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5 悪役令嬢 いびられる

「あら、だれかしらこの私に用があるのは?」


 ディアーナは平然と構えている。まるで自分の才能に対して嫉妬されるのは慣れているかのように見えます……まあ実際に嫉妬してはいますが。


「お初にお目にかかります、私スカーレットブラット公爵家の長女のマリアンヌ・スカーレットブラットと申します」


 鉄扇(てっせん)を懐から取り出し、広げ優雅に構える。ディアーナは見た感じ典型的なお嬢様で強そうには見えませんが、これでも冒険者学校卒業らしいので実力は確かにあるはずです。油断はできませんね。


「……スカーレットブラット公爵家?ぷぷぷ、なんですかそれ?初めて聞いた家名ですけど!

あんたねえ、軽々しく公爵家の(かた)ことは許されませんわよ。どこの国の、いつの時代の『公爵家』だというのかしら。まあ答えられると思いませんけどね。そしてあなた、今ランク幾つなのかしら」


「……まだランク2よ」 


 さきほどランクが1上がり2になりました。それでもディアーナのランク8には敵いませんが。


「あーははははは!そんなところだとは思いましたわ、『自称』公爵家令嬢さん?わたくし聞いたことありますわ、ランク1の冒険者が登録するときに経歴に『英雄の生まれ変わり』とかいて、そのままゴブリン退治で無残に殺された、とかいう笑い話をね?所詮その程度の雑魚が(わたくし)に話しかけるんじゃありませんよ?」


 ……これは完全に煽ってきていますね。マリアンヌに売って来た喧嘩は買わないといけない、と思います。まだ相手の実力がわからない現状直接戦闘はマズイでしょうが、最悪戦闘になる前にヒロが止めてくれるでしょう。


「この私が雑魚ですって?!冗談じゃありませんわ!」


 鉄扇(てっせん)を閉じ、彼女に1歩1歩近づいて行きます。一つ一つ深く呼吸をとり、戦闘態勢をとります。




「ちょっと待ってマリアンヌさん?!冒険者ギルド( ここ )で戦闘はご法度だよ!」


 腕にヒロが抱きついて静止した。……やはりヒロが止めてくれましたね。これで一旦引く理由ができました。


「……ちぃ、次会ったら覚えておきなさいよ。ヒロ、もう行きましょう」


 そう捨て台詞を吐いて、ディアーナに背を向け、冒険者ギルドの建物から出た。外はすっかり暗くなっており、先ほどの態度はほとんど茶番のようなものとはいえ、怒りで火照った頬に冷たい風が気持ちよく吹いています。


「マリアンヌさん、ちょっとさっきの出来事なんですか。なんでタイショー家の令嬢に喧嘩を売ったのですか?」

「それはもちろんスカーレットブラットの名を汚されたからよ。ーーねえ、ヒロ、冒険者で功績を立てれば貴族の位をもらえたりすることはあるのかしら?」

「え?まさかだとは思うけど、この国の冒険者から公爵家へと成り上がるつもり?……ほぼ不可能だと思うけど可能性は0じゃない、かな。この国は冒険者を国の機関に積極的に採用しているみたいだけど、それでも公爵家は並大抵の功績じゃなれないと思うよ」

「可能性は0じゃないのね、なら私はなって見せようじゃないの。正真正銘の公爵家にね」


 ヒロは目を大きく開いた。

 公爵家にもいくつか種類があるが、そのなかには王家の血筋につらなるものもある。単なる功績だけでは如何ともしがたいところはあるでしょう。


「本気?」

「正真正銘、掛値なしの本気よ。それが冒険者ランク10だろうと20だろうと成り上がって見せようじゃないの」


 鉄扇(てっせん)を広げ、笑みをたたえる。何事にも悠然と構えるのがマリアンヌ・スカーレットブラットでございます。


「所詮ランク8で粋がっているあの小娘に、目にものを見せてやりますわ。オーホッホッホ!」

「それに付き合わされるオレの立場も考えてよ……」


 まあなんとなく予想はついていたけどさ、とヒロは肩をすくめた。



 というわけで次の日から自身の戦力強化も視野に入れて行動を始めます。

 まず現状の戦闘スタイルを見直します。マリアンヌは鉄扇(てっせん)をメインウェポンにして、格闘も併用した近接に比較的特化したスタイルだ。中距離の攻撃は鉄扇(てっせん)の投擲があるが、現状所持している鉄扇(てっせん)は1本しかないため、一度投げるといちいち拾い上げて回収する必要がある。

