10話-メイリオの短剣~ポケットの中~
(´・ω・`)ふぁえーいそがしいそがしタスクがいっぱい
「それで、あたしのはどうするのよ」
「おや」
「短剣みんな持ってかれちゃったんだけど……そのうちスカッとする噂が流れるだろうし、オルカが悪いっては言わないけど武器が無くなっちゃうとねー。倉庫に置いてある古いナイフ研ぎ直そうかなあ」
「ふむ、それなら」
確かに勢いづいてしまったとはいえ、メイリオには悪いことをした。
なるほどそれならかわりをあげるべきだろう……ううむ短剣か、ナイフ系列は他の武器に比べて安価にスキルレベルを上げられるから人気なんだよな、生産職は暗殺者よろしくだいたいナイフをいっぱい懐に忍ばせているという――― もちろんこの自分も例外ではない、なおサブクラスはアサシン系じゃない。
休憩所の天幕の下で、懐から二本のナイフを手にメイリオに見せる。
さてあなたが落としたのは。
「このLv40帯エルヴンナイフでしょうか、それともこのLv70帯クリスタルナイフでしょうか」
「アワワワワワ」
「綺麗……見惚れるくらい……じゃなくて!オルカ、オルカしまって!?」
「あわわ……」
言われるがままにナイフをインベントリにしまう、うむむバレないようこっそり出したのだがまずかっただろうか……エルヴンナイフが業物と言われるとはいえ、先程宝石店に通りかかった感じクリスタルの値段程度はそれほど高いものではないと認識していたのだが。クリスタルナイフも店主ちゃんとメイリオが動転するほどのものであったらしい。
「ど、どこでそんなものをををウオッ」
「店主ちゃん落ち着いて……落ち着いて、オルカ、どこでそんなものを手に入れたの?」
「70帯のナイフはスキルレベリングにちょうどよくてなあ、コスト比を考えると40と70に行き着くんだ、Lv110装備はひとつしか手に入らないし90帯100帯はコスパが悪すぎるから持ってないからそこはごめんね……」
「は、はあ……もうあなたには驚かないほうがいい気がしてきたわ」
呆れた、とメイリオがため息。
苦労のこもったため息だ、またやっちゃいました?
ううむ、うむ、うむと唸った。
「その”なんとか帯”ってのがよくわからないケド、ヒッヒッフー……うん、落ち着いタ……ウチもある程度ポーンギルドで過ごしてたかラ”業物”ってのはよくみてきたけどさァ……ここまで、ここまでのモノ見せられると全部吹き飛んじゃうよネ」
言いつつ、店主ちゃんは周りをみる。
特に誰も見てくる気配はなく、ちらっと顔見知りが手を振ったらしい以外は何もなかった。
「誰も見てなかったのが、よかったネ」
「うぐぐ……帰ったら詳しくおはなしきかせてもらえると」
「そうねェ、オルカにはそこんとこも教えないとネ。メイリオ、とりあえず今日はかえろ、夕暮れ近いしつかれたつかれた」
「おっけー、まあお夕飯前にでもこの話はしましょ、リリーやニッサもそろそろ帰ってるだろうし。オルカが規格外とはいえ、こうもされるとあたしも参っちゃうわ、いろいろ教えないとね」
「ヒエーッ……」
スパルタ教育だろうか、圧倒的劣勢を強いられる教育だろうか。
しかし確かにまだまだ常識が足りないというものはあるのは違いない。
ううむ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ポーンギルドに帰って来るころには夕暮れが近くなっていて、なるほどこうやって一日を終えるのだという空気が道を伝ってくる。
出店はしまわれ、歩く人はまばらになり街の衛兵がちらほらと数を見られるようになるのだ、やはり勝手知らぬはファンタジー世界、夜の帳が下りるころには街の治安も一段と悪くなるのだろう。女子供だけで出歩くにはよくない時間がそろそろくる、このオルカ、二人を守らねばならぬ、STR1だけど。
ただいまを言って門構えをくぐればすぐに始まるは誘導尋問、さああれを出せこれを出せ、イチから常識おしえたるのオンパレードなのだ。あらためて自分の持ち物を検査してみないと落ち着かないとのことで、堂々集まるわ店主ちゃんにメイリオ、ニッサにあとリリアナ。ケイはまたどこかに出ているらしくアーリン団長も書類仕事が終わらないと嘆いていた。
