5話-メイリオの短剣~銀の☆3杖~
「オフロードバギーだ」
「ばぎー」
「免許はないが、公道じゃないのでセーフだと思う」
「免許」
インベントリから引っ張り出し、ボフンと出るわ我が相棒。
勝手知ったるはライドパートナー、いわゆる搭乗型パートナーである。
「……見たことないケド、アンタの故郷じゃこういうのが普通なノ?」
「道交法が整備されるくらいだからね」
「よくわからないケド、いっぱいいるのはわかったヨ」
シートベルトは締めておけよ、と言うがつたわらない、やはり車はこの世界じゃ一般的じゃないらしい。
ライドパートナーというものは、いわゆるパートナーキャラ……同時に一体まで連れて歩ける戦闘補助をしてくれるパートナーNPCのうち、移動速度の向上やダメージを肩代わりしてくれる搭乗型のパートナーだ。通常のパートナーキャラが個性豊富な容姿や性格をしており、そして戦闘において共に戦ったり生産補助をしてくれるのに対し、ライドパートナーは基本的に無機物な乗り物が多い。
このカーキ色迷彩をしたオフロードバギーも例に漏れず、しかしファンタジック世界におけるギャップが好みでよく採用していたものだ。エンジン音が心地よいというほど車趣味はないが、それでもスライムやローパーが跋扈する領域をバギーカーで走り回るのはなかなかに楽しかった。ついでをいうとこのオフロードバギー、速度はまぁまぁなうえ地形効果を受けるが耐久性が非常に高く、高レベルエリアを強行突破する際にも役に立つ。
そういえばメインパートナー、倉庫に預けていたんだったな……。
こっちでは元気に喋ったりするんだろうか、ちょっと惜しいことをした。
「フードちゃんも頼むな、しっかり捕まっててくれよ」
「アッ…は、はい…よろしくおねがします……」
後部座席に座るのはフードのニッサちゃんだ、あれからわかったことだがギルドメンバーに名前を呼ばれても素直に答えるのに、まだよそ者だからか自分が名前を呼ぶと縮こまって声が小さくなってしまうようだ、難儀な。
なので原則名前を避けてフードちゃんと呼んでいる。こう呼ぶと最低限は答えてくれるのでなんとか意思疎通がとれるのだが、怖いお兄さんと思われてそうで実にかなしい、なきそう、ないた。
「効果測定で居眠りをして落ちた時以来だな……車に触るのは、滾るぜ…」
「なんだっテ?」
「素人なのでご迷惑かけます」
「え?なんだっ……ちょっ、はやい!加速はやい!コワイ!やめ、あぁ―――――」
エンジン音を響かせ土煙を巻き上げ。
一両もいないだだっ広い道を、オフロードバギーが駆けていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
到着した隣町は、外壁も低く特別高い建物も遠目に見えない、強いていうなら中央部に真四角の会館のようなものがちらっと上から見える、そんな個性という個性のない街だった。ただやはり街は街、番兵のやる気は満ち満ちであり、オフロードバギーのけたたましい音が聞こえると詰所からわらわら番兵が出てくるとともにあっというまに道を塞ぎに来る。
今自分たちがこうして街の中を歩けているのはだが、オフロードバギーから店主ちゃん達が降りたときの『げえっ!お前か!』といった姿を前番兵が奇妙な納得という一体感を得たことと、店主ちゃん自身が言いくるめたところが大きい。なるほど自分も突然UFOが降りてきたら家から飛び出すし。
そんなこんなで昨日いた貧民街と比べるとなかなか”うるおい”のある街並みを過ぎ去りながら、元の街がどんな規模だったかはそういえばまだ見てないなって思ったものだからふと店主ちゃんに聞いてみた。
「ジュエゴの街はスピエールに比べたらかなり小さいケド、いいとこヨ。王都との間っ子にあるからいろんな商品も流れてくるシ、ウチはほかのメンバーに比べるとよっぽど出入りしてるかなァー。ウチはか弱いから、誰かと一緒じゃないと来れないけどネ」
「スピエールって言うのかあの街、ところでいつもニッサと?」
