒で憂さを晴らす、ばからしい。
・詐欺でもしようか、捕まって終わり。
・財産を食いつぶすか、何にもあれへん。
賢く生きようとすれば、いつしか、しがらみができる。
考えに疲れた、ろくでもない。
俺に出来ることは、あるのか・・。
イビョンホンのオールインをDVDでみた。
人生のすべてを賭博にかけた男の物語。カジノを舞台に繰り広げられる、様々な人々の愛と闘いの長編ドラマだ。
これまでの人生を、それなりに、まじめに、努力してきたがこの始末である、いまさらどうする。
発想の転換がいる。
俺がギャンブラーになる。仕事は? ギャンブラーだ、響きがいい。
定職(稼げる仕事)を維持しての、いわゆる評論家もどきの、ではなくすべてを賭ける本物になる。
俺なりに分析する。
現代のギャンブル社会におけるプロフェショナルとは
パチプロ、ジャン師、馬券師、いわゆる博徒、相場師、投資家、FX、ディトレーダ、等々である。
どれも俺には向いていない。国内でのギャンブラーの道は諦めた。
だが、海外には合法カジノがある。
しかも空港からわずか1時間で行けるカジノがあったのだ。
韓国には各地に17ものカジノが有り、年間収入が1兆円を越えるという。アジアで名の知れたカジノ国である。
俺にはカジノしかない。
さっそく紀伊國屋に行き、何冊かの本を買ってきた。
ハウツウ物は実践では役に立たない。基本から入るのが俺のやり方である、
カジノの種類はいろいろある。
・ルーレット −0,00、1〜36、の枠がありチップを置く。
−賭け方により、2倍から最大35倍になる。
(短期での勝機は大きい、しかし、ゲームは長期に比例して勝率は落ちてゆく。)
・ジャックポット −機械式の回転でいわゆるパチスロと同じ原理。
(運試しの遊び。)
・大小−3個のサイコロを電動で投げその合計を選択する。
(主にマカオが中心になり、中国人、華僑が好む)
・バカラ −バンカーとプレイヤーがあり、どちらかに賭ける
すべてデ―ラーが作業するので見ているだけ。
(右か左かだけなので、カンが冴えれば大勝、抜ければ大負けする。素人は手を出さない)
・ポーカー −花札と同じ、いわゆる賭け事の代名詞になっている。
・ブラックジャック−手持ちカードの合計が21に近い方が勝つ。
その他、各カジノにより数十以上の色々なゲームがあるが省略。
俺はブラックジャックに賭けることに決めた。
資金は6ケ月間の失業保険給付金と生命保険の解約金のみである。
俺はまず2週間かけて家の掃除を徹底的にした。古いものはすべて処分した。
これからは俺の思い通りする。俺は再び他人の下で動くことはないだろう。
りせっと、から始め、新たなスキルを身につけ、再びやり直してみせる。
革ジャンにGパン、白のシューズはその決意を示すものだ。
朝、起きると顔を洗い、ストレッチをする。
食事は自分でつくり洗濯もする、生活のリズム感は健康の基本だ。
カジノに関する資料、情報をつみ上げ精査し濾過する。
カードを切り、モギ実戦をデーター化、繰り返し確率の分類。
いくつかのパターンを作成した。
孫子を学び、カジノの歴史を知り、孔明を考える。
知性、感性、判断力がいる。
才のない者は添削がいる、推敲がいる、修練がいる。
時は何事もなく過ぎ、又冬が巡って来た。
準備はできた。
冬の旅立ちが俺には似合っている。
今、俺は釜山の金海空港の前に立った。海雲台へ行ってくれ!
海雲台は、海岸沿いに砂浜が広がり、小高い山々が間近にせまり、海から立ち上る水蒸気が山から吹き下りる風にぶつかリ、気候の変化で此のあたり一面に霧が立ち込め、山の中腹に雲の群れが浮かぶ。昔からの景勝地である。
海辺リゾートにある、パラダイスホテルの12階オーシャンビューの部屋から青い海の向こう、かすかに対馬の島影が浮かんでいる。気分はいい。
暫し休息を取り、気楽な服に着替え部屋を出た。
ホテルの1階に降りた。とうとうカジノに来た。
カジノは外国人専用で、パスポートを提示して入る。
俺はフロア全体を見渡し雰囲気を楽しんだ。天井が吹き抜けで3階建ての高さがあり、広さは50×50m、約800坪位、
総勢50人ほどが各役割で働いている、制服を見たら、なんの仕事に従事しているか分かる。土曜の午後、客数は百人前後か、服装は普通の格好が多いようだ、Gパンにセーター、背広姿、ジャケットそれぞれである。喧そうの隙間から、聞こえるBGMはクラッシックのようだ。
テーブルゲームは、各台ごとに表示札が置いてあり、ゲームの種類、掛け金のミニマム・マックスがわかる。
最低千円から最高3万、5千から10万、1万から30万、10万から300万、等々、遊ぶ階層でセパレートされている、自分の懐のレベルに合わせろということである。
ブラックジャックの席に着いた、しばらくはゲームの流れを静観する。
現金をチップに交換する、チップの種類は
赤 ― 1万ウォン (千円)
ピンク ― 10万ウォン (1万)
イエロウー ― 100万ウォン (10万)
黒 ―1000万ウォン(100万)
カジノでは外貨交換の手数料は取らない。世界の市場レートが1時間ごとにそのまま表示される。
持ち金は5万円で、チップ赤50枚(50万ウォン)である。
新しい人生がはじまる。
第二章
ブラックジャックのルールを学ぶ
インターネット普及の現代社会で、いまさら詳細な説明はいらないだろう。
18世紀の初めに欧州で考案され、米国で広まった。幾多の、ルールの変遷を経て現在の形態になっているが、ゲームのルールは、各国、各カジノに於いて多少の違いはある。
ブラックジャックは勝率がカジノに不利であることから、或る国で、これを廃止に踏み切ったところ、客が激減してカジノ自体が潰れそうになり、慌てて復活したという歴史もあった。ブラックジャックはカジノの花形である。
まず、配られた二枚のカードの内容と、デーラーの見せ札から、幾通りかの対処方法を想定しベストの判断を一瞬に下す。受身から攻撃にかわる。
カードは、6組312枚、エースは24枚
デーラーがカードをシャッフルする。
全カードを集め、プレイヤーの一人にカットさせる。
カードは長方形の箱に収められる。
此の箱のわずかな隙間から、カードが1枚ずつ抜き出される。
レッドカードが出たらラストゲームになる。
最初の2枚はフォーリンカード(およびでない、除外する)だ。
ディスタントプリーズで (準備して)
目の前のエリアにチップを置く。
配当は等倍である。
ノーモアベット(これ以上チップを追加しない)の声でスタートだ。
6人掛けの2番目の席だ。カードは時計廻りで、1枚ずつ二巡りして、まず二枚配られる。客はすべてオープン札に、デーラーは1枚を隠し札にする。この隠し札(伏せカード)がブラックジャクの鍵である。
ゲームが始まれば、プレイヤーは、カードとチップは一切さわれない。
最高の数字は21で、特別役としてエースと絵札の二枚札をブラックジャックと呼ぶ。21を越えるとバースト(ドボン)没収になる。
デーラーは16以下の札値でスティ出来ない。必ずヒットするしかない。
要するに、17になるまでは無条件でヒットし、17以上ではヒットできない。
