20 指名依頼
「ちょっと、どうしたのマリアンヌさん?」
「どうしたもこうもないわよ!」
武器屋で適当に武器を見繕ったあと、私達はギルドの酒場にいた。
私の友人を直接侮辱されたのだ。
さすがにあの噂は看過できる類の噂ではない。
あのときヒロを侮辱した噂をした彼らを締め上げようとしたが、そもそも噂の発端が彼らではないので意味がない。王女の行方不明と王都ではやっている病の二つの度重なる不幸を単に結びつけただけかもしらない。
その噂は私が彼女に話した。他人の口から聞かされるよりも私の口から先に話した方がいいと思ったからだ。
しかし当の本人はケロッとしていた。
「まあオレが他の王族とは違うとは前から言われていたし、そもそも今のオレはプリステア王女ではなくて、ただの冒険者のヒロだから。マリアンヌさんもそこまで怒らないで」
「いいえ、こうなったら噂の元凶である病を叩き潰してしまいましょう。噂よりもそっちの方がまだ実体があるからやりようはあるわよ」
「病気も実体はないと思うよ……」
ヒロがつっこむが、私は止まらない。拳を固く握って、私は椅子から勢いよく立ち上がった。
私は向こうの世界では別に医学には詳しくはない。でもこの世界の人たちと比べて医療の知識はあるだろうし、病気の原因が分かればそれを予防させるか、治療させるなりすればなんとなると私は思った。
「やるわよヒロ!」
「別にいいのに、どうしてそこまで……」
「ん〜。マリアンヌ・スカーレットブラットは気に入らないことは叩き潰さないと気が済まない性格なのよ」
「あ、そう……」
作中のマリアンヌが、彼女の婚約者である王子の寵愛を受けた主人公をいじめているからそこまで間違っていないだろう。
私は自分の怒りの感情をマリアンヌのキャラの解釈になぞらえた。
一方ヒロはもう勝手にしてという感じのあきれた表情をした。
そのようにして私が義憤に燃えがっていると、受付の人が私のところにきた。初めて王都のギルドに来たときに担当していたあの受付嬢だ。
「あのーすみません。ちょっとお話いいですか?」
「なによ。ちょうどいいところなのに」
今ちょうど流行病を倒そうと奮起たのに水を差されたような気がして、私はむすっと機嫌が悪くなった。
受付嬢をにらむ私と受付嬢との間にヒロが割って入った。
「それでオレ達になにか用ですか?」
「はい。それでですね、あなたたちを指名した依頼があるのですよ」
「ちょっとまって、まだマリアンヌさんの冒険者ランクは5だよね。指名の依頼ってこのランクからでもありえるんだ」
ヒロの問いに受付嬢は横に首を振った。
「いえ、かなり珍しいと思いますよ。ランク11以上の冒険者は在籍者が少ないため大半が指名の依頼ですが、指名の依頼が入るのは普通なら早くてランク7、8くらいです。指名してきた人がその冒険者の知り合いの場合を除いて、ランク5で指名を受けるのはほとんどないですね」
「そう。私達も結構有名人になったのかもね」
「有名なのは悪名の方じゃないかなぁ……」
悪名とは大貴族のサドエス家の息子をはり倒した事を指しているらしい。凶悪な魔物を飼い慣らして、婚約者のディアーナを襲わせたという正当な理由があるとはいえ、貴族をボコボコにしたのはあまり良くないことのだろう。
とはいえ今その件は保留になっているので、これとこの指名はおそらく関係ないだろう。
「それで、どんな依頼かしら」
「依頼人は……、医術師のオーラムって書かれていますね」
この世界で初めて聞いた名前である。
「初めて聞く名前ね。少なくとも知り合いではないわよ」
「オレも聞き覚えはないな」
ヒロも頷いた。
「隣国の王族の専属医師と書かれていますね。一応ギルドでも調べはついているのでその人本人であることは確認しております。が……」
「が?」
途中で受付嬢が言葉を濁した。
「いえどうも見た目とかが怪しいすぎまして……。いえ冒険者の方にもそのような方はたまにいますが、身分が保障されている依頼人の中ではここまで怪しい人はまれですね」
「依頼人については分かったから、依頼の内容を教えてちょうだい」
「ええ、はい。『カピタルで流行している病気の治療、原因究明の手伝いをしてもらいたい』とのことです」
まさに渡りに船の話だった。
「手伝って欲しい?オレたちはただの冒険者だから専門知識とかないけど?それでわざわざ指名をかける?」
「でもせっかくだし話だけでも聞いてみましょう。ちょうどいいじゃないの。このマリアンヌ・スカーレットブラットが噂もろとも病気すらも叩きのめしてやりましょう!」
「これオレもつきあうのよね……」
「当然よ。早速行きましょう」
私はヒロの手を引いてギルドから出ようとした。
「マリアンヌさん!せめて依頼人の居場所を聞いてからにして!」
そういえばそうだった。
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