「んやー、ニッサはケイと狩りに行ったりがいつもで、あんま来たがらないねェ。今日はケイが一人で街に繰り出してるのと、他のみんなも依頼と用事でちょっといないからニッサに来てもらってるワケ」
「リリアナがいた気がするが」
「リリーは……動く時しか動かないかラ……」
「ええ……」
いざというときだけ動く伝家の宝刀みたいな感じなのだろうか。
いいな自分もそういう暮らしがしたい、お仕事したくないでござる。
でもガチャるお金はほしい、しまった今日はアプデ日…うう……。
しかしそんなふうに悲痛な空気を漂わせはじめたからだろうか、くいっと袖を引く感触がして足を止めた。
「ァッ…あの、だいじょうぶ、ですか……?」
「いや大丈夫だよ、元気いっぱいハツラツ、ただちょっとやり残したことを思い出して」
「わ、わたしヒールくらいなら使える、ので……気分悪くなったら……言ってください」
そう言うニッサの顔はなんというか、フードに顔をすっぽり隠していた先程とは打って変わってしっかりと目線を合わせてくれている。なるほど背丈の通り顔つきも幼く、翠色の丸っこい目は悲しげだ。
なにかに触れただろうか、しかしばっさりと聞くのもなんとなく申し訳ない気がしたのでそこには手を付けることを躊躇った。なるほどこの娘いい子だな、と思いつつ、そしたらはっと目線を合わせっぱなしだったのに気付いたのだろう、わわっとあわててフードにまた顔を隠してしまった。
「フードちゃんはいい子だな、あとで飴ちゃんをやろう」
「……ありがとございます…」
パートナーに与えると成長速度が30日くらい2倍になるいわくつきのアメちゃんしかもってないが、まあ大丈夫だろう。ちなみにオフロードバギーに与えても使ってくれる、あのときはアイテム的な要素だったから誰も気に留めなかったがしかし、知り合いとの話の終わりに聞いた『おふとんにおやつあげてくる』の言葉はなかなか笑えるなと今になって思った。
ちなみにライドパートナーの最高峰はお布団と乳母車だ、マジで。
そうしてニッサの背丈がちょうどいいので撫でようとして避けられてを繰り返していたうちにだろうか、街の中央にある会館のような場所にたどり着いた。
看板はやはりやっぱり読める、”ジュエゴ冒険者ギルド会館”とな。
ほほう、これが昨日の話に出てきた。
「さーて、ここが敵地のド真ん中、荒くれろくでなしの巣窟!ひよっ子オルカの準備はいいかヨー?」
「取引をするのに商業ギルドじゃなく、冒険者ギルドを通すのか」
「商業ギルドの連中なんかに売りさばくくらいなラ、ぶち壊して焼いたほうがマシだヨ。あいつらの悪どさってのは、ウチがよーーーく知ってるし、その点実益とか名誉のためなら命すら惜しまない……そんな”冒険者”ってヤツらのが、ウチは信用できるってだけ」
なるほどなあ、個人的な感情も見え隠れするけど店主ちゃんの言うことも一理ある。
そして何か言い返そうとしたが気の利いた言葉が見つからなかったのでそのままついていき、ニッサと共に冒険者ギルドの門をくぐるのだ。
ワァオ!と言う言葉がついつい漏れてしまうだろう、実際にはヒエーッって感じだったが、実際内部のインパクトというか”予想通りさ”が見事すぎてついつい声をあげずにはいられないのだ。冒険者ギルドと言えば依頼の山ほど貼り付けられたボード、コテコテの依頼受付、そして屈強で精強な冒険者たちが軒を連ねている、そんなものを想像するのがきっと多くだ。
「ヒエーッ……想像通りの場所じゃん……やっぱアレ?バーでミルク頼むと笑われるの?」
「ウチはお酒飲めないから知らないケド、〆のホットミルクなら笑われないんじゃなイ?」
まじかよ今度酒場に行ってみよう、ちょっと離れたとこにいる誰かにシャーッってグラスをスライドさせて奢るんだ。
そんなしょうもないことを考えているとはつゆ知らず、店主ちゃんはずんずんと歩いていく。弓を背負ったニッサがフードを深かぶりして怯え気味にそのあとをついていくと、あとに一人残されるのは自分だ。やばい、感動となんか色々な感情が入り混じりちょっとだけ歩くのをためらう。