 ゴブリンとの戦闘では投げた鉄扇(てっせん)をはたき落とされてしまったため、近接戦闘はとりあえず従来のままを維持するとして、中〜遠距離での攻撃手段を増やす必要があるでしょう。


 となると、やはり魔法をとりいれるべきでしょうか。

 『キングダムラブ』のゲーム内でも『魔法』は存在しその潜在的能力、いわゆる『魔力』は生まれながらにして定まっているとされている。貴族はかつて『魔力』を多く保有している人たちが国家権力の樹立に深く貢献したとされているため、学園の登場人物の多くは『魔力』を保有した生徒が多い。

 主人公は庶民の生まれでありながら『魔力』の保有が抜群に高く、そのおかげで特待生として学園に入学することを許されたのだ。ちなみにマリアンヌも『魔力』の才能はあるが、主人公と比較するとそこまででもない。近接格闘のスペックが高いのも『魔力』による実力の差を補うために努力した結果だと思われます。


 今までで魔法使いの冒険者らしき人たちは見てきていますし、そもそもゴブリンでさえ神官の格好をしていたので、この世界にもおそらく魔法の概念はあると思われます。


「というわけでヒロ、魔法を覚えたいけどどこに行けばいいかわかるかしら?」


 昨日の騒動から一夜明け、いまは宿の食堂で朝食をとりながら二人で話しているところです。朝食のメニューからチョイスしたのはパンケーキにオムレツ、黒いソーセージのようなお肉に、コンソメっぽいスープになります。冒険者ランクを駆け上がるために、前日泊まった宿よりワンランク下の宿にしたのでこんなものですかね。


「そーといわれてもね、一朝一夕で魔法を覚えるのは流石に無理があるんじゃないかな。たとえば冒険者が魔法使いになりたいとおもったらまず魔法使いの師匠を見つけてそこで弟子入りして、修行をしないけない。どの程度魔法を極めたいかとか、弟子入りする師匠によって期間は変わるけど、まあ一年は最低でも必要なんじゃないかな」

「あの子娘……ディアンナは『冒険者士官学校』というところの卒業みたいだけど学園に通って魔法を覚えることはできないのかしら」

「ああ、確か貴族の子弟のなかで将来は冒険者希望の生徒や、逆に騎士団志望の生徒が一つの学園で学べる学校だったかな。そこだといくつかコースがあって、カリキュラムをフルで学ぶコースだと3年はかかるはずだよ。長寿種のエルフが設立した大学だと卒業するのに30年はかかると言われるコースもあるみたいだし」

「随分と詳しいのね」

「まあね。魔法と剣を両方使う『魔法剣士』は一種のロマンだし、一度は目指したことがあったけど魔法の才能なさすぎてあきらめたよ。そもそも生まれつき怪力で、オレの魔剣グラムを振るうより拳で殴った方がずっと強いみたいだし。怪力のせいで幼馴染から『ゴリラ女』とかよばれるわ、散々だったよ」


 ん、『魔剣グラム』?


「これがオレの魔剣グラムだよ、まあ武器屋で適当に買ってきた量産品だけど」


 そういってヒロは剣を帯から外してみせる。向こうの世界の出身である私は武器の類は初めて見るが、たしかに魔剣というよりただの安物の剣のようにみえる。これは向こうの世界みたいに、子供達が適当な木の棒を拾って『エクスカリバー』とか『カラドボルグ』とか無駄にかっこいい名前をつけて、チャンバラしているようなノリなのだろうか。


「ならもっと手っ取り早く魔法を習得できる方法はないのかしら?」

「んーないわけじゃないけど、正直おすすめはできないかな。あーでもマリアンヌさんならいけるのかもしれない」


 ヒロは席を立ち上がり、宿に設置されている新聞や雑誌が置かれているラックから羊皮紙を取り出してテーブルに広げた。それは今いる町ヴィレッジを中心とした地図であり、南西の方向にある一点をヒロは指差した。


「ここにダンジョンと呼ばれる迷宮があるみたいでね。そこにはモンスターやお宝が設置されていて、モンスターが落とすアイテムやお宝の中に魔法を習得できる『魔道書』とよばれるお宝が存在するらしい」


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