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2話-メイリオの短剣~ポーンギルド~



 誰もが身なりが決して良くない、だがなにかしらの通り道になってるんだろう、ちらほらと鎧や剣を携えた者が見える貧民街を通り抜けメイリオに案内されていったのはその最奥、ここはきっと壁に囲まれた街だったんだろうと判断できるに易い壁際に建てられた―――


「無神論者なんで……」

「廃教会を再利用してるだけなのッ」


 現実的に言うなら三階建て住宅といった大きさの廃教会で、入り口には木製の看板で文字が描かれている。文字は曲がりくねって日本語とはまるで違っているため読め……読め…ない?いや読め……がんばれ…読める、いや読めるぞ!”ポーンギルド”って書いてある!!


 空腹で大変に憔悴していた自分の貴重な体力をすり減らして行った解読は自分でもなぜできたか理解することができず、ただ今は食糧を欲するのみ。


 帰ったわよー、と言いながら入っていくメイリオに従ってふらふらりとついていくとその中はなるほど、教会にありがちな長椅子が端にのけられたりひっくり返されたりでテーブルなどに再利用された、いうなれば見たまんまの”ギルド受付”といった形で確かに再利用だと伺える作りとなっていた。


「神をも恐れぬ所業……」

「無神論者じゃなかったの?」


 すれ違いざまに一人が出ていったのを除くと、ここだけで見える人間は六人。

 自分とメイリオを入れて八人となるが、メイリオが全員いるわね、と言ったのを聞いてここに所属する人間がすべて集まっていることを察する。というより全員食事中であったようで、教会の長椅子をひっくり返してその上に板を打ち付けた神に叛逆(はんぎゃく)するかのようなテーブルで一様に食事を摂っていた、それをよこして。


「紹介するわみんな、さっき会ったオルカよ、旅商人……なのかしら?」

「民間人です」

「そういうのいいから」

「ヒーッ……」

「とりあえずそうね、食事のあとに皆の紹介をしましょうか、あなたのこともね」


 メイリオが言い、座ってと促す。

 ひっくり返した長椅子の向かいに長椅子を並べている光景はなかなか異端的というか無限の螺旋が誕生しそうな気配を感じたが、あいにくと無神論者なのでそのへんは大丈夫だ。座ってみるとさすがに教会の椅子だったというかそれなりやわらかい、これはいい食事ができそうだ。


 謎肉まんはなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 このオルカ、満腹である。


 そうなると機嫌も上々になるというものでなかなかどうして、ここにいる六人の顔ぶれもイケて見えるようになるしなにより、メイリオ嬢の顔も少々可愛らしくもなってくる。あらメイリオ嬢、お口にライス粒がついてますわよウフフッ。


「あら、ありがと」

「どういたしましてですわよウフフ」

「あなた変な喋り方するわよね」


 もちろん素でこういうわけではないのだが、ネットゲーム内でこんないわゆる”ネタキャラ”じみた格好をつけていたものだから投影されてしまっているのだろうか、はたまた異世界転移というコテコテの事態にめぐりあって興奮しているからかもしれない。とりあえず胸にしまっておいて、並んでいるメンツを見やる。


 さてはて皆が皆特徴的だ、いうなれば―――


「紹介するわオルカ。リーダーのアーリン、タンカーのギデオン、イレイザーのケイ、アーチャーのニッサ、ソーサラーのリリアナ、それから経理……マーチャントのチャーニーよ」


 頭まで全身鎧の女、上半身裸の筋肉坊主、不安になるような布面積の痴女、一度も目を合わせてくれないビビリ症のフード少女に喫煙者の魔女……唯一最後の眼鏡のオッドアイ娘だけまともそうに見えたがどれもどいつで特徴的すぎる。


 あまりにそんなものだからひとりひとり自己紹介をしようと言われたのをもう覚えた、と答えるとまた空気が面白おかしい感じになったものの、そしたらそれで自分くらいはやっておけとメイリオに言われた。なるほど確かに、自分くらいは言っておかないと困るよな。


 しかしはてさて、自分の経歴をどう紹介しようか。


「オルカです、名字はまだない。歳のほどは二十六で友達はゼロ、故郷はさいたま。趣味はアイテム収集だったんですがちょっと今引き出せない状況で……」

「へェ~、どんなの集めてたノ?」

「次元を断つ神剣とか天に向かって射ると半日降り注ぐ矢とか……」

「へ、へぇ……」


 ドン引きである。冗談だと思われてるのか筋肉ギデオンと喫煙者のリリアナには大笑いされていたものの、経理のチャーニーは引き下がって苦笑いを浮かべていた。真面目に答えたのにぷんぷんというやつだ、お天道様も見ているぞ。