絶対のルールとして決められている。
プレイヤーの基本的な行動は
・ヒット (もう1枚のカードを要求):指で軽く叩く
・スティ (追加のカードはいらない):指を左に振る
・サレンダー(勝負を降りる) :指を右に引く
のどれかを発するだけでよい。
カードの基本、二枚札の組み合わせは全部で169通りあり、
・二枚札で(17〜21)の成立は 59通りある。
・三枚札で(16以下)になるのは 110通りある。
三枚札以上は予測がつかない。常にバーストの危険性をはらんでいる。
だが、3分の2は三枚札でゲームが進行する事になる。
基本ルール
1、エース
・二枚札でAと絵札の場合をブラックジャック(B・J)という。
(B・Jの配当は1.5倍になる。)
・Aは(1か11)のどちらか有利なほうにカウントできる。
(Aと2)は(3か13)、(Aと3)は(4か14)、(Aと4)は(5か15)
(Aと5)は(6か16)、(Aと6)は(7か17)
・Aが二枚あれば、片方を1片方を11として数える事もできる。
(Aと3とA)は(5か15)となる。
Aが絡むと選択肢がふえて札値が上がる場合が多い。
2、絵札
カードの(10・11・12・13)はすべて(10)にカウントしこれを絵札と称する。
3、サレンダー
掛けたチップの半分を渡し、勝負を降りる。
1回ヒットしたら、途中からはサレンダーできない。
デーラーの見せ札が(9・絵札)で、プレイヤーの手札が(15・16)の場合することが多い。
4、スプリット
配られた2枚札が同じ数字(ゾロ目)であれば、カードを左右に分け同額のチップをかける事で、それぞれ独自の勝負をすることができる。
5、ダブル
プレイヤーは、ダブル宣言し(倍賭け)同じ枚数のチップを掛ける。しかも、カードは1枚限定のヒットで、追加はできない
6、インシュアランス(保険)とイーブンマネー
・デーラーの見せ札がAの時、デーラーから、インシュアランスの声が掛かる。
これは、隠し札が絵札であれば、デーラーはブラックジャックとなり、デーラーの総取りになる。故に、隠し札を開く前に保険を掛けて下さい、との意味である。最初のチップとは別枠でチップを掛ける(積んでいるチップの2分の1が上限)デーラーがブラックジャックとなれば、保険の配当は3倍になる。要は元返しの意味で絵札でない場合は没収となる。
インシュアランスは本来とは別の勝負と認識し、基本はノーである。
しかし、プレイヤーが多額のチップを賭けている場合や、自分の手札が
20の時はゲームに勝つ可能性が大きく保険を掛けるのは間違いではない。
又、仮にプレイヤーがブラックジャックであったとき、イーブンマネーの問いかけで、隠し札を確認せず先に1倍の配当をもらうことができる。どうします?ということで、ノーなら勝負だ。
アドバンテージ
○デーラー
・プレイヤーはバーストすると即刻チップを没収されてしまい、後でデーラーがバーストになってもデーラーの先勝ちとなる。
・インシュアランスがある。(これはデーラーの貯金箱だ)
・自由にデーラーは交代する事ができる。
・カードをシャッフルする。カードを新しく交換できる。
○プレイヤー
・ブラックジャクが有る(1.5倍)
・ダブルチャンスが有る。(倍賭け)
・カードをカットする。好調なプレイヤーがカットするのがよい。
・カード選択の自由がある(ヒット・ステイ・サレンダー・スプリット)
・自分の都合で、参加・休憩・ゲームを辞める事ができる
第三章
作戦計画を立てる
ブラックジャックは、デーラーの見せ札により作戦が根本的に違ってくる。
このことが理解できないと勝つ事はできない。
ポイント−Aパターン
○デーラーの見せ札が7〜10の場合(個人戦)
〜自分の思う通りにしてもよい〜
デーラーの隠し札の推測は絵札が多いと想定して勝負を組み立てる。
絵札は(10〜13)の 4枚、30%を占める。
これにAを含むと 5枚、38%になる。
デーラーの見せ札の考察
デーラーは(2〜16)ではスティできないルール故に、デーラーの勝負札が決定される形は三通りしかない。
一、Aと絵札のブラックジャック
二、(17〜21)までの札値
三、バースト(ドボン)は22以上
デーラーの見せ札が(A・7〜絵札)の時は好調である。
なぜなら、二枚札で値札が確定(17〜21)する場合は
7のとき (A・絵札) で 5枚 < 8枚 三枚札(2〜9)
8のとき (A・9・絵札) で 6枚 < 7枚 三枚札(2〜8)
9のとき (A・8〜絵札) で 7枚 > 6枚 三枚札(2〜7)
絵札のとき (A・7〜絵札) で 8枚 > 5枚 三枚札(2〜6)
エースのとき(6〜絵札) で 8枚 > 5枚 三枚札(A・2〜5)
デーラーの見せ札が(A・絵札)の時はかなり強い手であると判断するべきだ。
具体的にデーラーの見せ札が(A・7〜絵札)の場において
プレイヤーがヒットした場合
プレイヤーの手札12から(セーフ70%)9枚>4枚(バースト30%)
プレイヤーの手札13から(セーフ62%)8枚>5枚(バースト38%)
プレイヤーの手札14から(セーフ54%)7枚>6枚(バースト46%)
プレイヤーの手札15から(セーフ47%)6枚>7枚(バースト53%)
プレイヤーの手札16から(セーフ39%)5枚>8枚(バースト61%)
プレイヤーの手札17から(セーフ31%)4枚>9枚(バースト69%)
以上のように(15・16)でプレイヤーが不利になり、17になるといくら考えてもヒットは困難になる。
〜好調・不調の見分け方〜
○好調なゲーム進行
・プレイヤーの手札が12で、デーラーの見せ札が7の時、ヒットして6以上の札を引いて勝つ。
・プレイヤーの手札が13で、デーラーの見せ札が8の時、ヒットして6以上の札を引いて勝つ。
・プレイヤーの手札が14で、デーラーの見せ札が9の時、ヒットして6以上の札を引いて勝つ。
●不調なゲーム進行
・プレイヤーの手札が12で、デーラーの見せ札が7の時、ヒットして4以下の札を引いて負ける。
・プレイヤーの手札が13で、デーラーの見せ札が8の時、ヒットして4以下の札を引いて負ける。
・プレイヤーの手札が14で、デーラーの見せ札が9の時、ヒットして4以下の札を引いて負ける。
△イーブンなゲーム進行
・プレイヤーの手札が12で、デーラーの見せ札が7の時、ヒットして5の札を引いて分ける。
・プレイヤーの手札が13で、デーラーの見せ札が8の時、ヒットして5の札を引いて分ける。
・プレイヤーの手札が14で、デーラーの見せ札が9の時、ヒットして5の札を引いて分ける。
良い傾向は一目勝ち、流れの悪いのは一目負け、イーブンがその分岐点だ。
・プレイヤーは15の手札で、デーラーの見せ札(9〜絵札)は、スティする。
ヒットで、勝てるのは(5か6)の2枚しかない。
・プレイヤーは16の手札で、デーラーの見せ札(9・絵札)は、スティする。
ヒットで、勝てるのは(4・5)の2枚である。
・プレイヤーは15の手札で、デーラーの見せ札(7と8)は、ヒットする。
