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28 幸せな婚約破棄

 次の日、私が「お忍び」のために着る服をガイゼルが調達してくれた。


「それでオーラムさんよぉ、昨日の飯もそうだがこの服もそっちの受け持ちでいいよな?」

「ええ、まあ。それは仕方ないです。必要経費としておきます」


 ガイゼルがぼろ切れの包みを解くと、その中には王都の労働者が着手いるようなお古のワンピースが出てきた。よく見てみると補修した後だったり、端の部分が少しほつれていたりといかにも貧相に見える。


「予想以上にみすぼらしい服だけど、これでいくらするのかしら」

「銀貨十枚。一万Gぐらいだ」

「それで銀貨十枚?!」


 この世界の物価は酒場のメニューで比較すると1円と1Gがだいたい同じくらいであり、一万円なら量販店でそこそこの物が買える。

 向こうの世界ならば、この服はあまりにもボロすぎて引き取ってもらえないだろう。


「お嬢様には分からないかもしれないが服は基本的に高い。だから普通はお古を兄弟で使い回して、穴があいたら布切れで隠しす、それで兄弟が成長して誰も着れなくなったら古着屋に売っぱらって、また他の奴が古着を買うんだよ」

「ふうん、下町にはそのような習慣があるのね」


 私はこの世界の常識に疎いが、「世間知らずのお嬢様」と思われているためかあまり詮索されないのがありがたい。

 そんなことを話すうちに着替えが終わった。普段の服と比べてゴワゴワしている。


「似合っているかしら?」

「全然にあってねぇな。あとあんた、もう少し砕けた話し方をしたほうがいいと思うぜ。その格好で、その振る舞いは正直見ていて笑えるぜ」


 ガイゼルは何がおかしいのかゲラゲラと笑っている。


「あんたいっさいほめる気がないのね。まあいいわ、ヒロ行きましょう」

「こっちは特に準備することはないかな」


 ヒロは私と比べてあまり目立つ格好をしていないので、普段通りの格好で潜入することにした。

 ただ本格的に屋敷するのは夜になってからだ。昼は周辺で聞き取り調査をして屋敷の見取り図や防犯対策の確認をするつもりである。


 今回屋敷に潜入するのはキシリトル子爵が今回の病気騒ぎの犯人であるという証拠を集めるためである。もし進入防止の装置や魔法が掛かっていて一度引っかかれば騒ぎになるばかりでなく、私達を撃退した上で証拠を隠滅するかもしれない。

 そのため可能な限りそのようなリスクを減らす為に、情報収集をしていきたいところである。


 私達はテントを出て、スラム街を抜け、商業地区で情報収集を始めた。


「と言っても何も手がかりがないわね……」

「そもそもオレもマリアンヌさんもこの街はよく知らないし、ガイゼルも屋敷の場所は知っていても屋敷の構造は知らないしね……」


 屋敷に働いている執事やメイドからいきなり屋敷の構造を尋ねるわけには行かないし、都合よく知っている外部の人がいるとも思えない。

 開始早々、私たちの計画は座礁に乗り上げた。


 と言うわけで現在冒険者ギルドの酒場で作戦会議と言う名目で実質休憩している。昼間の酒場はさすがに酔っぱらいは少なく、ランチタイムを取る人たちでごった返していた。


 コーヒーと無料の水でしばらく粘っていたが、いくら考えてもよい案が生まれない。


「ヒロ、あんた王女なんだから。キシリトールと仲良くしている貴族とか知らないかしら?」

「知らないし、知っていたとしてもどうやって教えてもらうわけ?まさかオレがプリステア王女であることをばらすつもり?」

「……さすがにそれはダメね。もうこうなったら、ばれるのを覚悟で突撃しようかしら」

「下手すると国を敵に回しそうだから、それはやめて」


 私達は深いため息をついた。


「あらマリアンヌ様でありませんか。そんな顔をいたしましてどうしたのですか?」


 そこに都合よく私が知っている貴族が声をかけてきた。


 ディアーナだ。

 彼女は前にあったときと比べて焦燥感が抜けて、からっと笑いかけるようになるほど精神的に回復しているように見えた。


「あらディアーナ、ごきげんよう。なぜあなたがこんなところにいるのかしら?」

「護衛の依頼の報告をまだ終えていなかったのでそのために来ました。あの後王宮で婚約を取り消してもらうための裁判が開かれて見事婚約破棄する事が出来ました。それに加えて暴行を加えたことに対する賠償金を支払うことも決まりましたので、これで家の借金もほとんどが帳消しになりそうです」

「そうそれはよかったわ。それでちょっと聞いてほしいことがあるのだけど……」


 私が知る限り、残るツテはもう彼女しかいない。

 簡潔に事情を話して彼女に協力を頼んでみることにした。


「ええっと、キシリトル子爵の屋敷ですか?実は二、三回訪ねた入ったことはあります」

「ええ?!それは本当かしら?」


 勢い余ってディアーナの腕をつかむ。


「ええ。婚約者の、と言ってももう元ですがあの男の知り合いらしく、彼に連れられて来たことがあります」


 ディアーナの元婚約者、要はサドエスだが彼がキシリトルと仲良くしているらしく、時々彼の家でサロンを開いているとのことだ。


 まだサドエストは正式には結婚しておらず、彼女はそのサロンには参加できなかったが、どうやら国中のお偉い人が集まっているらしい。


「私は別室に待機していましたが、そのとき彼は『大丈夫、何も怖くないから』と声をかけて手を握ってくれました。あのときの彼はとても優しかったのですが……失礼、余計な話ですわね」


 ディアーナの事情をともかく、ディアーナの協力によってキシリトルの屋敷の一部の構造は把握する事ができた。

 とはいえ、部外者を案内できる場所であるということはそこに私達が求める怪しい物はあるとは考えにくい。この情報だけで十分だとはとても言えなかった。

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今流行りの病気も物理的に叩きのめしたい(笑)

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