 とはいえこの微妙な空気を入れ替えねばならない。

 それが功を奏したのか、続く言葉で場が一変した。


「ジョブは”付与術師(エンチャンター)”を少々」

「わぁ…!」

「あら~~!」


 全員が沸き立つ、連れてきたことを鼻にかけているのかメイリオはふふんといった様子だ、他力本願というやつだ。


 とりわけ反応が芳しいのは痴女ケイとフードのニッサで、ニッサは一瞬だけ輝いた目と目があったがヒイッとすぐさま顔を落としてしまった、やはり自分も対抗してヒエーッって言うべきだろうか、もしかすると君とは何らかの方面で波長が合うかも知れないな。

 痴女ケイはというと、大丈夫なのかという布面積のままテーブルに座り、そして身体をこちらへ傾けてわざわざ視線を合わせてくる。普通に座れよ、と思ったがまあ彼女なりのポリシーというものがあるのだろう、周りも気にしてないみたいだしリーダーに至っては全身鎧だし、ということで自分は見逃すことにした。


「オルカ君、って言ったっけ」

「オルカです、イルカじゃないです」

「くすすっ、面白い子。付与術師……ってことみたいだけど、何を付与できるのかしら……?」

「何を、というとそうですなあ……」


 付与術師というか、鍛冶師や錬金術師のジョブを使ってても結構困る質問だ。

 なにせ使える付与は膨大で、そしてそのすべてを把握することはなかなか難しい。


 おまけに何、というあいまいな質問になると、相手が何を求めていて何と答えればいいのかもわからなくなってしまうのだ。はいできます、と言っていざ頼まれたらできませんでギルドをポイされたプレイヤーもそこそこ見ていた、そのギルドは袋叩きに遭っていたが。


 だがこのオルカ、豪胆でもある、誰もしない答えを堂々と答えるのみ。


「なんでもできます」

「言うじゃあない?じゃあ、そうねえ……おねえさんの、この、ネックレス……どう?何か”チョウドイイ”のできるぅ……?」

「ちょうどいい……チョウドイイ……」


 ギルド入団テストというものだろうか、確かにこのまま根なし草で過ごすのも不安であるのだがこの特徴的なメンツで自分がやってけるだろうか。


「あんたも大概よ」


 メイリオに横から言われた、なるほどじゃあ安心だ。


 さて、ちょうどいい、となるとやはりむつかしい。色っぽい仕草でわざとらしくネックレスを外すイレイザー痴女からネックレスを受け取ると、それをじっくりと”解析”する。ちなみにイレイザーというジョブは我がネットゲームと同様なら、殲滅力や闇討ち力に重点を置き防御を極限まで削った近接型だ、動きやすさは特に重視されなるほど、スレンダー体型は確かにおあつらえ向きだろう。

 反面被弾に非常に弱く、戦場によっては役に立たないか相手の道連れを要求されるとPvPに参加していた人から聞いたこともある。


 はてさて、この解析というスキル、非常に便利というか付与術師にはなければならないものである。

 まずアイテムがどんなものかわからなければ付与のつけようがないし、スロット数がわからなければいくつ、どういうものを適切につければいいかもわからない。耐久値や各種ステータス、さらには自分のレベルにもなるとバックストーリーまでが見えてくる。


 どうやらスロット3のケイのエメラルドネックレスは、昔火事場泥棒をして盗んできたいわくつきらしい、わるいひとだ。


「なるほどなるほど……」

「あら、おねえさんに唾つけるのはダメよ?でもちゃーんと付与できたら……考えても」


 付与術師のジョブとしてつけられるのはスロット数の都合もあり最大で八までだ。

 つまりジョブに使う最適解として選ぶならばその最大数で最大の付与をするのが正解なのだが、少ないなら少ないなりにやりくりするしかない。レベルが低いときは低いなりにするしかないのだ、もちろんスロット穴あけはできなくもないが、低い確率をドリルでひたすら空け、ときに装備を壊してを続ける地獄の日々になる。


 ああ素晴らしきドリル人生。


 しかしみっつ、みっつか。

 せめてよっつ使えると素晴らしい手札が揃うのだが……と悩みつつ、プルダウンメニューから付与を選択しスロットにはめていく。ちなみに”的中の”や”硬化の”は武器であったからあのような必中や行動不能付与を与えるだけで、装飾品や防具として使った場合にはまた違った効果を発揮するのだ。


 今回自分は、”暗視の”をはじめとしてみっつの付与を成功させた、まあ100%なんだけどね。 


「3つ入れました、もっとすごいのができなかったのが残念ですがくっ」

「いいのよいいの、わざとらしくして可愛い子ね……ほんとにみっつできたの?3つの付与の入った装備品なんて、そうそうないものだからおねえさん、お代出せないわよ? ……まあ調べればわかることよね、ニッサ」