はてさてどこから出していくかはたまた。
出品No.1の座を勝ち取るのは一体何者か。
「とりあえずしたいことは、あなたが何を持ってるか、何を即座に出せるかの把握よ。街に出る前にやっておくべきだったのかなって思ってるのはまあおいとかせてもらうとして、あなたがどんな爆弾を抱えてるかやっぱり見ておく必要があると思うわ」
「ってなワケで、協力して欲しいナァーなんて店主ちゃんのお願いだヨ」
「それは構わないんだけど、ふむむ……ああ、そのためのフードちゃんか」
「わ、わたしが、”解析”するから……大丈夫」
出てきたものがものだとして、どうやって価値やら効果を説明したものかと考えているとなるほど、ニッサがいるから大丈夫となる。彼女はどうやらギルド唯一の解析スキル持ちのようで、近くでリリアナの煙草の煙を吸ってけほけほと咳き込んでいる以外はとても頼りがいが感じられた。
というか本当にここまでずっと煙草吸ってるなリリアナ嬢。
「ふはぁー……強心剤はストックしておいたから、はぁー……ニッサが驚いて倒れても大丈夫よ……」
「ヒエーッ……」
そんなになるまで脅かしてしまったらこちらのほうが申し訳ない。
が、クリスタルナイフ程度であわわと店主ちゃんが言うあたりなくはない。
まあやってみないとわからんどんもん、さて十分なスペースを空けよう。
「とりあえずじゃあ、テーブルを端に寄せよう」
「なんデ?」
「たぶんいっぱいになる」
そう、ライドパートナーのような大きなモノも結構あるのだ。
このインベントリ、原寸サイズだとしたら死活問題である。
「さて、じゃあ……そうだな、まず一般的なものからいこう」
「逸般的じゃないことを祈るわ」
「EXヒールポーションだ、使うことがないからフルストックしてるんだ。こっちはEXマナポーション、職業柄割と使うことがあったから700個しかない」
「……ニッサ、いやリリアナ、鑑定できる?」
インベントリから取り出すわ緑色の透き通った飲料、まずい、苦い、でものどごし最高なニクい飲料EXヒールポーションである、HP最大値の50%を即座に回復してくれるすぐれものだ。基本的にはスロットに入れておいてやばい死ぬ、となった時にキーを連打し、ゴリ押しでダンジョンから帰還するときなどに使う。
マナポーションはそのMP版であり、これは付与術師の都合柄ある程度使っていた。というのも付与自体がMPを急速に消費するため、そりゃあたまの付与なら問題ないがスキルレベリングのためにひたすら付与を繰り返すときには同様連打するものであるからである。
メイリオや店主ちゃんがじっくり見るも、薬品ということで造詣がなかったのであろう、首を振る店主ちゃんを見て、傍で興味なさげにしていたリリアナに声をかけるのだ。相も変わらずどこを見ているかわからない魔女はスパスパと煙草を吸っていたが、頼まれるとはいはい、といった感じに座っていたテーブルから腰を起こしてEXヒールポーションを受け取った。
「……ふあー…はぁ、はぁ……はぁ…?」
息切れした麻薬中毒者みたいな息の整え方をするのがリリアナだ。
本家の錬金術師が見た場合どうなるのかというのはいかんとも付与術師でありかつ、この世界に常識に疎い自分には見当がつかないがしかし、リリアナは眉間にしわを寄せてポーションをひたすらに眺めている。ときにはひっくりかえしたり、またこんどは軽く振ってみたりだ、上位ポーションとはいえ兼価版で最上級ポーションなどはごろごろしているため、そこまで価値のあるものとは思えないが。
そうしていると、リリアナが突如ビンのフタを空けおや、おやや、飲んだではないか!ああっそんなまずいものを一気に!ぺっ!ぺっしなさい!あわわ……自分でもヤケになってちびちびやったときが結構キツかったのにあわわ。
しかしはて、それほど嫌な顔をしていない。
煙草のがまずいのだろうか、喫煙者にはならなくてよかった。
「……イルカ、だっけ」
「オルカです」
