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「マリアンヌか。何とか間に合ったようだな」
アレクスは騎士達を連れて室内にずかずかと入ってくる。そして護衛に守られているキシリトル子爵を見ると剣を抜いた。
「お前が今回の騒動の犯人か。城の主不在の隙をついて王城を乗っ取る行為は国家反逆罪に値し、お前だけでなく一族全員が処刑されることになる。だが、もしお前がここでおとなしく投降するならその首一つですむかもしれないがな」
続々と武装した騎士が集まるにつれて、無理を悟った敵側の兵士は続々と投降していく。しかしキシリトルは顔を真っ赤にして怒り、まだあきらめるつもりはないようだ。
「おのれ!どいつもこいつもわしの邪魔をしおって!」
しかし多勢に無勢。じりじりと追いつめられていき、護衛達も一人一人と武器を下ろし始めた。
アレクスは配下に敵兵の武装解除を指示すると、まだあきらめない子爵に対してこう告げた。
「すでに王城の主要なところは我々の手で奪還している。ここにいる貴様の勢力はそいつら以外はすでに倒した。これ以上抵抗するのは無駄だ」
ついにキシリトルも抵抗をあきらめたのか、がっくりとうなだれた。
どうやら事件も収束しつつあるようだ。
「……あら、ヒロはどこに行ったのかしら」
「そういえばそうだな。あの子供はあんたのそばにいるはずだしな」
彼女はさっきまでドアの真正面にいたので、蹴破られたときに巻き込まれてないといいのだがと思ってドアの方を見た。するとどうやら巻き込まれてしまったらしく、壊れたドアの脇で気絶していた。
「ヒロ?!」
幸い気絶しているだけで怪我は負っていないようで、彼女を揺り動かすと目を覚ました。
「ううん……」
「ドアを蹴破った際に誤って巻き込んでしまったのか。すまないな」
「ヒロは扉を押さえて敵が侵入しないようにしていたのよ」
「そうなのか」
アレクスは謝罪を述べながらヒロを起こした。彼は起こした後、彼女の頭の上に載せ、今度は優しい手つきで頭をなでた。
「この子がドアを押さえてくれたおかけで、王城内の兵士の大半がドアの前で立ち往生していたからな。おかけでかなり手早く王城を制圧することができた。感謝する」
ヒロは黙ってなでられていたが、気恥ずかしいのか少し顔を赤くしている。
そうしている間に次々と兵士たちが武装解除され、拘束されていく。そしてついに首謀者であるキシリトル子爵の拘束に取りかかった。
男は私を苦虫を潰したような顔をしてしばらくにらみつけていたが、ヒロの方を見て何かに気が付いたような表情をした。
そのときは頭をなでられた際にフードがはずれており、彼女の茶色い髪が露出していた。
「き、貴様まさか……」
それまで表面上はおとなしくしていたが、突然立ち上がり何か言いかけた。
私達は王族しか知らない隠し通路を通って執務室に侵入した。なぜそのような情報を知っていたのかと言う理由を考察すれば、ヒロの容姿から王女プリステアの面影を見たのだろう。
しかしそのことを周囲に言いふらされれば、彼女がこれ以上冒険者をできなくなってしまう。
私はこの世界に来てから、世界の常識を教えてもらっているという恩義がある。だから彼女が冒険者を続けられるために、キシリトルののどを掴み言い掛けた言葉を無理矢理止めた。
「う、うぐぐ!」
のどを掴まれ息を詰まらせたキシリトルは、必死になってもがき力強く抵抗する。
そのため男の抵抗を奪うために、私は男の下腹部を力一杯蹴り上げる。
その一撃がかなり効いたらしく、男は悶絶の表情を浮かべた。
少しおかしい。確か呪いで身体を強化されているはずで、先ほどまでの攻撃もあまり効かなかったはずだ。
もしかしてここが弱点?
試しにゲシゲシと同じ所を蹴るとかなり痛いらしくキシリトルは悲鳴を上げた。
「あら、ここが痛いのかしら?」
「ぐぎぎ……」
「マリアンヌ、お前は何をしているのだ?」
「こいつがよけいなこと言わないようにする為よ」
「そうか……くれぐれもうっかり殺さないでくれ。こいつは王の面前で正式に裁くべきだ」
キシリトルに猿ぐつわを噛ませて、アレクスは彼を連行して部屋を立ち去った。




