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37 突撃

 アレクスが立ち去った後、ヒロの方を見ると彼女は青ざめていた。

 そして私にこう提案してきた。


「マリアンヌさん……オレもここから出て行っていいかな?」

「危ないわよ。さすがに数が多いから私でも対処しきれないわよ」


 以前の盗賊と戦ったときでさえ、私は全員を対処しきれなかった。練度も数も多い兵士相手に戦えるかは分からなかった。


「でもこのまま待っていたら、いつか見つかっちゃうよ」


 それも確かに事実だ。

 ときおり兵士の軍靴が床をたたく音が庭の周辺から聞こえてくる。いつ私達が見つかるか分からない。


 そう思う度に私の中の「私」の心がキュッと恐怖で締め付けられる。激しい感情に駆られ、「マリアンヌ」として振る舞って居るときには感じなかった感情だ。


 もし見つかって、兵士に捕まってしまったらどうなるのだろうか。

 牢獄にほおりこまれるのだろうか。その前に激しい拷問を受けるのだろうか。そして最終的に断頭台の上でその生涯を終えるのだろうか。


 息を潜めて考えたくもないことばかりが脳をよぎる。


 私は頭を振るってその考えを払拭する。


「こうなれば埒が開かないわね。ヒロ。あなた王女ならなにか抜け道とかでいいから、突破口とか知らないかしら?」

「抜け道?ええっと確か隠し通路があったような……。この庭の隣の庭に、王城の執務室から王城の外までつながる隠し通路の、そこに繋がる入り口があったはずだよ」


 やはり王城にはこのような敵に占領されたときのための非常口が用意されているらしい。


「ならそこを通って執務室から敵陣を襲撃するわよ!首謀者がうまく捕まれば敵陣営も混乱するに違いないわ!」

「うそ?抜け道から逃げないの?」


 確かに王城をいったん出て、騎士団を連れてきたアレクスと合流したほうが安全に攻略はできるだろう。


「でも、それだと王城に取り残された貴族やあなたの家族の身が危ないかもしれないわよ!」


 現在王宮内はなぜか近衛騎士団が手薄で、国王も不在なため不埒者が王城に私兵を送り占領している。となれば逃げ遅れたり、隠し通路を知らない貴族やヒロの兄弟がどこかに監禁されている可能性は高い。

 おまけに敵は身の破滅を感じてやけくそ気味に行動を起こしている。だから捕らえられた者が無事であるとは言い切れない。


 ヒロは家族、と言う言葉を聞いてはっとした。


 私も、マリアンヌも、この世界に家族はいない。

 でもヒロには、プリステア王女には家族がいるのだ。例え名を捨て、冒険者に身をやつしてもその事実は変わらない。


「家族の前に今の姿を見せるのに抵抗があるかもしれないけど、それだったら敵本営を叩いてしまえばいい話でしょ?」


 私の話を聞いて彼女の眼から迷いが消えたように見えた。


 それに首謀者を叩けばその恩賞として貴族の位をもらえるかもしれない。そのまま公爵家令嬢を手に入れれば目標達成だ。

 意外な抜け道を見つけてしまったかもしれない。


「方針が決まったならさっさといくわよ!ヒロ、案内しなさい!」

「マリアンヌさん、相変わらず傍若無人だよね。まずここから出よう」


 兵士の目を掻いくぐり、隣の庭の茂みの中に隠された入り口から隠し通路に潜入する。

 最近人が通った形跡はなく、通路の中に蜘蛛の巣がかかっている。


 蜘蛛の巣をかき分けしばらく進んでいくと、執務室の真下に到着したらしく後は階段を上ればいいらしい。


 隠し通路の入り口を少し開いて中を覗くと、見覚えのあるでっぷりとした肉付きのいい背中が見えた。

 人型オークことキシリトル子爵は護衛に守られながら、兵士を叱責していた。


「なに?!あの女を見つけて、それで逃しただと!ええい、早くあの手紙を取り戻し、八つ裂きにするのネ!そうしなければワシの身の破滅になるのネ!」


 大量のつばを兵士の顔に振りかけた後、兵士を下がらせてキシリトルはどしりといすの背もたれにもたれかかった。


「全く、サドエスも重大な用事があるからと言って金だけをよこして

、自分は無関係であると装うつもりなのかネ」


 男は自分が背後から狙われているのに気が付いていないのか、机の上の酒瓶に手を伸ばしゴキュッゴキュッと飲み干した。

 周りには十数名の武装した兵士が護衛として待機しているが、キシリトルの態度をいさめるどころか、むしろ見ないようにしている。


 襲いかかるなら今しかない。

 そう思った私はヒロに目線で合図を出す。


 覗いていた隙間に手をかけ、一気に扉を開いて室内に躍り出る。


「覚悟しなさい!」


 私は肥えた背中めがけて鉄扇の鋭い先端を突き刺した。

 しかしそれは体を貫通するどころか、ガキンと金属に当たったような固い音がして弾かれてしまった。


「?!」


 私は思わず後ずさったが、ここは狭い室内。背中の壁が邪魔で相手と距離がうまくとれない。


 男は振り返った。先ほどの一撃が対したことがないかのように余裕の表情である。

 服に鎧の類を着ていたのだろうか?

 キシリトル子爵は私を見ると表情を醜くゆがませた。


「ククク。またあったネこのクソ女!貴様のせいでワシの計画がめちゃくちゃになったのネ!今度こそは八つ裂きにした上で火炙りにしてやる!」


 彼の背後にある護衛達がこちらに向けて武器を向けた。


 室内の兵力では足りないと判断したのか、それとも確実に私を殺すためたのか、男は手元にあるハンドベルを盛大に鳴らしてさらに増援を呼び寄せた。

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