「ああ、オルカ……うん、いいねコレ。苦味もマイルド、のどごし最高で飲みやすい、おまけに治癒力も相当だねコレ……ははっ、王宮あたりの流れ物?そうじゃなきゃ説明つかないくらいだよー……あー、煙草でせっかく酔ってたのが切れちゃったわ……うん、それくらいすごい、ふあぁ……」
「ふぁえー……よくわからない」
きだるげに、でもちょっとだけ正気に戻ったみたいな喋り方をするリリアナ。
途切れ途切れに言葉を出しているような喋り方もあって、いまいち理解はしがたかったがしかし、そうしているとまた煙草に火をつけてつぶやいた。再び明後日の方向を見て煙をふかすのが印象的で、たぶんまた呼ばれれば振り向くのだろう。
そうしつつもしかし、最後にぼそりとだけつぶやく。
「………コレいつも持ち歩けば、ここの連中は寿命まで生きられるかもねェ……って、くらい」
「リリーが言うなら信頼できるネェ、それならニッサに鑑定させるまでもないネ」
「はい次!」
急かされるがちょっと、ちょっとまってくれ……はて、次に出せるものってなんだろう。
スロット用穴あけドリルはなんか違うし、ガチャチケットは使いみちないし、はて……じゃあとりあえず先に話題になったこれを出しておこう。
クリスタルナイフ、そんなに価値のあるものにも見えないが。
「たかだかレベリング用装備だし、クリスタルナイフに本当にそんなに価値があるのか?」
「………うーん」
言えばすぐに頭を抱えるのは店主ちゃんだけではない、メイリオもだし、なんならニッサはあわあわしていてリリアナはまたどこ吹く風だ。
確か設定上におけるクリスタルは加工が容易で装飾品に使われているといった設定で、しかしマナの伝導率が高くさまざまな魔法を付与できるといった性質を持つ――― といったものがある、が、実際には設定だけで他の武器と付与種類も強化の伸び率も同じだったはずだ。
それに各生産ポイントで簡単に採掘できるため、大量生産も容易でマーケットには安値で並んでいた記憶がある。というのがこちらの常識だったが――― 様子を見るに違うらしい。
ちなみに等級はLv10帯から10区切りで素材が変わり、鉄、鋼鉄、銀、エルヴン、ドワーフ鉄、碧鉄、そしてクリスタルと移ろいゆく。さらに上位になると黒鉄や禁断シリーズ、古代の遺物やユニークといった感じに分化していくが少なくとも黒鉄まではただの上位互換の並びであった。
「いいオルカ、そのナイフ一本であたし達が何日生活できるかわかる?」
「えーっと……3時間」
「なんでよ!?」
マケボを漁ると金銭などあっというまに消し飛ぶのだ、マケボ戦士の道は険しい。
と、いうのは冗談として、さてはて、あの銀杖ですら結構行くということなのでそれなりに行くのだろう、このオルカ、金の価値もまだ把握しておらぬ。
「半年よ、”ギルド”が半年過ごせるだけのお金が手に入る……わよね、チャーニー?」
「ウチの鑑定は当たるヨ」
「そう、食費に売り物の材料費、ここの維持費に出張費用、装備調達費からあたし達の給料に至るまでぜーんぶまかなえるのよ、おまけにあなたが持ってるものだからまさかと思うけど”付与”されてたら……」
「スロットは無事だが何も入れてないぞ」
「それならよかった……ってそうじゃなくて!」
「……まァ、オルカに言っても割と仕方ないことはあるシ、とりあえず出せるモノ出してもらってこれは簡単に出しちゃダメーって言えばいいと思うヨ、ニッサは都度解析お願いネ、ウチはメモるから」
「わ、わかった……!」
店主ちゃんがすらっと羽ペンのメモを用意し、ニッサはクリスタルナイフを手に取る。
それにしてもニッサ、フードちゃんと自分が呼ぶのはフードをかぶっているからだが、ここでも脱がないんだな。お部屋にいるときくらいは脱いでいるのだろうか、ここには仲間しかいないはずだが宗教的な理由でもあるのだろうか。
そうちらちら見ていたら目が合い、フードを深被りされた、なきそう。
「……にしてもクリスタルの武器、ねェ」
「そんなに珍しい?」
