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27 日本料理?

「どうした?べつにしょうが焼きなんて珍しくねえだろう?もしかしてお嬢様は知ってはいたけど食べるのは初めてか?」


 ガイゼルは驚いている私を見てにやにやと笑っている。


「いえ、こんなところでお目にするとは思いませんでしたわ」


 フォークで薄切りの肉をからめとり、口に運ぶとショウガの味とともに日本で食べるよりも癖の強い豚肉の味がした。

 そしてショウガだけでなく、醤油の香りが口の中に立ちこめた。


 日本で食べたしょうが焼きとほとんど遜色ない味だった。


「オレは初めて食べるけど……結構うまいな!」


 ヒロはおなかを空かせた野球小僧のようにがつがつと食べ始めた。


「あたしは何回か。昔つくってもらった気がします」


 オーラムはバゲットのかけらの上にしょうが焼きを乗せて食べている。パンと合うのだろうか。


「だろ?おい坊主、このしょうが焼きの肉は何か知っているか?」

「肉?豚じゃないのか?」

「惜しい。豚でも作れるが、これはオーク肉のしょうが焼きだ」


 ヒロは手をせわしく動かして食べていたが、ガイゼルの話を聞いてぴたっと手が止まった。


「一応聞いてみるけどオークって木のほう?」

「あれはエルフでも堅すぎて食えねえよ。魔物のオークだ」


 私がこの世界に来て最初に倒した、あの魔物のオークだ。

 ヒロもそのことを思い出したらしく、フォークを床において少し青ざめている。

 ガイゼルはそのヒロの様子を見て、ギャハハと腹を抱えて笑っていた。性格が悪い。


「スラムで魔物の肉を食べるのは別に珍しくはねぇんだぜ?冒険者がオークを定期的に退治して、その肉が安く出回っているから豚肉の代用品になっているんだ」


 オークの肉は安くて豚肉の7割程度の値段で買えるが、脂身が多くて臭みが強い。だからニンニクやショウガなど安い香辛料で臭みを消して、濃い味付けで食べることが多いらしい。


「肉も固まりより細切れの方が安いし、何よりすぐ火が通るから薪代もかからない。オーク肉の細切れをショウガだれにつけ込んで、たれごと炒める。まさしくスラムらしい食べ物だとは思わねえか?」

「オーク……これがあのオーク……」


 この肉がオークの肉であることを食べたあとに知ってしまったせいで、ヒロが若干トラウマを思い出してきている。


「ガイゼル、また殴られたいのかしら?」

「ちょっとまて、別に魔物肉を食べるのは珍しくはねえだろ?ヒトの貴族様のパーティーにはミノタウロスの丸焼きが供されるて聞いたぜ?」


 いくらミノタウロスの見た目が牛に似ているからといって、この世界の住人は悪食すぎではないか。

 さすが異世界、私がいた世界とは異なる食生活もあるらしい。考えれば農耕畜産を始める前は狩猟採集をしていたのだろうから、私の想像だが人々は魔物を狩って食べていたのかもしれない。


 いや食生活の違いも気になるが、それよりももっと気になることもある。


 もしかしたら私以外にもこの世界に来ている人がいるのではないか?ということである。


 日本にあった食べ物に酷似した物がこちらの世界にあると言う根拠しかないが、もし私のように日本からこの世界に来た人はいてもあり得なくはない。その人が日本の文化や技術をこの世界に伝えている……?


 私がこの世界に来た経緯も理由も分からないので、とりあえずゲームの悪役令嬢のまねごとを続けている。

 でも、もし私と同じように向こう側の世界から来た人がいるなら、会ってみたい。


「……マリアンヌさん?」


 少し考えて込んでしまったようで、手を止めていた私をヒロが気にかけて声をかけたらしい。


「ううん、別になんでもないわ」


 たかが料理一つで考えすぎたかもしれない。臭みの強い肉の臭いを消すためにショウガを使うのだから、この料理は現地の人が考案しただけなのかもしれないし。

 すこしそのことについて調べてみる必要があるかもしれない。

 今後するべき課題が見つかったが、とりあえず今するべきことをしたほうがいいだろう。


「それで明日はどうするつもりだ?もたもたしていると患者の体が間に合わんかもしれねえぞ?」


 ガイゼルは安物のワインをすでに飲み始めていたようで、顔が少し赤い。


「とりあえずとっちめるにしても、証拠を集めるにしても屋敷に潜入する必要があるわね」

「だけどその格好目立つぞ。さすがに着替えた方がいいんじゃねぇの」


 それは理解しているが、今着ている服はマリアンヌがゲームで来ていた服その物であり、彼女のトレードマークでもある。それに素性を隠すためとはいえ、みすぼらしい服を着るのは抵抗感がある。


「あら、高貴なる私に平民の服を着せるつもりかしら?」

「別に貴族がお忍びで着る分には普通じゃねぇ?まああんたは何着ても無駄に目立ちそうだけどな」


 お忍び、つまり貴族が身分を隠して平民になりきる行為。自分の身分に関係なく振る舞える行為でもある。


「ああ、確かに王族や貴族がお忍びで街に来ることはあるみたいだね」


 ヒロも頷いて同意している。そもそも彼女はお忍びの王女だった。


「お忍びとして屋敷に潜入するね……確かにそれならあり得なくないわね。それだったらしかたないわ」

「坊主、この女なんかめんどくさくねえ?」

「それには同意だけど。あとオレはこう見えても女の子だよ」

「まじかよ。やっぱ人間の性別は分かりにくいな」


 このあと夜が更けるまで、潜入するために必要な準備のための相談を続けた。

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