ヒットで、勝てるのは(3〜6)の4枚である。
・プレイヤーは16の手札で、デーラーの見せ札(7と8)は、ヒットする。
ヒットで、勝てるのは(2〜5)の4枚である。
但し、デーラーの流れが余りにも強いときはサレンダーすることがよい。
プレイヤーは、手札が16の場合選択がむずかしい。ヒットの札を考えると
残りセーフは(A、2、3、4、5) ―5枚
バーストは(6、7、8、9、絵札4)―8枚
故に5対8の不利がある。
特に、小さい札値からヒットし三枚札になっても(15・16)であればツキがないと判断し、再ヒットせずスティがよい。
4枚札になると流れがドボンに傾く。
・プレイヤーは(A・6)の手札でデーラーの見せ札(9・絵札)はスティする。
ヒットで、勝てるのは(3・4)の2枚である。
・プレイヤーは(A・6)の手札で、デーラーの見せ札7は、ヒットする。
ヒットで、勝てるのは(A・2〜4)の4枚である。しかしAが絡んでいるのでドボンはしない。勝つチャンスがあるのでヒットする。絵札を引き17になればスティする。デーラーの見せ札が7の場合、二枚札で決まるのは(A・絵札)の5枚であり、上がり札はAしかない。三枚札になるのは(2〜9)の8枚。
ポイント−Bパターン
○デーラーの見せ札が(3〜6)の場合(生き残りの戦い)
〜デーラーがバーストするように誘導してプレイヤーの総勝ちを狙う〜
基本は自分が生き延びる事、自分がバーストになれば先負けになる。
・プレイヤーの手札がたとえ(12・13)であっても、ヒットして絵札を引けば、バースト(ドボン)となるので、必ずスティする。
・プレイヤーの手札にAが入っての(12〜16)であればヒットするべきである。
・プレイヤーの手札が(9・10・11)の場合、ダブルを宣言し(倍賭け)同じ枚数のチップを投入する。勿論、1枚だけの追加しかできない。
イレブン(11)から絵札を呼び込んで21にすることで、2倍勝ちのチャンスを得る。
〜なぜ、デーラーがバーストの可能性が大きいのか?〜
見せ札と隠し札を考えてみる。
見せ札(3〜6)隠し札が推測(絵札)であれば(13〜16)となる、
これを基本に考えれば
デーラーにとり危険なカードを引く確率が約61.5%である。
・13から、ヒットすれば、(A・2・3)は再度ヒットせねばならない。
バーストは(9・絵札4)で合計5枚。確率38.5%
上がり札は(4・5・6・7・8)で合計5枚。確率38.5%。
・14から、ヒットすれば、(A・2)は再度ヒットせねばならない。
バーストは(8・9・絵札4)で合計6枚。確率46%
上がり札は(3・4・5・6・7)で合計5枚。確率38.5%。
・15から、ヒットすれば、Aは再度ヒットせねばならない。
バーストは(7・8・9・絵札4)で合計7枚。確率53.8%
上がり札は(2・3・4・5・6)で合計5枚。確率38.5%。
・16から、ヒットすれば
バーストは(6・7・8・9・絵札4)で合計8枚。確率61.5%
上がり札は(A・2・3・4・5)で合計5枚。確率38.5%
プレイヤーはどんな札値であってもスティできる。しかしデーラーは17になるまで必ずヒットせねばならない。故に三枚札以上でバーストの確率が大きいのだ。
プレイヤーがムリにヒットして運よく自分の値札が上がったとしても、流れが変わり、デーラーに有利な札が渡れば全体のプレイヤーに迷惑がかかる。
上級者は絶対ヒットしない。
テーブルの正面にデーラーが位置し、手前右から1番手、2番手と数える。
左隅は通常アンカー席と呼ばれる。
ブラックジャックにおいてアンカープレイヤーは重要な役割が有る。
どのカードがデーラーに渡るのかその判断にかかっている。常に取捨選択を迫られる事になる。
とりあえず空席があれば、アンカーにならぬよう気をつける。
俺は1番手が好きだ、まずは自分のことだけ考えれば良いからだ。
アンカーの役割
デーラーの見せ札が6の時を具体的に再現してみる。
・1番手は(2・絵札) の12でスティ
・2番手は(9・絵札) の19でスティ
・3番手は(5・8) の13でスティ
・4番手は(5・絵札) の15でスティ
・5番手は(3・8) の11からダブル、5の17でスティ
ここでアンカーの手札は(4・9)の13である。どうするか。
次のカードがどんな順番はなっているのかは、誰にもわからない。
デーラーの見せ札が6で、隠し札が絵札と想定すると。
カードシューにあるカードが
(イ)もし1枚目が(絵札)、2枚目が(5)と並んでいた場合。
・手札の13からスティする。デーラーの見せ札6、隠し札は絵札で16、当然ヒット、絵札で26のドボン。プレイヤーの総勝ち。
・手札の13からヒットする。絵札で23のドボン。デーラーの見せ札6、隠し札は絵札で16、当然ヒット、5で21。デーラーの総取り。
この場合はスティが正解になり、ヒットが間違いになる。
(ロ)もし1枚目が(5)、2枚目が(絵札)と並んでいた場合。
・手札の13からスティする。デーラーの見せ札6、隠し札は絵札で16、当然ヒット、5で21。デーラーの総取り。
・手札の13からヒットすると、5で18のスティ。デーラーの見せ札6、隠し札は絵札で16、当然ヒット、絵札で26、ドボン。プレイヤーの総勝ち。
この場合はヒットが正解になり、スティが間違いになる。
次のカードが透けて見えたらなぁと本気で思うときがある。
流れを読み、考えた末の1手だとしても目の前でカードが展開され、失敗となれば後悔することになり、気が重い。
紙一重でも、結果はコインの裏表に分かれる。
しかるに、他のプレイヤーのことを考え慎重になる人はアンカーを避け、自分勝手な人がアンカーになりたがる。中級者においてこの皮肉な現象がしばしば起きる。上級者になれば自然体である。
第四章
勝つ為のセオリーを知る
最初に交換したチップの枚数が損益分岐点だとするならば、割った時は急いで取り戻そうとせず堅実に進め、一定量増えたならば大胆な勝負を心がけてもよい。しかし常に計算する必要はない。チップの山の数を大まかに把握すればよい。ゲームに集中し流れに乗ってさえいれば、気がついたらこんなに勝っていた、ということだ。
・カードの大まかな分類をし、使用済み・残り札を把握すること。
(イ)ピクチャー (絵札) 合計4枚, 31%
(ロ)ローカード (2〜5) 合計4枚, 31%
(ハ)ミドルカード(6〜9) 合計4枚, 31%
1、ナイスヒット
ヒットして(21)となる。
手札10から、A1枚
手札11から、(絵札) 4枚
手札12から、9のみ 1枚
手札13から、8のみ 1枚
手札14から、7のみ 1枚
手札15から、6のみ 1枚
手札16から、5のみ 1枚
ナイスヒットが続けば、じわりとチップを増加させる。
2、サレンダー
デーラーの見せ札が(9・絵札)で、プレイヤーが二枚札で(15・16)の手札になる事が多くなり、スティして負け、ヒットすればドボンする。
このケースが続けば、我慢してサレンダーする方がよい。
