33 逃走
跳び蹴りを食らった兵士はたまらず突き飛ばされ、体が他の兵士にぶつかり、まるでドミノ倒しのように兵士の群が崩れた。
兵士たち、特に跳び蹴りを食らわせた兵士は一瞬気がゆるんでいたらしく、私が思っていた以上に綺麗に跳び蹴りが決まった。
「ここから出るわよ!」
私に続いてヒロもその腕力を振り回して兵士達をなぎ倒しながら地下室を脱出する。
「ガイゼルは?!」
振り返っても、ガイゼルの姿はまだ炎の向こうにあるのか見えない。
「分からない!それより早くここから出ないとオレ達も死んじゃうよ!」
ヒロは悲鳴を上げる。実際炎はテーブルに燃え移り、部屋の中が火の海と化している。
梯子を登り、私達は命辛々地下室を脱出できた。
地下室を封じ込めた方が敵が出てこれないかもしれないが、ガイゼルも出てこれなくなるからそのようなことは出来ない。
私もヒロも息を切らして、地上の空気を思い切り吸い込む。
「マリアンヌさん、これからどこに行くの?このままだと敵に追われ続けるよ」
「こうなったら国王に直接直訴してやるのよ。証拠は確保しているし、あの豚を裁いてもらえれば万事解決でしょ」
「ちょっとまって、それってオレが王女の肩書きを使わないと門前払いになるんじゃない?いろいろと問題があるよ。と言うかもっと計画を立ててから実行すればよかったな……」
「見切り発車なのが何が悪いのよ!」
「見切り発車だからこういうことになっているんだよ!ともかく屋敷から脱出するよ!」
こうしている間にも、体勢を立て直した兵士たちが梯子を登り始める音が聞こえる。
私が屋敷の扉を開けて外に出た瞬間、敷地内に設置された警報が鳴り響いた。
早くここから逃げ出さないと屋敷内の兵隊だけでなく、王都の憲兵も押し寄せてくるかもしれない。
私達はとりあえず無我夢中で街の中を走り抜ける。
町中の至る所から兵士の怒声が聞こえる。
「しつこいわね!」
「いったんどこかに隠れた方がいいんじゃない?」
「そうね。でも宿は迷惑が掛かるからダメよね。それにテントもまずいし……」
「それならスラムの中だったらまだマシじゃねぇのか?俺の知り合いに訳ありの奴を一時的に隠してくれるのを知ってるけどどうだ?」
「それは確かに良さそうね……って誰?」
私が今居る裏道には私とヒロしかいないはずなのに、なぜかそれ以外の声が聞こえる。というより聞き覚えのある声と話し方だ。
そして何もないはずの空間から、突然誰かが私の手首を握ったような感触を受けた。
「俺だよ俺。別に詐欺じゃねぇけどな」
「ガイゼル?あんた死んで実体のある幽霊になったわけ?!」
「バカ野郎。俺は死んでなんかねぇよ。ちぃとばかし透明になっているだけだ」
「透明?」
確かに目を凝らしてみると、目の前の風景が一部屈折しているように見える。その屈折のでできた輪郭は確かにガイゼルにそっくりだ。
そしてその透明な輪郭から、突然宝石や金銀が取り出された。
「あんたたちが囲いを突破している間、屋敷の中は大騒ぎだったからな。透明になれる妖精の粉を自分にかけて、逃げ出すついでに金目の物をいくつか持ってきたんだ」
「……それオレ達にもかけてくれなかったの?」
「元々俺一人で潜入するつもりだったからな。三人分用意する必要はないだろ?」
ヒロが大きなため息を付いた。
「ともかく、一時的なほとぼりが冷めるまでそこで滞在しておこうぜ。幸い金はあるからな」
ガイゼルは宝石をジャラジャラと揺すった。
これからの方針が定まっていないため、とりあえずガイゼルの言う避難所に待避することになった。
避難所はスラム街の中心部にあるバラックの中にあった。今にも崩れ落ちてしまいそうな建物の中に入り、地下に案内されるとそこには以外と快適な空間が広がっていた。部屋の中は窓がないことを除くと、前に取った宿とそう変わりはない。
「政治犯が他国に亡命する直前にここでかくまってもらうこともあるらしい。そういう奴らは家の金をありったけ持ち出してそれなりに手持ちが多いから、そのような奴らを商売相手にしているんだよ」
「ふうん。こういうところもあるんだね」
ヒロはベッドの一つに腰かけ足をブラブラとしている。
「それでこれからどうしましょうかしら」
「あんまりもたもたしていると、下手したら貴族の連中がお前達のことをあることないことを町中に吹聴し始めるぞ」
もしそのようなことが起きたらこの街で活動するのがかなり面倒くさくなる。
今後の行動方針について話し合う必要が出てきたようだ。
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