18 耳付きフード
物思いからさめて私は買い物の続きをした。
ヒロの顔を隠すためには何が必要だろうか。フードの付いた服とか、もしかしたら仮面とかいいかもしれない。確かゲームにも参加者が仮面を付けた状態で集う仮面舞踏会のシーンがあったし、もしかしたらこの世界にも仮面が売っている可能性がある。
露店を巡り歩いていると仮面を売っている店が案の定見つけられた。
日本だと祭りのお店で売っているお面は顔全体を覆っているタイプがほとんどだが、こちらの世界の仮面は目の周辺だけをを覆う物や、顔の右だけを覆うタイプの物など様々ある。
売り手の初老の人間の男性に話しかける。
「いらっしゃい」
「ずいぶんといろいろな種類があるのね」
「おしゃれで付けている人もいるが、冒険者だと顔の傷を隠す為に買う奴もいるのさ。顔の半分が酸でやられて爛れてしまったときは、半分だけのやつを求めるのさ」
ふうん、と私は相づちを打って私は何を買うか決め始める。
ついでに自分の物も買おうっと。
蝶型の仮面、白くのっぺりとした形の仮面、ライオンみたいなお面……。
ライオンのお面はちょっとかわいいから一つ買おう。マリアンヌには蝶型の仮面が似合うかしら。
「そういえば、最近ここで流行病が流行っているらしいけど、こういう仮面で隠す人もいるのかしら」
ふと先ほどの話が気になって話題を店主に振ってみた。
「ああ、いないわけではないな。固まった顔を人に見られると見苦しいからという理由で買うやつはいるな」
顔に深いしわが刻まれた男性は深いため息を付いた。
「ここ最近は悪いことが続いているな。国の王女様がお亡くなりになって、都では流行病が流行って……、地方は魔物の動きが活発化しているらしいしろくな事が起こっていない」
「あら、ヒ……王女様は行方不明だと新聞には書いてありましたわよ」
「襲われたのは災害級の魔物らしいし、生きているはずもなかろう。それに王女が本当に行方不明なら国が総出で探し出すだろうよ」
いわれてみると確かにそうだ。
ヒロは女の子とは思えないほど髪をばっさり切っているし、言葉遣いも女の子らしいから一見して王女だとは分からない。
それでもこの世界で王女を捜している兵士の姿は見た覚えがないし、あまり話題に上がらないためかここ最近で知ったのだ。
「それでも生きている可能性もあるんじゃないかしら?」
「かもしれんがなあ……王様もその王女様の生死を気にしていないんじゃないかもしれんな」
「ちょって、王女様って王様の娘なんでしょ。自分の娘が生きているかどうかなんて気にならないわけがないんじゃない」
「これは噂だが……王女は王様の娘じゃないとかもしれんという噂もある。髪の色も父親含めた王族は皆金髪だが、その王女様は茶髪だというしな」
「だからといって……」
ヒロがそんなことを聞いたら怒るかもしれない。それどころかひどく落ち込んでしまうだろう。
「すまんな、しけた話をしてしまったな。それでこの2つを買うのか?」
「ああ、ええお願いしますわ」
話を戻されてそのまま二つの仮面を買うことにした。
「なんというか、この国も大変なのね」
ぽろっと口から言葉が漏れる。
重い話を聞き続けたせいで、買い物をしただけなのに何となく疲れてしまった。
もう今日は宿に帰ろうかな。帰る途中でフード付きのマントを買って私は宿に戻った。
「ただいま帰りましたわよ」
「おかえりー。意外と早かったね」
「とりあえずこれと、これもどうかしら」
私はフード付きマントとライオンの仮面をヒロに渡した。
「うーんこれ?これはオレには合わないかなぁ。というかこれは逆に目立ちそうなんだけど」
「そう?私はかわいいと思うけど」
ヒロは仮面を見て渋い顔をしていた。
私が買った仮面はリアルなライオンみたいな厳つい感じではなく、むしろ日本風にデフォルメされた感じのかわいらしいデザインをしている。
「ってこのフードも耳みたいなのが付いているよ!」
「これとこのライオンマスクを合わせれば、誰もあなたのことを王女だとは思わないわよ」
「そりゃあそうだろうけど……」
私は猫耳マントと仮面をヒロに被せる。
「ほらとっても可愛らしいわよ!」
「オレは可愛いよりもかっこいい方が好きなんだけどなぁ……」
ヒロは普段の服は半袖短パンを着ているせいで、一見すると少年見えるからこのようなバリエーションがあってもいいと思う。
彼女は部屋に設置されていた大鏡の前でくるりと体を一回転させてみた。
「これが可愛いの?」
「そうよ」
「ふうん。それで外で何か変わったことはなかった?」
私は王都で流行っている病気のことを話した。
「オレがいない間にそんな物が流行っていたんだね」
「そうね。エルフの薬師から薬を買ったから一応持っておきなさい」
「はーい」
仮面売りの男が話していた、ヒロに関する話題は伏せた。