サレンダーの戻ったチップを上乗せて次回勝負に掛ける。
3、スプリット
・(A・A)エースの二枚札がでたら、ラッキーカードと考え、迷わずスプリットする。但し(Aと1枚)、(Aと1枚)限りである。
エースのスプリットは1枚札と決められている。
・デーラーの見せ札が(3〜7)で、プレイヤーが(8・8)の16の時には実行する。それ以外はしない。
8からは(A・8〜絵札)の合計7枚の上がり札になる。
4、ダブル
・プレイヤーはダブル宣言し(倍賭け)同じ枚数のチップを掛ける。
どんな札を引いてもバースト(ドボン)しない。これが絶対条件だ。
主に、デーラーの見せ札が(3〜6)で、プレイヤーの二枚札が(9〜11)の場合実行する。
・プレイヤーの手札にエースが入って(12〜16)の場合実行する。
理由は、エースが有る場合絵札は札値が変わらないので。
Aと2は(3か13)から(上がり札)8枚>1枚(下がり札)
Aと3は(4か14)から(上がり札)7枚>2枚(下がり札)
Aと4は(5か15)から(上がり札)6枚>3枚(下がり札)
Aと5は(6か16)から(上がり札)5枚>4枚(下がり札)
Aと6は(7か17)から(上がり札)4枚<5枚(下がり札)
Aと7は(8か18)から(上がり札)3枚<6枚(下がり札)
17から下がり札が多くなるのでヒットしない。
Aが入ってのダブルチャンスは単にヒットでもよい。再度のヒットで値札が上がる可能性が大きい。
・二枚札で11は、イレブンチャンス
手札の11は強力な手である。
ヒットすると(6〜絵札)まで8枚あり61%が勝負手になる。
しかも(20・21)となるのはその内5枚あり62%になる。
通常のヒットでもよいが、イレブンは即ダブルチャンスである。
ダブルチャンスが多いときはツキがある、とみて勝負する方がよい。
・デーラーの見せ札として2の考察
隠し札が絵札と想定すれば(A〜9)の10枚がセーフで、バーストは絵札が4枚だけである。生き延びる可能性が大きいのでダブルはムリにしない。
5、インシュアランス(保険)とイーブンマネー
・デーラーの見せ札がAの時、デーラーからインシュアランスの声が掛かる。
俺は絶対しない。何故ならデーラーがAなので良い手になる
場合が多い。それとイーブンマネーは必ずもらう。あまり欲を出すと逆目になる。こんなケースをよく見る。流れが変わるのだ。
まあ、Aが来るときは好調であるということだ。
第五章
テーブル席で楽しむ
デーラーはアガシ(若い娘さん)年の頃は24〜25才位で、なかなかの美人が多い。動作も素早くこちらがついていけない。いつも笑顔でいるが、場を見る表情は鋭い。
日本語、英語、中国語、ロシア語ができる。三交代勤務で、元気な刺客がつぎつぎ登場してくる。
幾つかのテーブルを円形にまとめ、グループ単位でくくられる。その責任者がピットボスと呼ばれ、彼、彼女の差配で、デーラーの交代、カードの入替、トラブルの処理、場の雰囲気、等々が決められる、
場内にはカフェがあり飲食はすべてサービスになっている。何処にも行かず延々と何十時間でもゲームができる、365日24時間無休の眠らない街だ。
場内のあちこちに隠しカメラがあり約30ケ所。すべてが監視されているのだが、そうは感じさせない。全体が落ち着いた流れになっている。
俺が付いた半楕円型のテーブル客は6人、ゲームは時計廻りで進行する。
右手前から中国人の華僑、日本の中年女性、駐韓米軍の若いGIが2人、ロシアの船員、というわけだ。
なにせGIは騒々しい。彼らは海兵隊で、休暇で来たと言う。給料が安いのでカジノで資金を増やして夜の街に遊びに行くつもりのようだ。チップの張り方も1枚だけそっと置きながら大いに楽しそうに振舞っている。勝ってもメッチュ(ビール)負けてもメッチュである。上官の悪口を言っているらしい。
女性は50代のおとなしい感じがするがゲーム運びはなかなかのものだ。
広島から夫婦で来たが、旦那は国際市場、チャガルティ市場、龍洞山公園など、観光地を廻っているらしい。今のところ少々の勝ち越しに見える。
ロシアの船員といえば、日焼けと精悍な顔つき、あご髭が似合う、40代か。黙々とゲームに熱中して、客通しの会話に乗らず、打つ手も正確であり、かなりのチップを積み上げている。世界中の港で釜山が一番すきだ、とデーラーのアガシにロシア語で声をかけている。
中国人はギャンブルが好きだ。一人ごとで、ずぅ〜と喋っている。他人の番の時も、自分の時も、終わった後も中国語で何か喋っている。どうも、自慢話のようだ。お愛想でも韓国語は話さない。
釜山港には世界160以上の国の船が出入りするといわれ、アジアの船舶の拠点だ。国際色豊かに人々が集い、カジノではあらゆる通貨、紙幣が、刻々のレートに従い踊っている、
確率論
確率は何千回単位の話ではない。英国の伝統あるカレッジのある心理学教授がゼミのチームを編成し、欧州・米国のカジノに於ける過去10年にわたるブラックジャックの実戦記録を、300万回の統計、分析、確率、を出すことによりセオリーをつかんだ。
彼はこのデーターをもってあらゆるカジノで勝ち続けた。ついには教授の職を投げ打ちギャンブラーとなって人生を過ごしたという。
しかしながら、今進行中の、此のゲーム、此の場面に通用するかどうかは誰にも解らないのだ。
みえない糸が、裏となり表となって風に揺られて微妙なからみを解きほごす作業に思える。技術と体力、なによりも気力がいる。
ブラックジャックのセオリーには、深い意図と巧みに偽装された罠が仕掛けられていて、心理を揺さぶり無意識のうちに不調の流れに巻き込まれ、ベストの選択をしても、勝てない状況においこまれていく。
《ルールの罠にはまる−1》
・デーラーの見せ札が7の時、プレイヤーの手札が(9・9)の18、素直にスティすれば勝てる可能性が高い。
だが、何がそうさせるのか、自分は上級者だということを見せたい様子でスプリットする奴がいる。
スプリット(a)9から4で13、ヒット、絵札でドボン。
スプリット(b)9から2で11、取り返そうとダブル、6で結局17.
対して、デーラーの見せ札7で、隠し札が5で12、ヒット8で20の上り札になった。
ムリな打ちかたをしたがために、8の札がデーラーに飛び込んだ。
この場面、スプリットせずスティすれば、デーラーは(7・5)の12からヒットし4で16、再ヒットして絵札でドボンとなり、プレイヤーの総勝ちになっていたはずである。
《ルールの罠にはまる−2》
・デーラーの見せ札が5の時プレイヤーの手札が(4・4)の8は、素直にヒットすればよい。では、ダブルをすることは、なぜダメなのか?(2か3)の札を引いた時、チャンスでヒットできない。
ダブルは1枚限りの札しか引けないからイレブンチャンスでスティせざるを得ない、これは凡ミスになる。
では、スプリットは何故ダメか。素直にヒットすれば上がり目しかないのに4からのスタートでは三枚札以上になり、先が見えない。
・デーラーの見せ札が7の時、プレイヤーの手札が(5・5)の10、素直にヒットすればよいのに、スプリットをかけるとどうなるか?