そんなやっぱりしょうもない姿を見せていたからだろうか、近くのテーブルから自分より頭ふたつくらい大きなサイズの大男が近寄ってきて、『おい』とひとこと声をかけてきた――― なるほど、これが新人潰し、冒険者の登竜門か。あいにくと自分は付与術師、生産技能はカンストしてるが戦闘力はゼロ、ゆるしてくださいしんでしまいます、だが俺には伝家の宝刀が―――
「なあ、兄ちゃん」
「ヒエーッ……すいません持ち合わせが」
「行っちまうぞ、しっかり守ってやれよ、男だろ」
「アッ…ハイ……」
きゅんときた。
自分、冒険者ギルド好きになるわ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
店主ちゃんが受付を通して会館の上階に進み、ついていかされた部屋は見事に客間、といった様式の部屋だった。
なるほど下はアレでも上は綺麗なんだなと思いつつ、どういう理由でいいものなのか理解できない調度品を眺めながら店主ちゃんが長椅子の中央に陣取り自分はその隣に座る。ニッサは護衛という立場もあってかたちんぼだ、かわいそうだからあとで”疲労軽減の”あたりの付与をした指輪とかあげよう。
あ、あの飾ってあるお皿スロットがみっつもある、いいお皿なんだろうな。
「ナチュラルに隣に座ってくるとは思わなかったヨ」
「体力ないもので……」
文明の利器がないこの世界において体力はものを言うのだろうが、あいにくとぬくぬく育った自分にそれほど優れた体力はない。
そうしてかつて古き時代を生きた人々はたくましかったのだなあ、と思いを馳せていると、バタリ、と客間の扉が開かれ大柄な全身鎧の男が入ってくる。こう、角つきのバイソンヘルムと言えばいいのだろうか、口元以外を見事に鎧に覆っており、交渉の格好とは思えないほどの威圧感は貧弱な民間人の自分はただただヒエーッ……とつぶやくのみであった。
「マスター、相変わらずギルドじゃ脱がないんだネ」
「いつものことだともチャーニー嬢、いついかなる時にどんなことがあるかもわからぬゆえ、この街の戦士の長たる者が常に万全の臨戦態勢であることは皆に安心を与えるのだ。私がここにいる、ゆえに安心して生活を享受してもいいと」
「でもでもほんとは趣味なんでショ?」
「まあ……せっかく買った鎧とか見てほしいし……」
手慣れた感じの会話なあたり、交流が深いのだろう。
マスター、と呼ばれた大男はどっしりと長椅子に座る。けっこうな重量がありそうだが耐えるあたりこの椅子もいいものなのだろう、スロット数が気になるがさすがにオブジェクトなのでなさそうな気がする。
マスターの後ろに秘書なのだろう、眼鏡の茶髪ショートさんが控えると、店主ちゃんがテーブルの上にやや長めの小箱を置き、口を開いた。
「最近忙しいのに時間取ってくれてありがとネ、マスター」
「なあに、チャーニー嬢の持って来る掘り出し物にはつねづね趣味……ああいや、実用的な面で期待させてもらっているからね。最近、西の山の麓の魔物の動きが活発化しているものだからなにぶん装備の拡充が必要で……この大きさ、上等な装備品を持ってきてくれたってことだろう?」
「魔物なんているのか?」
口を挟んでしまったが、ふと聞き慣れない単語が出てきたので差し込んでしまう。
ネットゲームにもMobやボスなんてものはいたが、似たようなものだろうか。
「ああ、西の森に小鬼が何匹も湧いてね、近隣の村の警備費がかかって仕方ないんだよ、一網打尽にできるならそれこそ嬉しいことはないんだが――― っと、紹介が遅れたね。チャーニー嬢の付き人としては初めて見る顔だ、いつもはギデオンが来るはずだから……ジュエゴの街の冒険者ギルドマスターだ、名前はいつも覚えてもらえないからギルドマスターでいい」
「オルカ、付与術師のオルカと言います、日頃店主ちゃんがお世話を……」
「だァれがお世話になっていますだヨッ!ってなわけでマスター、ウチにもよーやく付与術師が来てくれたってワケ、おかげですっごーいいいモノが手に入ったってワケよー……金庫空っぽにしてはないよネ?」
