16 独白
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私達は部屋を後にした。
「もう今日は休まない?」
ヒロはギルドから出るなりそう提案した。
「それでもいいけど、まだ日も高いし私は観光をもしてみたいわね」
「オレは別にいいかな。できるなら王都から出るまであまり宿から出たくはないな。観光するなら一人でも大丈夫だよね」
「……ヒロ?」
先ほどからヒロの様子がおかしい。
ヒロがもしかしたら高貴な出身かもしれないという疑惑、それに先ほどの話を加えると何となく想像がつくが、私は詮索するのをためらった。
「やっぱりおかしいよね?」
ヒロは自分の様子を自覚しているのか、こういって少し笑った。
「ここだと他の耳があるから、宿の中で話すよ」
ヒロは私の一、二歩先を歩いた。彼女の小さな背中を私は見つめていた。
宿はギルドから近いところを選んだ。
宿の受付に話しかけ、宿を確保する事にする。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
「はい、とりあえず一週間ほどでお願いしますわ。名義はマリアンヌで。できるだけ一番の宿をちょうだい」
「分かりました。うちの宿では冒険者達の武器を預かるサービスもありますがいかがしますか?」
冒険者御用達の宿のためかこのようなサービスもあるらしい。
「いいえそこまでかさばるものではないので。支払いは前払いかしら?」
「冒険者は収入が不安定なので支払いはいつでも構わないですよ」
「それと……。新聞って置いてあったりするかしら?」
「宿泊者なら無料で貸し出ししています。購入なら一部銀貨三枚になります」
私はレンズが言っていた襲撃事件を知るために、一ヶ月前の新聞を借りた。日本の新聞と違い週刊らしい。
借りた宿の内装は非常に豪華だった。ゲームの中の主人公が生活していた寮の部屋の方がよほど質素に思える。
「想像以上にきれいな部屋ね」
「冒険者は貴族もそれなりにいるからね。貴族を馬小屋みたいなところに泊めるのは失礼だし」
ダブルベッドの片方に腰掛け、ヒロは足をぶらぶらとさせる。
「オレも最初は馬小屋や野宿ではとうてい寝れるものじゃなかったな。でももう慣れてきたかな」
「ヒロ、あなたは」
彼女はベッドから降り、すくっと立つ。
「オレの、いや私の名前はプリステア・フォン・デーニッツというんだ。一応この国のお姫様、ということになるのかな」
襲撃事件で行方不明になった第二王女の名前だ。
私は先ほど借りた新聞を広げ、該当する記事を読み上げる。
一ヶ月ほど前、彼女が乗っていた馬車が突然巨大なドラゴンに襲われた。馬車の中には御者と乳母、そして彼女が乗っており、馬車の前後には近衛兵数人が護衛をしていた。
襲撃された場所は彼女が住んでいた王城のある王都と公爵家が管理するバスタード領の間の山中で起きた。
護衛していた近衛兵はドラゴンに瞬殺され、王女が乗っていた馬車は炎上。中には炭化して人の原型が残ってない焼死体が残っていて、その中には彼女が身につけていたティアラが残されていたとのことだ。
「これがあなた、ということでいいのかしら」
「そう。そのとき偶然馬車から離れていて助かったんだ」
「……お花を摘みにでも行ったのかしら?」
「……まあそういうことにしておいて」
ヒロはもじもじして言った。
「それでドラゴンの最初の攻撃からは免れたけど、ドラゴンはまだ自分がいるのをみて襲いかかってきたんだ」
すごく大きくてまるで伝説のドラゴンみたいだったと、彼女は思い返す。
「それでね。もう死ぬんだ、と思ったそのとき助けてくれた人がいたんだ。まるでマリアンヌさんみたいに、ね」
「新聞だと推定冒険者ランク15の、国家存亡に関わるレベルの魔物だ都推測されているわね。それに対抗できるとなるとさぞ名前のしれた実力者でしょうね」
「でもその人は名前を名乗らなかったし、冒険者ギルドにもそのような人は思い当たらないって言われたんだよ」
向こうの世界で例えるなら、ラノベの最強系主人公かつ「実力があるけど目立ちたくないから名乗らない」タイプみたいな人間である。
「私ならそんな出来事に出くわしたら、名乗らないどころか王女を助けた功績を大々的に強調して、貴族の位をよこせと要求するわよ」
「マリアンヌさんらしいや」
彼女は私の言葉に笑った。
「でもオレにとっては男のそのような格好がとてもかっこいいと思ったんだ。彼はすぐに立ち去ってしまったけど、今でもすごく憧れている。だから自分も冒険者になったんだ」
「憧れたその男みたいになりたいから、冒険者になった?」
「そう。まあそれ以外にもいろいろと理由があったんだけどね。それがお姫様をやめて冒険者になった第一の理由かな」
「冒険者って偽名を名乗れるみたいだからヒロって名前にしたんだよ。英雄をもじってね。それでマリアンヌさんと出会った」
ヒロは話を続ける。
「マリアンヌさんは自分が悪役とかなんか変なこと言っているけど、悪い人じゃないのは分かっているし、本当に強いからあの男に似ている気がするんだよね。オレが付いているのはこういう理由かもしれないね」
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