5の手札からヒットし絵札、絵札で(15・15)のスティ。スプリットせずヒットすれば20の札値になっていた。
10からの上がり札は(A・7〜9・絵札)合計8枚、下がり札は(2〜6)合計5枚
このように、プレイヤーが有利な流れを変える行為は負ける要因である。
《ルールの罠にはまる−3》
インシュアランスについて。プレイヤーの手札が(12〜19)の時に掛けるのは損だ。デーラーはエースを見せ札としブラックジャックを問い、有利な立場である。わざわざ二度も負けることはナイ。
《ルールの罠にはまる−4》
手札が(A・A)の時、スプリットせず、ヒットし絵札で12、再ヒット絵札、ここでドボン。素直にスプリットであれば共に21の倍勝ちになっていた。
《ルールの罠にはまる−5》
意味のないことをしない。
・二枚札で8以下の時、サレンダーする事。
これでは戦わずして負ける。
・二枚札が(絵札・絵札)の20の時、スプリットする事。
勝ちゲームを捨てる。
・札値が17の時、ヒットする事。
ドボンまで9枚(69%)の確率。
これは自称中級者が時々陥る誘惑で、ムダな行為である。
ブラックジャックは、他のプレイヤーの打ち方に連動する流れがあるので、ゲームの進め方に不満な態度を示す人もいる。しかし、それも結果論に過ぎない。セオリーというフォローとそれを無視するアゲンストがあり、多少のアゲンストの風でも勝つべき人は勝つのである。
ルールを知らずともテーブル上のチップの動きだけで調子がわかる。
カラーチェンジだ。
赤(千円)のチップが増えるとピンク(1万)に交換され、ピンクが増えるとイエロー(10万)に変わる。イエロー(黄色)は幸せを呼ぶ。逆になるとまさに負けパターンに落ちてしまう。
楽しみ方も色々あり、タイミングのよい、独り言のギャグで周りが和む事も有る。みんな、負けていてもめげない。
・私しゃ、金が有るが知恵が無いんよ。
・帰りの汽車賃も取られて、泳いで帰れ!言うんか。
・横にいる旦那が、私の札を取るからアカンねん。
・デーラーが可愛いから、この位にしたるわ。
長時間になると、互いに仲間意識ができてくる。
こうなると、各国の言葉が入り混じり、掛合いの声がはいる。
和気あいあいの空気はゲームの流れを引き寄せる。
第六章
糧を求め実戦する
ブラックジャックは、実戦に於いては複数のプレイヤーと共に戦い、ゲームは高速で展開される。
カードが配られ、他のプレイヤーが勝負している間に、すでに自分の打つ手を決めておく。秒速で順番が廻ってくる。
ブラックジャックは一瞬にして判断するゲームである。
これが出来ない者は勝負に勝つ事はできない。
俺の実戦が始まる。
・J(自分)の札(2と絵札)で12、デーラー(D)の見せ札9、ヒット5の17でスティ。
隠し札が絵札で19、デーラー(D)の勝ち。
二枚札で12は(3・9)(4・8)(5・7)(6・6)である。
・Jの札(3と絵札)で13、Dの見せ札8、ヒット5の18でスティ。
隠し札が絵札で18。イーブン。
二枚札で13は(4・9)(5・8)(6・7)である。
・Jの札(4と絵札)で14、Dの見せ札7、ヒット5の19でスティ。
隠し札が絵札で17。Jの勝ち。
二枚札で14は(5・9)(6・8)(7・7)である。
・Jの札(5と絵札)で15、Dの見せ札9、ヒット3の18でスティ。
隠し札が絵札で19。Dの勝ち。
二枚札で15は(6・9)(7・8)である。
・Jの札(6と絵札)で16、Dの見せ札9、サレンダー。
隠し札が絵札で19。
二枚札で16は(7・9)(8・8)である。
・Jの札(7と絵札)で17、Dの見せ札7、スティ。
隠し札が絵札で17。
イーブン。二枚札で17は(8・9)である。
・Jの札(8と絵札)で18、Dの見せ札9、スティ。
隠し札が絵札で19。
Dの勝ち。二枚札で18は(9・9)である。
・Jの札(9と絵札)で19、Dの見せ札8、スティ。
隠し札が絵札で18。Jの勝ち。
(生き残りプレイヤーの総勝ちの方式)
・Jの札(2と絵札)で12、Dの見せ札3、スティ。
隠し札が絵札で13。
Dはヒット、絵札でドボン。生き残りプレイヤーの総勝ち。
・Jの札(3と絵札)で13、Dの見せ札4、スティ。
隠し札が絵札で14。
Dはヒット、絵札でドボン。生き残りプレイヤーの総勝ち。
・Jの札(4と絵札)で14、Dの見せ札5、スティ。
隠し札が絵札で15、Dはヒット、絵札でドボン。
生き残りプレイヤーの総勝ち。
・Jの札(5と絵札)で15、Dの見せ札6、スティ。
隠し札が絵札で16、Dはヒット、絵札でドボン。
生き残りプレイヤーの総勝ち。
・Jの札(6と絵札)で16、Dの見せ札6、スティ。
隠し札が9で15、Dはヒット、8でドボン。
生き残りプレイヤーの総勝ち。
・Jの(10と絵札)で20、Dの見せ札絵札、スティ。
隠し札が6で16、Dはヒット、6で22のドボン。
生き残りプレイヤーの総勝ちになる。
デーラーのドボンが続くと席全体が歓声に沸く、笑顔が交わされる。
こうしていると様々な思いが入り込みふと考える。
人はあるがままで充分に価値がある。
生きてさえいれば、いい日も来るだろう。
過ぎたことには、もう拘らない。
俺はいつもこの信念から物事を考える。
・困難な事態にはより冷静に対処する。
・どうしょうもない時はひたすら耐えてみせる。
・いい感じで進めばスピードを上げる。
ゲームに戻ろう、
・Jの札(4と7)で11、Dの見せ札8、ヒット8の19でスティ。
隠し札が絵札で18。Jの勝ち。
俺は、見せ札が(3〜6)以外はダブルしない。
・Jの札(3と8)で11、Dの見せ札5、ここでダブル宣言、
止め札は9で20勝負になる。
隠し札が絵札で15、Dはヒット3の18。
Jの(倍)勝ち。
この、イレブンダブル、が当ると光がさしてくる。
・Jの札(10と絵札)で20、Dの見せ札9スティ。
隠し札9で18。
Jの勝ち。
二枚札の20は何も考えずに済む。
・Jの札(8と絵札)で18、Dの見せ札10、スティ。
隠し札が8で18。
イーブン
・Jの札(7と絵札)で17、Dの見せ札8、スティ。
隠し札が絵札で18。
Dの勝ち。
・Jの札(5と6)で11、Dの見せ札4、ここでダブル宣言、
止め札は3で14の勝負となる。
隠し札が絵札で14、ヒット、絵札だ、ドボン。
生き残りプレイヤーの総勝ち。
・Jの札(5と5)で10、Dの見せ札8、ヒット6、16のスティ。
隠し札が絵札で18。Dの勝ち。
二枚札の16ならサレンダーするが、1枚でもヒットしたら
途中からはサレンダーできない。再ヒットしたら・・の後悔。
・Jの札(Aと5)で(6か16)、Dの見せ札8、ヒット7、
