36 占領
「それで私は急に依頼を持ち込まれたのだが、具体的に何をするつもりなのだ?」
男は仕事の詳細を話されていなかったらしく、私が説明すると男は微妙な顔をしたような気がした。
「そうか……国王への謁見の予約をしないと、確実に会うのは難しいかもしれないな。単に門前払いされる可能性もあるが、そもそも国王が不在の可能性もあるから空振りに終わる可能性もあるぞ」
「でも予約を取ってから行くのは遅すぎるわよ!こうなったら宮中に寝泊まりしてでも国王に会ってやるわ!」
「それは困る……というより貴族達に迷惑が掛かるからやめろ」
もう追っ手に追いかけられて町中を駆け回るのはごめんだ。
「オーラムはギルドで待機してもらえば安全だろうし……、ヒロはどうするかしら?オーラムと一緒に居る?」
「オレは……オレも行くよ。あまり行きたくなかったけど、この男にバカにされたまま黙っているわけにはいかないよ」
ヒロは拳を強く固めた。アレクスは特に彼女に興味を示さずバッグから地図を取り出した。
「王城はギルドを出て商業地区をまっすぐ突っ切れば20分もかからない。追っ手が襲ってくるかもしれないが、人混みの中でおおっぴらにはできないはずだ」
王城にたどり着いてからは、ギルド長の書簡を使って内部に強引に入って国王に手紙を渡す。それまで証拠となる手紙を守りきればいいのだ。
そして私達はギルドを出発したが、王城にたどり着くまで追っ手は陰すら見ることはなかった。
「何も起きなかったし、杞憂だったかしら」
「だといいのだがな」
門番に書簡をたたきつけて、国王との謁見を申し出たが意外な返答が返された。
「陛下は現在鷹狩りに出かけておりまして、すくなくとも今日は戻ってきません」
「ずいぶんとタイミングが悪いわね……でもこの手紙は非常に重大なのよ。国王が居なくても入らせてもらうわ」
「それは困りますよ……キミたち冒険者でしょ?ただでさえ今日は貴族の私兵が立ち入っているのにこれ以上怪しい者を入れるわけにはいかないですよ」
門番の説明にアレクスが反応した。
「私兵?まさかとは思うが……。やはり通してもらえないか?私はアレクス・エイリアスだ。この案件は国を左右する大事な案件で、ぜひとも陛下に渡さなければならないのだ」
「は、エイリアス様ならしかたありませんな……」
アレクスの名を使って王宮に入ると、突然至る所から兵士達が沸きだして私達に向けて武器を向けた。
「間違いない、あの娘だ。あの娘を殺して手紙を奪え!」
「ちょっと、もしかして王宮が占領されていない?」
「まさかキシリトルが思い切った行動に移すとはな……。王の不在に乗して私兵を配置したのか」
「こういう時って近衛兵とかがいなかったのかしら」
「ちょうど手薄だったみたいだな。もし王城が占領されたのならこのまま引き下がるのはまずいな。突破するぞ」
怒声とともに十数人の兵が襲いかかるが、アレクスはそれに一人で立ち向かい一人、二人と瞬時に切り倒してしまった。さすが高ランク冒険者である。
「負けてられないよ!」
ヒロも長剣を抜き応戦するが、一人に対して兵士が二、三人で襲いかかるため次第に不利になっていった。
「【雷光】」
アレクスはそれを見ると、剣の先から雷光をとばしてヒロと戦っている兵士を黒こげにした。
「戦うときは1対1に徹しろ。それに間合いが近いからもっと離れろ」
対して向こうは同時に五人を同時に相手しているのに、アレクスは彼女にアドバイスをした。
そう戦っているうちに兵士が一人二人と倒れていき、人の壁が薄くなり突破できるようになった。
私達はその隙間から強引に王城内に立ち入った。
アレクスの指示に従って城の中を走り、追っ手を振りきった。逃げた先は城の中庭で、色とりどりの花が咲き乱れていた。
私は息を整えた。
「いったい何がどうなっているのよ!」
「おそらくマリアンヌのもっている手紙が国王の手に渡れば身の破滅になるのが分かっているから、やけを起こして国王の不在を利用したのだろう」
「これでどうすればいいんだ?このまま貴族達に占領されてままはダメだよ……」
ヒロは今王女の肩書きを捨てているが、王城は彼女にとって実家に等しい。それが別の貴族に蹂躙されているのが許せないのだろう、自分の唇を噛んでいた。
「近衛騎士団を呼び、首謀者を捕まえる必要がある」
「だったら二手に分けたほうがいいんじゃないかしら?」
「それって戦力を分断するから危なくない?」
「……危険のは確かだ。だからお前達はここで隠れていろ。二人を守りながら戦うよりも、一人で騎士団を呼ぶ方がよほど楽だ」
アレクスは立ち上がり、庭から立ち去っていった。