「ほう付与術師か!とうとうそちらにも来たというわけか……いやあ幸先がいいなあ!大丈夫だとも、私のポケットマネーは少し心もとないが金庫には冒険者皆の活躍でそれなりに金がある。それにランクの高い冒険者に上等な装備を貸し出せば、いい結果も見えてくるもの……開けていいか?」
ギルドマスターはうずうず、といった様子で、既に箱に手をかけている。
この中に入っているのは自分が付与をした装備品だ、けっこうな大きさだったが自分のインベントリに入れていたので持ち運びは苦労しなかった。
とはいえこのインベントリ、スキルとしてはこの世界で上等なものに分類されるようで、安易に人前で使うとやっぱり目をつけられるらしい。ここにいる秘書は信頼できるということで使わせてもらったが、亜空間じみた場所から1mくらいの長い箱が出てくるさまを見て口に手を当てていた。
ううむ、ネットゲームにおけるあたりまえにできていたこととの剥離に慣れるまでしばらくかかりそうだ、なきそう。
「いいヨ、見てみて」
「そうでないとな!どれどれ……ほーう、ほう。銀装飾に先端の宝石、それにこの使い慣れた感じ……ふむ、手立ての魔術師が使っていた業物の杖と見受けるが……っていうかこれ、リリアナ嬢のものでは……?」
「また博打でスったからって渡されたのヨ」
「またあのお嬢さんは……」
あの喫煙者黒髪魔女のどうしようもなさを理解しつつ、見ているとギルドマスターが手に取った。
「ふむ……”解析”を使っても?」
「どうぞどうゾ~」
「ふむ、では……”解析”」
店主ちゃんが意地の悪い笑みをしながら言い、ギルドマスターが解析スキルを使う。ああ、兜をかぶっているとちゃんと兜の外に魔法陣が出るんだな、さすがに判定かぶったりしないか、と感心していると、おぉ、おぉ…おぉー!といった感じにギルドマスターの声が大きくなる。
店主ちゃんがまたまたにったりと悪い顔になり、そして、三本指を作って彼に見せた。
「“みっつ”あったでショ?」
「ああ…!それに見たことのない付与だ……これは個人的にも心が躍る…!エイダ、ここには誰も入れるなよ!」
「了解いたしました、お茶はどうします?」
「即買いだ、すぐに終わる!」
自分は欲しかったんだが……と、エイダと呼ばれた茶髪ショート眼鏡秘書さんが入り口の鍵を締める。一方のギルドマスターさんはというと興奮さめやらぬ様子で、これはいくらか、この効果は?とひっきりなしに店主ちゃんに質問攻めをしていた。
「お値段はあとで~…として、詳しいコトはこの”付与した”オルカが詳しく説明するヨッ」
「丸投げしおったな…!店主ちゃんきたない、まあするけど」
このオルカ、説明は好きである。
さて、今回取り付けた”付与”は―――
「“増幅の”と”再装填”、それから”シャワーの”さ」
「“増幅の”なら聞いたことがあるが……確か、威力や範囲を増幅するものだったな、貴重だ。だがうしろの2つは聞いたことがない、説明を頼めるかオルカ殿」
「もちろん、今回引き受けたのは魔法の杖、それもシルバー系ってことでMP伝導率が高いから発生速度は気にしなくてもいい、ってことでこの3つにしたんだ。”再装填”はリキャストタイムを短縮するから発生速度の早いシルバー系装備と相性が良くて速射型メイジのお手軽強構成だね、それに”シャワーの”をつけることで範囲攻撃を可能にしたんだ」
「シャワー?」
「弾が分裂して拡散するようになる付与だよ、それに”増幅の”をつけることで一発あたりも強力にするって寸法さ。いわゆる固定砲台型ビルドのメイジに向いてるやつで、範囲Mob狩りにおいては最強って言われてる装備さ、基本はこれに―――」
「待った待った待っタ!」
店主ちゃんにまったをかけられてしまった。
まあそんなものだ、強力な範囲攻撃をひたすらに連射して一面を火の海にするタイプのビルド用装備で、この付与コンボのお手軽なところはスロットがみっつあれば十分に機能するということになる、レベルがある程度まで行けばこれを使って急激にMob狩りレベリングができるというのがメイジやウィザード系の育成が楽な所以だろう。