Aを1にカウントして計13、再ヒット3、16のスティ。
隠し札が絵札で18。Dの勝ち。
エースが入って、四枚札で16の負けは情けない。
・Jの札(6と10)で16、Dの見せ札がA、
Dからインシュアランスの声がかる、俺はノーだという態度を示す。
Dは隠し札を確認、ノーだ。
再開、スティか?Jはヒット7、23で結局ドボン。先負け。
隠し札オープン、5で(6か16)、Dはヒット、7で、
Aを1にカウントし13からヒット、絵札でドボン。
生き残りプレイヤーが総勝ち。
この展開・・。やっぱし生きてなんぼや、うれしそうな女性の声が聞こえた。
・Jの札(10と絵札)で20、Dの見せ札絵札、スティ。
隠し札が絵札で20。
イーブンだ。20の数字で勝てない事が下がり目を呼ぶ。
二枚札の20はあっさり勝たせてよ。
・Jの札(2と絵札)で12、Dの見せ札9、ヒット2の14、
続けてヒット7で21となる。隠し札、絵札の19。Jの勝ち。
ここで、ナイスヒットの声、でも14からは普通、でも嬉しい。
・Jの札(4と7)で11、Dの見せ札8、ヒット8の19でスティ。
隠し札が絵札で18。Jの勝ち。
一目勝ちのいいゲーム。なんでダブルせいへんの?これでいいのだ。
・Jの札(3と絵札)で13、Dの見せ札9、ヒット2の15、
続けてヒット7の22でドボン。Jの先負け。
(15・16)の手札からヒットでドボンが続くと気は沈む。弱気になる。
・Jの札(4と7)で11、Dの見せ札5、ダブル宣言、
止め札は8で、19の勝負。隠し札が絵札で15、ヒット、7の22でドボン。
Jの倍勝ちとなった。
予定通りであるが、内心ホットする。
・Jの札(3と絵札)で13、Dの見せ札9、ヒット2で15、
続けてヒット7の22でドボン。Jの先負け。
この三枚札の場合、いつも、ヒットかスティかの迷い道。
・Jの札(3と8)で11、Dの見せ札8、ヒット8の19でスティ。
隠し札が絵札で18。 Jの勝ち。
・Jの札(6と絵札)で16、Dの見せ札絵札、スティ。
隠し札が絵札の20。Dの勝ち。
・Jの札(3と絵札)で13、Dの見せ札9、ヒット7の20でスティ。
隠し札が絵札の19。Jの勝ち。
一回のゲームは6人参加で約3分、ワンセット30分で終了し、しばし休憩、デーラーは全カードをシャフル、プレイヤーのカットで再開、エンドレスだ。
第七章
流れを感じ取る
理屈をいえば、勝てば官軍
しかし、何事も、マナーを守りセオリーを学び流れを悟ってこそ作戦もあり、奇襲もあり、勝機もある。砂の上の遊びではないのだ。
流れを変えない。
ブラックジャックは、基本的にいいカードを手元に集めれば誰でも勝てるゲームである。これは、正面の論理である。当然のごとくデーラーはプレイヤーがいいカードを持たないことを願う。主導権はデーラーにある。
でも、よく考えればデーラーは意思に関係なくルールーに従い作業しているに過ぎない。強い弱いはないのだ。有るとすれば、いわゆる運がある、引きが強い、相性が合わない、ということだ。そんなに気にすることもない。
プレイヤーは、たえず自分に有利な流れをめざし、この流れを変えないことがゲームを支配する。
(プレイヤーが有利な流れとは)
・一目勝ちする。
・ダブルチャンスがよく来る。
・二枚札で決まる。
・エースが手札によく入る。
・デーラーが、度々バーストする。
・ナイスヒットがある。
・ラッキーカードができる。
カジノがプレイヤー有利の流れを変える方法で、ピットボスができることはデーラーの交代と新しくカードを入れ替えることしかない。
(デーラー有利の流れとは)
・ブラックジャックで総取りする。
・インシュランスが多い
・見せ札に絵札が継続して出る。
・なかなかバーストしない。
・ナイスヒットを連発する。
一旦、デーラー有利の流れになったら濁流のごとくチップが吸い込まれる。
デーラーの見せ札が(8〜絵札)で、プレイヤーの手札が(15・16)の場面が多発してきたら要注意。
・ヒットしたらドボンになる。
・スティしたらナイスカードを逃す。
こうなると、
《手札がよくない→判断に悩む→悪い結果になる→後悔する。》
この流れが負のスパイラルとなり、なすすべもなく大敗する事になる。
対処方法はサレンダーである。
サレンダーは我慢するという事である。まだ傷が浅くて済むのだ。
我慢に耐えて、なんとかデーラーの流れを変えるのだ。
いい流れを変えないと言う事は、悪い流れは変えると言う事である。
一、チップをミニマムにしてゲームをする。
二、セオリーの反対を行く。
・ヒットとスティを逆にする。
・とことん、(12〜16)でオールヒット、又はオールスティする。
・サレンダーを連発する。(12〜16)
・1ラウンド休憩する。
・インシュアランスに総掛けする。
・なんでもスプリットする。
・手札が11の時はオールダブルを仕掛ける。
三、連敗が続く。3連続はよくあるが4連続は6.2%であり、5連続は3.1%となる、従って、5回目に大きく賭ける、これが俺の流儀だ。
当然に、以上を実行した場合かなり、自分が犠牲になる覚悟が必要であり、他のプレイヤーの非難を受けるかもしれない。
しかし、決意で行動すれば、嫌な流れを変えるキッカケになる可能性はある。
この方法、何度か試みてダメなときは継続しない。セオリー無視は大敗する。
対抗手段はひとつだ。勝負を見切り、すみやかに退席する。
カフェでコーヒーを飲みながら気持ちを立て直すことにしよう。
カジノはタダで楽しくゲームを提供するところではない。
カジノの会員システム
会員登録すれば、会員カードが発行され、毎回の渡航費用、ホテル宿泊費がサービスとなり招待してくれる。
条件はひとつだけ、カジノで現金200万円をチップに交換、1日5時間以上のゲーム参加することである。
東京から毎週末に来る3人組がいる。彼らはこの会員システムを使い、毎回徹夜でゲームをし、互いがいくら儲けた損したと総括している。若いながら服装、物腰が外資系エリートの様にみえる。決算書は知らない。
後は、中小の社長さん、商店の経営者などが会員だ。
カジノの思惑にはまりはしない、世の中にタダはありえない。
俺はささやきを拒んだ、ギャンブラーは自由に生きるべきだ。
コーヒーを頼む。誰かが頼むとつられて3人の手が上がる。ゲームは継続している。どうぞ、振り返ると、なんとまあ、美人のアガシが笑顔で立っている、うん、俺は白いチップをお盆にのせる、チップ用の千ウォン(百円)だ。
カンサハンミダ(ありがとう)清楚な風情だがスリットがおおきい。見惚れてしまう。 これもカジノの思いやりで、やはり気をとられて負けてしまった。
