17 流行病
「これでオレの話は終わり」
「それでこれからどうするつもりなの」
「まだお姫様に戻るつもりはないよ。王都からはすぐ出るつもりできていたけど、しばらく滞在しないといけないからなあ。万が一顔が割れるとまずいからしばらく宿の部屋にいることにするよ」
でも王城には住んでいても、王都は初めてだから顔を隠せれば観光もしてみたいな、ヒロはつぶやいた。
「そのくらいなら買ってあげるわよ。まあ時間はあるし、明日買い物をしましょう」
私はベッドの中に倒れる。高級ホテルのベッドみたいにふかふかでとても心地がよい。
昨日から激戦が続き、ほとんど寝る暇もなかった。だから目をつむるとすぐに睡魔が襲ってきた。そのまま吸い込まれるように私は眠った。
次の日、私は宿を一人出て買い物に出かけた。
例のアーケードのような大通りを歩いて物を物色する。
「いらっしゃい、防具はいかが?盗賊用のナイフもあるよ!」
「この近くにある迷宮の地図はいるかい?」
朝早いためか朝市が開催されており、大通りの地面にむしろを敷いてそこで露天を商う商人達が商品を並べてところ狭しに座っている。
そこでちょっと変わった物を見つけた。
エルフの青年が瓶に液体を詰めた物を並べていた。
やはりファンタジーの鉄板の種族で、いるにはいると思ったが私はここにきて初めて見た。
「そこのお嬢さん、ポーションはいかがですか?」
「あら私かしら?ゲームだとHPを回復するアイテムよね」
「そのエイチピーは知りませんが、一口飲めばたちまち傷を癒す液体のことをいうのですよ」
用はゲームのポーションと変わりはない。
冒険者御用達のアイテムのためか、ギルドでも似たような物が市販されていたのを思い出した。
「でもポーションならいつでも買えるし、遠慮しておくわ」
「ところが最近そういうわけにもいかなくなったのですよ」
エルフは座っていた腰を浮かして主張する。こうしていみるとエルフはゲームやアニメのエルフのイメージのように美形で老いを感じさせない容姿をしている。
「お嬢さんは最近ここにきたのですか?」
「ええそうですが」
「だったらお教えしましょう。ここ数週間王都では流行病が流行りましてね。なんでも体の一部がまるで木のように硬質化する病気なんですって」
日本だとあまり聞いたことのない病気だ。ましては日本と違って衛生環境も医療技術もないし、かかったら大変なことになってしまうかもしれない。
「それは恐ろしいわね」
「そして!これが大事なことなんですが、その病気は治療法がまだ見つかっていないのですよ!病気にかかれば手足の皮膚が硬くなり、やがて死に至る。それまで為すすべもなく、末期には身動きすらとれない。回復魔法ですら一時しのぎにしかならないという有様です」
エルフは大仰な仕草で饒舌に語る。
「しかし!我が故郷エルフランドの秘薬、これがあれば完全ではないですがある程度は病気の進行が止められるのです。冒険者ギルドも躍起となってこの秘薬の再現をしているため、薬草の値段が上がりここ最近ポーションの入手も難しくなっています」
懐から瓶を取り出して地面にことりと置く。
「いかがですか。このエルフの秘薬。病気にかかってもこれさえあれば症状を抑えられます。いまなら一本三万Gのところ、二本で特別5万Gにしてあげますよ!」
語り口は正直胡散臭い。
とはいえ、彼の語り口は嘘を言っているようには見えないし、エルフの秘薬と言われるとすごく効きそうな気がする。
というよりエルフランドってなんだ。この世界のネーミングは直球につけることしかないのか。
「私は薬師です。何人もの若い女性がこの秘薬を買うお金がなく、手や足が固くなり美しさを失ってしまったのを見ています。ですのであなたには!そうなって欲しくないのです!」
私の手を握り、彼は熱烈に訴えかける。その熱量に私は押されてしまった。
「ええっと……だったら二本ください」
「まいどあり!」
つい買ってしまった。一応私とヒロの分で二本買っておこう。
宿代はいつでも支払えるとはいえ、宿代を除くと懐が少し寂しくなってしまった。
こういうことになるのなら、ギガントファングの素材でも持ち帰れば良かった。
そういえばランク10相当の魔物を倒したので、冒険者ランクも上がったりしないかと期待したが、例のレンズ男に報告した際
『倒したという証拠がないですし、何より他にも現場には冒険者が何人もいました。現場に職員を派遣して現場検証をするか、その場にいた他の冒険者から証言をとる必要があります』
と答えた。さらに
『我々冒険者ギルドでは、依頼で討伐する予定の魔物を討伐しても評価は上がりにくいです。可能な限り必要なだけの魔物を討伐し、無事に帰還するのが冒険者の使命です。ランク上げのために無理に強い魔物を相手にして死なれたら元も子もありません。ですのでマリアンヌ様の昇格に多少色が付くか、せいぜいランクが1上がるくらいだと思われます』
ともいわれてしまった。
あんな強い魔物を倒してすごい!君はランク10に上がるべきだ!都下なると思っていたが期待はずれだ。
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