そのためランクが上がれば空いたスロットでのカスタマイズ性も高く、さらに大型敵には複数ヒットも望めるこれは付与術師にとっては対メイジプレイヤーへのマーケットの稼ぎ用付与として大人気だったほどだ。
ちなみに”シャワーの”、蛇口につけるとシャワーになる、しかもお湯も出せる。
エフェクトでしかお湯だということはわからなかったネットゲームと違ってこっちでは実際にお湯が出るんだろう。
「とまァ、説明でおおよそはわかっタと思うかラ、ここでお値段交渉にいっていいかナ?」
「いいとも! ……とはいえ強力なものだ、さすがに用意できる自信は……難しいな」
「ウチがそっちの金庫把握してないわけないでショ? ……金貨にして」
店主ちゃんが指をくるくる回す。
こういうお値段提示の瞬間ってすごい心躍る、たぶん1!10!100!とかって数字を少しずつ並べていくんだ。
「1!10!100!」
それみろ。
「しめて金貨で300枚!」
「ふうむ……払えないほどではないが……むむむ」
「―――の半分!!」
「……!?」
ほう、50%オフか……。
自分の作ったものであるとはいえ、ここにおける自分の知識というものはやはり足りない、この値段交渉は店主ちゃんに任せるほかないのだ。しかし半額、薄利になることは違いないだろう、もとの武器は元手はかかっていないとはいえ、一度売ればある程度そこに基準が設けられる。
理由があってのことなのだろうと、そのまま見送った。
「そ、それは赤字というものでは?チャーニー嬢、我々を思ってくれているなら……」
「そーでもないヨっ、ただひとつ、お願いしてほしいだけ」
「……ふむ」
「これから”定期的”にこーいったモノをここに売ると思うんだけどサ、それがどこから出た、とかとーぶん秘密にしてほしいのヨ。今はまだその時じゃないっていうか……つまり、独占けーやくってのをさせてほしいノ、信じられる相手だけに売れたほうが、ウチらも都合いいしネ」
「我らだけが独占というのは聞こえがいいが……しかし、それでいいのかねチャーニー嬢は。君たちが行えるならそれは名誉になり、勢力を拡大するのにも役に立つ。それにそれらを定期的に生産する手段は――― まさか、オルカ君が?しかし、”みっつの付与”は熟達した付与術師が年にいくばくかしか成功させないものだと言うが……」
「毎日できます」
「冗談だよな?」
「アンタは自分が規格外ってことを認識しテ!」
ぺこっ、と店主ちゃんに頭をはたかれる。
さすが初期プリセット髪だ、簡単には崩れないぜ。
「ってまァ、むしろこいつが外にいま知られるとめんどーいのヨ。それだからウチらがそれなりに力を戻して、こいつを抱えきれるようになるまで信頼できるマスターんとこでだけ売りたいナっていう話。もちろんマスターは戦力の増強にしたっテ、お金に替えたって損はしない、ただマスターを挟むことで、そこで防波堤になって欲しいノ」
「そのための半額と、独占契約ってことだね。なあに、私はこの街の冒険者を取りまとめる立場にあるゆえ脅しやそこらには屈するほどではないさ……安心してくれ、約束は守る。だから引き受けよう、エイダ、君も約束できるか?」
「適切な手当が出るのでしたら遂行致します」
「ということだがチャーニー嬢」
「おっけー、オルカ、わかった?」
「わかるない」
「どっちやねン」
「承知いたしました」
「よーし」
じゃあ、と店主ちゃんがカバンから一枚の紙を取り出す。
ああ、なるほど契約書か、こっちでも紙でやるんだな。
証明する方法はあるんだろうか?やっぱり指紋とか、あるいは魔力を通す的なのだろうか?こういうときドキドキしてしまうのは、仮にもファンタジック世界を愛していたネットゲームプレイヤーゆえだろうか、さてどうするかと見ていると―――
「ッ」
「ヒエーッ」
店主ちゃんとギルドマスターが指先に軽く針を刺し、血を一滴垂らした。
