秋山修一は剣道青年。
初めてなので、優しくしてね
秋山修一
彼は剣道に熱中する普通の高校生だ。
剣道だけで無く。しっかりと勉学に励み、ソコソコの成績も修めている。
性格もすこし堅いが、温厚で真面目な好青年でもある。
しかしあまりに剣道が好き過ぎて、とうとう剣術まで手を伸ばしてしまった。
剣術といっても、別に道場に行く訳ではない。
動画を見ながら、見よう見まねのなんちゃって剣術だ。
しかし彼はある意味で妥協しなかった。
先ずは得物とばかりに、彼は鉄芯入りの木刀を自作してしまった。
流石に家族が止めた。
薄暗い自室で、木刀を見ながらニヤニヤと、熱に浮かされた様な顔を浮かべているのだから、当たり前だ。
修一からすれば、ようやく、納得の行く木刀が出来ただけで、他意はない。
薄暗かったのは、只単に日暮れに気が付かない位に、没頭しただけだ。
しかし幾ら訴えても、家族は納得しない。
終いには「修一、母さんと一緒に警察に行こう!」
母親に泣きながらすがり付かれ、兄弟や父親も「俺も一緒に行くよ」とばかりに賛同する。
しかも両腕は、逃さないとばかりにガッチリキャッチ。
そういう訳で木刀は諦めた。
そうしないと、剣道ばかりか家族離散の危機だからしょうがない。
しかし、剣術にかける情熱は半端なかった。
代案に、一番重い竹刀(自作)に、安全対策と重さの増加を兼ねて、タオルと脱脂綿を年輪の様に、交互に何重にも巻き付けたのだ。
一見すると、竹刀に分厚いタオルが巻かれている様にしか見えない。
しかも、水を吸わせれば、重量は増し増しだ。
これなら家族も安心だ。
そして、雌伏の時を悶々と過ごし、部活では発散できない、溢れんばかりの情熱をイメージトレーニングで誤魔化してきた。
胴着は……OK。
袴は………当然。
足袋は………完了。
襷は………バッチリ八の字掛け。
鉢巻は………今回はいらない。
装備はクリア。
状況。弟は部活。妹は何かの集い。父親と母親は町内会の旅行。ご近所さんも同じく不在。
状況装備ともにパーフェクト!
雌伏の時は終わりを向かえ、いざ行かん剣術の道!
足袋のまま庭先に出ると、やや八相の気味に大きく構え、呼吸を深く繰り返し………瞑目。
そしてイメージする。
相手は自分だ。
自分に打ち克つこそ剣の道。
そして、カッと目を見開き一気に踏み込む。
目指すはイメージした自分。
何故か金髪でイケメンに見えるが、今は気にしない。
腰には刀でなくサーベルみたいただが、気にしない。
無駄なキラキラオーラも半端ないが、気にしない。いや逆に気合いが入る。
服装も王子服しかも、カボチャズボン。
笑いそうになるが、我慢する。
「キェェェーースト!!」
流派独特な気合い声「猿響」を腹の底から絞り出し、一気に間合いを詰める。
狙うは相手の肩口のみ。
そして
一閃!
バキっ!と、自分の肩口に食い込み、真剣だったら間違いなく叩き切る確かな手応えと音。
「これがゾーン」
修一は、初めて味わう究極の集中ゾーンの体験に、感動し震えた。
遠くで苦しそうに「チェンジ!」と聴こえた気がしたが、それ処ではない。
その感覚を忘れない内に、また瞑目する。
「これぞ二ノ太刀要らずの示現流………凄い」
あの確かな手応えと、魅せられた流派の素晴らしさ故に、中々集中出来ない。
何時までも立っても無駄にイケメンな自分が現れないからだ。
「示現流半端ね………人には向けれないな」
しかし、剣術の危険性を理解できたのは、彼にとっては大きかった。
「まぁ、自分自身なら良いか」
修一はより一層、剣道と剣術に励む事を決心した。
あの薄ら笑いを浮かべた派手イケメンな自分自身に、打ち克つ為に。