客は勝手なもので、わずか数十分で入れ替わる者もいれば、何時間も継続している者もいて様々だ。
ブラックジャックのテーブルにはツー&ワンの表示があり席が空いていれば、一人で2ケ所のワクを使用できる。2倍ゲームが楽しめるというわけだ。
陽気なGIがバイバイと去り、40才位の夫婦が参加した。彼らはここによく来るらしく、慣れた物腰で場に溶け込んだ。
うまい打ち手である。勝てば褒め合い、負ければ原因を解説する様子が微笑ましい。ブラックジャックが夫婦共通の趣味で、年に5回は此処に来ている。神戸で会社を経営しているようだ。
カジノの常連さんで、韓国語も達者な中年の客は、現地法人の出向社員らしく、時々携帯が鳴り、ボソボソと仕事の話をしている。
カジノで大晦日のカウントダウンは、全ての客に対しシャンパンとケーキが配られ、盛大に祝う。舞台が用意され司会の女優が登場し、抽選で豪華な商品や500万ウォンのチップなどが当り、場内は大賑わいになる。
そのまま新年を迎えれば、もうブラックジャックが自分に来ないとゲームをやめられない気分になる。
海雲台の砂浜には、早暁から初日の出に祈る人々が各地から数千人集い、海には大漁旗を掲げた漁船が鐘太鼓をうち、空には爆竹が上がる。
ホテルの窓から眺めていると、人々が寒そうに身を寄せながらも明るい期待の笑顔がみえる。
今年もすがすがしい日の出を拝むことが出来た。俺は安心して眠りについた。
目が覚めると時計を見た、もう午後の3時だ。浜辺には誰もいなかった。
シャワーを浴びると身支度してコーヒーを飲む為カジノへ向った。
新年の初めからもうカジノは賑やかに活況を見せている。
フロントを過ぎるとひな壇があり、タル酒が用意され、華やかな女優たちが来場者にマス酒を振舞っている。俺も参加した。
ブラックジャックのテーブル席に着くと、昨日のメンバーと挨拶をかわす。
さっそくコーヒーを注文し、しばらくは勝負の行方を見ていた。
長時間で疲れると、デーラーの勘違いで、負けているのにチップが支払われることがたまにある、他のプレイヤーは全く知らん顔をして続ける。しかし、間違って客のチップを没収したときは、すぐさま全員が指摘するのがまたいい。
カジノに行く人には三通りある。
一、興味本位で、まるで大人の遊園地か水族館的に、気軽に体験したい、あわよくば、ついでに幾ばくかの金が稼げたらという人々。
ワイワイ、ガヤガヤの観光客。最近は大型バスを連ね、騒がしく隅から隅までのぞきこんで、1時間位で一斉に去ってゆく。
この中国本土の観光団がどこのカジノでも見られるようになった。
カジノにとっても、大いなる宣伝、広告になる。
二、何の準備や研究もせず、ルールも知らず、カジノで丁重なおもてなしを受け、虚栄心とプライドをくすぐられ、満足し、大金を置いてゆく人々。
また、いわゆるカジノゴロ達。(カジノ内で1日中、ゴロゴロしている)
テーブルは、怒号とヤジ、大声で叩く音、チップを投げたり、崩したり。
この人たちにとっては、今回はただツキがなかっただけで次回こそは!
カジノの励ましで自身の納得をする、カジノには主力のお客様である。
三、真剣にカジノに挑戦し、勝ち負けによらずゲームを楽しみ、流れを読み取り、技術の向上と人生の多様性を感じ取れる物静かなギヤンブラー達。
マナーとチップ捌きが優雅だ。
デーラーにとっても、この人たちとのゲームは緊張し、心の動揺からミスを生むケースが多い。穏やかな空気で進行してはいるが、テーブル上では見えない火花が散っているのだ。
これらの少数の人々は、カジノの良心であり、守るべき最後の誇りである。彼らが去ってしまえば、カジノは単なる鉄火場になり下がり、存在価値が問われ、消滅する運命になるかもしれない。
ギャンブラーは
・人と争わない、カードが相手だ
・酒は飲まない、感性が鈍るから
・女に関わらない、幾つになっても心理がよめない
・風邪をひかない、体が唯一の資本だ
・貯金も借金もしない、明日がわからない
・何の講釈もなく、他人に関わらない、寡黙で孤独だ
・質素で静かに行動する
・時はない、果てのない旅だから
そして蝋燭のように消えてゆく。
カジノでは、世間の地位・権力・肩書などは一切通用しない。頼るは自分の力量のみ。すべてが自己責任である。
カジノで運よく得たお金のことを、神の配分、という。
人間社会が生み出した差別も、理不尽も、何より不平等がないのがいい。
ここが本当の公正な世界に思えてくる。
ということで、この勝負の流れが、上下の曲線を描きながら俺は、そのまま、気がついたら朝の4時になっていた。
カジノには季節も時も気候も政治も経済も、眠りさえない。
疲れたので、ゲームを降りた。部屋に帰りシャワーからベットにこけた。
なんとか、合わせて30時間のロングランは終わった。深い眠りに落ちた。
夢のなかでもハートのエースが出てこない。
次の日、昼過ぎ、明るい日差しで目が覚めた
窓に立つと、海雲台のまぶしい海と静寂の砂浜が広がる。
心にゆとりができたら、外に出てこの砂の上を歩いてみよう。
俺はこれから、春夏秋冬、此海の移り変わりを眺めることだろう。
あのカモメのように。
ギャンブラーに過去はいらない。
結果をだすことができた。なんとかやれると思う、やってみる。
大阪に帰ってきた。
慣れきった日常がはじまる。
最終章
生きることは戦うこと
釜山に2件目のカジノができた。
市内中心部のロッテホテル2階のセブンラックだ。
政府系の資本らしい。
今回はここで勝負だ。
場内を一通り巡ってみる。
親切のカジノらしく、内装、設備、チップのすべてがきれいだ。
デーラーの何人かはパラダイスカジノで見た顔がいる。なるほど。
親切な対応と、なにより、低いレートのテーブルが多めに設置されているのもいい。
これまでは、ミニマムが低いレートの席は一つしかなく、いつも満員で何時間も待ち客があっても他のテーブルを開放しない。
やむなく高い席でゲームをして大敗し気分がよくなかった事もある。
やはりパラダイスのカジノで見かけた客が何人もいる。長い間、釜山にカジノはひとつしかなく、無意識でも、独占のおごりがあり、サービス、ゲーム仕様にもかなりの批判があったのも事実である。
今や、釜山カジノには競争が存在し、比較され選択されるので訪れる客には嬉しい状況になっている。
ツキのない客は席を変える以外に、カジノを変えることが出来る。
タクシーで約1時間、2千円で行ける距離にある。
連続渡りのつわ者も出現し、座っていても他のカジノの状態も耳に入る。
軽食のメニューも豊富で、意識して差をつけている様だ。言葉使いやマナー接客の態度、等々のよさが感じられる。此の事が又、他に反映しそこでも改善がなされる。