いたそう、なきそう、ないてる。
「えっなにしてるの……自傷癖あるの?病院いこ?」
「契約も知らないでよーく行商人名乗れたネ……血判だヨ、マナの性質は人それぞれだかラ、精霊魔法の使える審判官みたいなヒトに言うと誰がいつ書面をかわしたかわかるノ……いったいからあんま好きじゃないケド、んまー商売人やるならこれくらい慣れないとネ」
「ヒエーッ……自分一生民間人でいます……」
書面に見事に血が垂れているために死体が持っていたと言われると納得しかねない契約書を、二枚用意してお互いに持つ。これで契約は成立なのだろう、しかしなるほど便利だなあ、ネットゲームをやっていた頃はログのSSを取ったりテキスト保存された会話ログを漁ってGMに通報しあとは野となれ山となれだったけど、一応ちゃんと法が通ってる感じか。
でも傷口ちょっと危ないんじゃないかって思ったらニッサがふたりにヒールの魔法をかけた。これは自分も知っているHP20%回復のと同じだろう、指先の傷口がみるみるふさがってつるすべな肌になる、回復魔法便利だな……自分もサブクラスでそっちを選んでおけばよかった。
なんて言ってるうちにちょっとした雑談の話になり、しかしここに慣れたふたりの会話なんてちんぷんかんぷんなのでただ固まる像のように生きるようになる。なんでも西の魔物の話がメインに、やれ金等級の冒険者だの、やれどこぞの偉い人が来るんだのでもちきりだ。
私は石、銅、鉄――― 無機物なのだ、こころはない。
……しばしそうしていると顔の前で手を振られる、およ、終わったのかな。
「行くヨー、オルカ。寝てたノ?」
「んあっ、あと5分」
「キミが立たないと出られないノっ」
せかすものだから立ち上がって、扉の前まで移動する。
そうすると送り迎えかギルドマスターさんが寄ってくれるのだが、これがまたでかい、ほんとにでかい。なるほど荒くれの長たるものこうでなくてはならないということか。兜は脱がないまま、また声をかけてきた。
「オルカ君、私からもひとつお節介をさせてくれ」
「オルカです」
「確かにみっつの付与のできる者は世界にそれなりの数がいよう、だがそのほぼすべてが国や大きなギルド、マジックサークルの抱えとなっているということを知っていて欲しい。それだけの価値がある、ということだ……そして、それはすべて能力は等価、ゆえに最後は生産力によって価値を決められている、ということになる」
「毎日作ってたらまずいっすね……」
「ハハハ!もしできるなら君は規格外の規格外ということだ、それを忘れないで欲しい。力の使い方を、是非に誤らないように……それと、頂いた杖は適切な人物に売ろう、いい買い手を知っている」
「毎日働かなくていいってことかな……」
理想の生活では…?
惜しむらくはアプデが来ないことだ。
「ではさらば、また会えるのを楽しみにしているよ」
「ありがとうございます、ただひとつ」
「何かな?なんでも」
「兜脱がないんです?」
「鎧ならいいんだがこちらは勘弁してもらえると……」
なるほど、どんな人にも見られたくないものはあるよな。
実はこの図体ですっごい童顔だったりするのかもしれない。
帰り際、入り口に差し掛かったら『おい』と道をふさがれた。
さっきの冒険者だ、なんだこんどこそ挑みにきたのか、こっちには店主ちゃんとニッサがいるんだぞ、自分を例え仕留めても第二第三のニッサがお前たちを仕留めるだろう……この生命は踏み越えるためにヒエーッ肩をつかまないでヒエーッ。
「あんたポーンギルドのヤツだろ」
「ヒエーッ、ハイッ…」
「いつも助かってるぜ、俺らのできない依頼を引き受けてくれたり、掘り出し物売りに来てくれたりよ」
「ハ、ハイ……アザッス……」
「この筋力増加の腕輪もな、そこの子が売りに来てくれたんだ。おかげでランクも上がったしなにより……おっとすまねえ!お帰りだったな、また来いよ!!」
やっぱ冒険者ギルド好きになったわ。
また来よう。
そうしよう。
おふとんと乳母車は伝わる人には伝わる
折り鶴におやつあげてこなきゃ…