「オルカの故郷じゃありふれたモノだったのかもだケド、このラインゲルト王国の、それも生産地からずーーっと離れたスピエールの街じゃァそうそう見かけられるモノじゃないネ、一生この街で暮らすなら毎日製造者ギルドに通って一回二回見かけられるかくらい?それくらいには貴重だヨ、クリスタルならともかく”クリスタルの武器”なんテのは」
「はえー……鍛冶師の知り合いは山ほど持ってたけどな……」
「ツテがあるならそのうち紹介してネ?まァ、知ってるかわかんないケド、クリスタルってのは加工が難しくテ……このへんはニッサが詳しいか」
「ふぇっ……」
フードを深被りした矢先でのキラーパスだ、ニッサはふえぇとなるし、自分もヒエーッとなる。
とはいえ言われて説明しないのも悪いと感じたのだろう、ニッサはおどおどと説明しだした。
「えっとね、クリスタルはね……装飾品としては人気だし加工が簡単なんだけどね、武器にするには加工も取り扱いも難しいの」
「加工が」
「うん……もともとマナが水晶に宿ったものだからすっごくキレイだけど、だから簡単に壊れちゃうくらいには硬くは、ない。でも正しく加工すれば、正しく魔術を書き込めれば……マナを流したときに何にも負けない武器になるの、マナを流したときだけ機能するからすっごく……すっごく、取り扱いがむつかしいけどでも、まさに……”魔剣”になる」
「それはなんというか物騒な……でもなるほど、なるほど」
「それと、ね、クリスタルの鉱脈の取り扱いはエルフ、しかできないから、あんまりこっちに、でて……こない」
なるほどこちらではだいぶ事情が異なるらしい。
加工も難しい、生産元も不安定、おまけに強力とあっては確かに価値も高騰しよう、なるほど。
「それに、オルカのそれ……すっごく、よくできてる。エルフも簡単には作れないくらい、本当に”不自然なくらい”精密」
「製造元が製造元だしな……ううむ、ありがとう、なんとなくわかった……これはうかつに出すとあぶない、と」
「まァ、それを持ってるオルカをたどればそのナイフ、その製造元、その流通ルート、芋づる式に手に入るだろうーっテ思うだろう連中がこの街にもわんさかいるーってことだネ。だからそいつは封印封印、さあ封印よー」
言われるがままにインベントリにクリスタルナイフをしまいこみ、はて、次は何をと思う。
クリスタルでこれなら黒鉄なんかはどうなってしまうのだろう、あいにくと持っていないがでも、相当の値打ちになることは間違いないだろう。はてさて、注意深くひとつひとつ出していかねば……おっと、これは。
「ガチャチケはどうだろう」
「どこの商品券?」
「うう……」
当たれば一攫千金のガチャチケが商品券……うう。
とはいえここでガチャをどうやって引けばいいのかわからないし順当か。
そうなると、ふむむと頭を悩ませる、悪いお知らせか良いお知らせかどちらを先に聞きたいかのアレだ、はてさて自分から見ても紙くずなものから順次出していくかはたまた”とんでもないもの”から出していくか……はて、どうしよう。
「心臓がもたないから、一番いいのがあるならそれを見たほうがいいかもね」
「なるほど納得」
メイリオの言葉を信じよう、確かになるほどクリスタル程度でこれなら最初にどでかい衝撃を与えておけばあとから驚かれることはそうそうないだろう。カモフラージュ作戦だ、これは前のより大したことないですよ、先のを今買っておけばお得かも、なくなっちゃうまえにさあさあ、みたいな。
なるほどこのオルカ、納得である、では出してみようではないか。
といっても非常に自らの目から見ても高価で効果てきめんだと思うものは複数種類あり、しかしぱっとみて”凶悪”なものはひとつしかないだろう。
インベントリの隅にしまいこまれていた黒色剣のアイコンをぴぴっと押し、スライドさせてお外に放り出す。さて、皆の衆これが我が全力全開、とくと見よ、ストーリーイベント最終報酬、されど使わない皆も持ってるということでインベントリにしまい込まれていた不憫最強である。
「必殺―――」
ゴトリ、と置かれるは黒色の剣一振り、豪奢な飾りはなけれど洗練された刻みのある一振り。
かつて魔王が振ったひとつで今亡き主を待つ一振り、ポケットの中の戦場である。
―――魔王剣。
サテライトまおうけーん!




