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「ようこそ!冒険者ギルドカピタル支部へ!冒険者の登録ですか?それとも依頼の受注ですか?」
受付の人は若いお姉さんだった。ヴィレッジの方の受付はおばちゃんだったが、若い女性の受付もいるらしい。
「ランク5のマリアンヌ・スカーレットブラットですわ。ヴィレッジからの護衛依頼を満了したため報告に上がりましたの」
「はい!お疲れさまでした!」
受付は笑顔で報告書を受けとった。
「それで何か問題ごとは起きましたか?特に今回の依頼には飛び級でありながら初めて依頼を受注した冒険者がいましたので……」
ディアーナのことを言っているらしい。
私はヒロに目を向け、言葉にはしないが意見を聞いてみた。
「ええっと……一応話した方がいいと思うよ」
ヒロは困惑したような表情を見せたが、そう返答した。これに関しては私も同意見である。
「では別室に移って話しますわね」
「な、何かトラブルがあったのですか……?」
まさか本当にトラブルがあったとは思わなかったのだろう。受付は一気に緊張した顔つきになった。
私とヒロはともかく、ディアーナは本当の貴族なので何かトラブルが起きると冒険者ギルドに悪影響を及ぼすからかもしれない。
私達は受付の人に案内されて応接室のソファに座らされた。
しばらくすると、眼鏡をかけた四十がらみの男性が現れた。
「冒険者ギルドカピタル支部の幹部の、レンズと申します。それで何かトラブルが起きたとお聞きしましたが、詳しく教えてもらえませんか?」
私は盗賊の襲撃からサドエスを拘束したことまでを、私が知っている限り話した。私からすれば非があるのは明らかにサドエスの方なので、隠すつもりはいっさいなかった。
話を聞いたレンズはゆっくりと頷いた。
「なるほど、ディアーナ・タイショー様は暴力を振るう婚約者から逃げるために急遽冒険者になったということですか」
「そのようなことは珍しくないのですか?」
「ええ。我々も正確には把握していませんが、ご自身の身分を隠すためにあえて冒険者として活動する人々がいるのはこちらも確認しております。それ以外にも犯罪者が身分のロンダリングのために冒険者になることもあるみたいですね」
「それって……まずくないの?」
「冒険者ギルドは来る者は拒まず、むやみに詮索せず、依頼を確実に達成できさえすればそれで構わないのがモットーです。それで犯罪を犯したなら相応の対処は当然しますが、犯罪者だからといって冒険者になるのを断ることはありません」
ここのギルドには魔物の冒険者らしき人もいたが、このモットーがあるからだろう。
「話を本題に戻しますが、今回のトラブルは本当ならかなり大きな問題になります。何せ大貴族の息子を殴り倒し、袋詰めにしたとおっしゃっていましたので……」
「まああっちが明らかに悪いし、王城にサドエスを連れ込んだからそっちで解決してもらえると思うよ」
「こちらとしてもそうでありたいですね。そのためこの事件の決着が付くまで王都に待機してもらいたいのですよ。これは強制ではありませんが、最悪王城から登城を要求される場合がありますので」
「仕方がありませんわね
どうやらしばらくここで活動することになるらしい。
まあ急ぎの用事がないので特に問題はないが。
レンズは鞄の中から地図を取り出して、問題の村に赤いインクでバッテンをつけた。
私はその地図の中に一際強調された印がかかれたのを発見した。少し前までいたヴィレッジにほど近いところだった。
「これで事情徴収は以上となります。ご協力感謝します」
レンズは立ち去ろうとしたが、私は気になって彼に訪ねた。
「ちょっとお聞きしたいのですけど、その大きな印はなにを示しているのでしょうか」
「ああ、これですか」
男は閉じかけた地図を開き、その印を指さした。
「これは先月この国の第二王女プリステア・フォン・デーニッツ殿下が巨大なドラゴンに襲われ、行方不明になった場所です。捜索していますが現在でも彼女の行方はしれていません」
「そう、それはお気の毒様。でもヴィレッジでは聞かなかった話ですわね」
「あそこは現場から比較的近いといっても山脈を挟みますし、田舎町なので情報に疎いからかもしれませんね」
「そうですか。突然お聞きしてすまないわ。ではごきごんよう。もう要はないから行きましょうヒロ」
「う、うん」
彼女に声をかけたが、彼女はどこか上の空といった感じで一瞬反応が遅れた。