「あ、あぃ…はい、ケイ、わたし、やる……」


 ネックレスをケイに渡すと、ケイはしばらくネックレスに目をやったあと信じられない、といった様子で見つめる。付与の際にはエフェクトが出るからわかるはずだが信じられないのだろうか、とかくフードのニッサが”わかる”ようで、彼女に手渡すとニッサは、一言ぼそりとつぶやく。


 彼女の目元に魔法陣が出現するのを見ておおっ、とマジカルチックな演出に感動していると、ニッサの解析が終わったのだろう、その声色が変わっていくのが見て取れた。


「“解析(スペクタクル)” ……っ、ヒーッ…!?」

「ニ、ニッサ……??」


 さっきまでの死にそうな人見知りさはどこへやら、ニッサはネックレスを近くで見ては、ちょっと離して見てはと繰り返し驚きもものき、それこそ信じられないといった顔をするのだ。あまりに豹変したものだからメイリオが心配して呼ぶと、正気に戻ったのかネックレスをケイにおそるおそる渡してまた、ぱさりと落ちていたフードをかぶった。


「て、”暗視の”と……”回復の”とあとひとつ、知らない効果がある……!」

「そ、そんな貴重な効果があるだけですごいのに……!?」

「オルカ、説明できる!?」

「えっ、いやできる……けど、うん、する」


 少なくとも3人、ケイとニッサ、それにメイリオが豹変したものだからもちろん自分に目は向くわけで。うむむ、こんなに大勢の前で発表するなんてどれだけぶりか……最近だとそういった機会がなかったから、ネットゲームのSNSで検証結果を発表して統計が甘いと袋叩きにされたとき以来だろうか。あれはゆるさん。


 ええい、ままよ。


「“暗視の”は文字通り夜目が効くようになる付与(エンチャント)だよ、イレイザーは確かシャドウウォークからの首刈りが基本ビルドだったはずだから、継続的にSPを消費しないようにするのは大事だしね。”回復の”も文字通りで、それはまあ説明しなくても―――」

「えっ、おねえさん言ってることわからない……すごいのはわかるケド」

「すいません自分もイレイザー育てたことなくて……」

「そう、なの」


 戦闘職は狩りがめんどうくさいのだ、生産職も似たようなものだが、完全作業と運ゲーの積み重ねはまた違うものがある。その結果お互いがお互いの育成に関して『信じらんねえ』といった顔をすることも、かつてよく見た光景だった。


 さて。


「最後”ラピッドな”は……使ってみたほうが早いかと思います、超速いです」

「そ、そうなの??わかったわ、おねえさんちょっと使ってみるから……ニッサ、一緒に来て!」

「ふぁ、ふぁい!」

 

 ただし――― と言い終える前に、ネックレスをかけたケイがものすごい勢いで扉を開けて出ていく、ニッサも一緒だったがとてもスピードに追いつけない。そうしているうちにこの場には沈黙が残り……やがて、メイリオが口を開いてくれるまで自分は、このなんともいえない空気を浴び続けた。


 あとでシャワーあびなきゃ、”シャワーの”のエンチャントもあったな。


「ね、ねえオルカ」

「オルカです」

「その……あたしの短剣にも”みっつ”ついてるの?」

「そうだけど……」


 言うと同時、また沈黙が走りまたなんともいえない空気が顔をバシーンと叩く。

 こんなところにいられるか!俺は一人で……何もできない、自分はひとりでは何もできないことを思い出したのだった、ついでにお食事にあがったのになにもせずにさっさと去ってしまうのはあまりにも無礼であると直感した。


「………自分、何かやらかしました?」


 わからなかったら人に聞く、これも礼儀。


 そうしているとようやく、魔王の第三幹部と言っても通じそうな全身鎧を着こなしたリーダーのアーリンが口を開き、見た目からは想像もできないくらい凛とした声で自分に告げる。それは魔王アーリンからの通告か、愛の告白か、それとも―――



「………オルカ君」

「オルカです」

「我らに加わる気はないか?」

「うーん……」


 ―――勧誘でした。


「ふつつかものですが」

「良かった、光栄に思うよ……ここのことはなんでもチャーニーに聞くといい」

「え”っ”」


 そっちに丸投げなのか……。

 言い、立つと歩いてきて握手を求めるアーリンと並び立つ。


 でかい、180はとりあえず超えてる、でかい、自分が178cmだったことを思い出した。

 ……こんごともよろしく……手もでかかった。




MtGアリーナ楽しいですよね

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