アガシたちの制服も四季折々で、清楚で華やかな色彩のものにデザインされている。新人が多い故に、デーラーは緊張感で多少はぎこちない。
いまなら客が勝てる要素だ。
新人デーラーは、仲間内で、移籍してきた経験豊かな先輩の彼女達をオンニ(お姉さん)と呼び何かと頼っている。ピッツトボスに出世した人もいる。
俺も、長い間の常連客であり、顔を合わせると、久しぶりですね、といった感じで会釈する。しかし勝負は別だ、互いに容赦はしない。
いつものように静かに行動し、冷静に判断し、俺は200万を稼いだ。
但し、ウォンか円かは聞かないでくれ、それはいえない。
久しぶりに気分がいいので外の街に出た。日が変わる時間でも市内中心部は賑やかである。ロッテホテルの裏手には大きい公園があり、周りを囲んでポジャマチャ(屋台)が数十件並び夜明け近くまで営業している。
屋台のテントには、いらっしゃいませ、おいしいよ、歓迎します、お気軽に、など日本語で書いてあり面白い。一人でさりげなく歩いていても、こんばんは、の声もかかる。ここは庶民の憩いの場である。
屋台を営業しているのは、地方から出てきて、苦労のなかで頑張って生活している人々が多いという。田舎の話には各地の方言がことばに入る。
楽天的で、前向きな、しっかり者のアジュマ(おばさん)たちである。
2時間程いて、4千円の支払いですんだ。もう少し街を散策しようと、帰らず商店街に向った。
便利店、CDショップ、焼肉屋、バー、マクドナルド、ロッテリアを通り越し洒落たカフェに入った。
コーヒーを頼みしばし物思いにふける。長い旅のせいか、寂しさがひとしを身にしみる此の頃だ。人は自分一人では生きていけない。家族であれ、親友であれ、愛人であれ、仲間であれ、共に喜び悲しみを分かち合う者がいればこその幸せであろう。
この想いが俺の人生を大きく動かすとは、まだ知らずにいた。
俺はなんとなくブランディを頼んだ。なんとなく俺の席にアガシが就いた。
心地よい雰囲気で会話が弾んでゆく。何年ぶりに酔ったであろう。
なりゆきで、彼女と二人で部屋に帰り、焼酎の水割りで乾杯し、朝まで飲み明かした。何事もなく過ぎた。夕方近く目が覚めると、メモに再開を願う携帯番号が残っていた。
普段は飲まないが酒には強い。酔いは残らずシャワーを浴び俺はカジノに降りた。
この晩も少し稼ぎ、気がつけば俺の足は店のほうに向っていた。
彼女は暖かく迎えてくれた。勝った事を自分の出来事のように喜んだ。
互いの身上は語ることなく、ただ、独り身であること、よく釜山に来る事、
アルバイトだという事、が分かればよかった。思いが交錯する。
今夜も楽しく飲めた。帰るわ、カジノがんばってね、なんだか出稼ぎのような気になる、ちよっとだけ得意げな気持ちになる。
誰かに頼られるのはいいことだ。
フライト待ちの金海空港で、初めての電話をいれた。
次の約束はできなかった、ギャンブラーに明日はない。
淡々とした日、夜、自宅でスカパーの韓国ドラマ(ソドンヨ)を観ていると携帯が鳴った。
元気ですか、今度来るときは連絡してネ、空港まで迎えに行く。
土産なにかいる、いらない、行くときは電話する。
落ち着いて予定を考えた。ハケンでも行き、資金準備しよう。
日程の調整を済ませ、いつもの慣れた旅支度と天気予報の確認。大阪も釜山も快晴だ。
五月の爽やかな風と共に、午後2時金海空港に到着。
迎えはなかった。いつもの事だ。
タクシーで約20分、ロッテホテルにチェクイン。
カジノに降り、いつものごとくブラックジャックの席に着いた。
知った顔が何人かいる。やぁこんにちは、ひさしぶり、笑顔でかえす。
そのまま、夕方まで勝負を続けた。
調子がいまひとつでない。食事を頼む。
焼き飯を食べながらゲームの流れを反省する。
ミスが何点かあり、この結果は納得した。
1. 波に乗っていたときにチップの増加を怠った事。
2. Aのスプリットが不発であった事。
3. イレブンチャンスがイーブンになった事。
4. サレンダーすべきを、ヒットしてドボンが続いた事。
5. 全体的に集中力を欠いた事。
ここで気をひきしめ、席にもどりゲームに参加する。
さすがに、チェックポイントを無事通過し、奪われたチップは回収し、大勢の仲間まで連れてきた。このまま、このまま行けばいいのだ。
しばし没頭して、かなりの勝ちを保ちつづけた。
デーラーが急に不調に陥り、テーブル客の多くが勝ちに入っている。
ピットボスからデーラーに、シャッフルの仕方を変えるよう指導が、デーラーの交代が相次ぎ、ついに、カード交換の指示が出た。約15分の休憩である。
同席の客達は和やかに談笑している。ある者は、この間でもルーレットに行きチップを張りゲームを楽しんでいる。すべてのチップは共通である。
再開の合図がかかり、またそれぞれの席に着き、ゲームが始まった。
流れは行ったり来たりが続き、どう転ぶか分からない。
こんなときは、我慢することが一番大事だ。あせらない、セオリーに従い淡々と進める。
調子が出ないときは我慢する。
このテーブル客が団結した、いい雰囲気で進行しているので、余裕がある。
デーラーにドボンが出だした。連続して出る。波がやってきた。
ここでチップを増やし勝負をかける。プレイヤーの総勝ちになった。
デーラーの交代が頻繁に行われる、が効果はない。
ピットボスが張り付いて指示を送るが、どうにも流れが変わらない。
一日のうち、このような事が時に起きる。もう3時間がプレイヤーのものだ。
しかし、デーラーが驚異的な強さで支配する時間のほうが、その何倍も多い、というのも事実である。運よく自分に有利な時間帯にあれば、幸運なことになる。
俺は時計を見た。夜の11時だ。部屋に帰った。
風呂にゆっくり浸かりながら棋譜を読み返した。
窓から市内の夜景を眺めていたとき、携帯の着歌が聞こえた。
来ています、あぁ来てるよ、今からこれる、いくわ。
まあいいか、今日のゲームはこれまでにしょう。
店の名がカルメギといま知った。
笑顔で横についた彼女をみて安心した。元気そうだ。元気であればいい。
とりとめのない話であるが、やさしい気持ちが沁みこむ。
ドラマが急転する。
守るものができた事が微妙に影響して、指先が鈍るかもしれない。
その価値がどうかは解からない。
大半の時間は、小説を書く事にあてているが、たまに時間給労働もする。
急ぎの手伝い作業もこなす。
月に一度、釜山に通いカジノでの勝負に専念してきた。
こんな暮らしでここまでよく来たとつくづく思う。
あれから、10年が過ぎた。
海雲台の海と砂浜は今も変わらず此処にある。
俺は穏やかに暮らしている。ささやかに、ひかえめなギャンブラーとして。
(第1部・了)